テレワークと都市農業

気候変動により、世界各地で集中豪雨や土砂災害、干ばつ、洪水、強い台風やハリケーンなどの異常気象が深刻化している。SDGsの13番目の目標「気候変動に具体的な対策を」では、気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じることを目指している。

こうした気候変動による農作物への影響を解決するとして注目されているのが「都市農業」だ。

都市農業とは、人口の多い都市部で行われる農業のことを指し、「アーバンファーミング(Urban Farming)」や「都市型農業」とも呼ばれる。日本では、平野部・山間部・都市部の3つに分類される農業のうち、都市農業が近年増加傾向にある。特徴的なのは、農作物の生産にとどまらず、教育や防災、コミュニティの活性化など、さまざまな面で地域に貢献している点だ。

【関連記事】都市農業とは?特徴や農法を解説

さらに2024年には、アメリカの法律誌「The National Law Review」が、“パンデミックをきっかけに急増したテレワークが都市農業を後押ししている”とするユニークな記事を掲載。BBCでも取り上げられるなど注目を集めている。
多くの企業がリモートワークやハイブリッドワークを導入した結果、オフィスの空室率が20%を超え、アメリカ各地で空きスペースの有効活用が課題となっている。そうしたなか、建設コストや資金調達の難しさから住宅転用が進まない一方で、垂直農場などの都市農業が、費用対効果が高く環境にも優しい代替策として注目されているという。The National Law Reviewは、「現在、一部の不動産所有者は、より費用対効果が高く、環境に優しく、税制上のメリットもある代替案として、垂直農場に着目している」と紹介している。

このコラムでは、都市農業のメリットは何か、実際に国内外にどのような事例があるのか紹介したい。

都市農業のメリットとは?

テレワークと都市農業

まずは改めて、自然の多い地方ではなく人口の多い都市部で行う農業のメリットとは何か、振り返ってみたい。

農林水産省では都市農業の6つの機能を下記のように挙げている。

  • 新鮮な農産物の供給
  • 農業体験・交流活動の場
  • 心やすらぐ緑地空間
  • 都市住民への農業への理解の醸成
  • 国土・環境の保全
  • 災害時の防災空間

新鮮な農作物の供給に留まらず、都市農業では都市部ならではの役割が様々あり、多面的に機能していることがわかる。

都会に住み「農業は地方や田舎で行われるもの」という考えでいると、日々口にする農作物への関心が薄れ、それらを選ぶ際には値段や量のみで選ぶことになりがちだ。しかし、都市部に農地があることで、人々は緑地空間に癒されるだけでなく、農業を身近に感じることができ、食への関心も高まるだろう。
また、都市農業には物理的なメリットもある。消費者との距離が近いことで運送コストや輸送燃料、中継地点での保管にかかるエネルギーも削減できるうえ、新鮮な野菜をスピーディーに供給できる。こうした無駄が省けることや、地産地消に貢献できることが大きなメリットだと言えるだろう。

ここからは、実際の国内外の事例を紹介したい。

事例1:カナダ・カルガリーの展望台に、垂直農場が誕生

テレワークと都市農業

カナダのアルバータ州カルガリーにある高さ190メートルの展望塔「カルガリー・タワー」は、1967年の建設以来、地域の有名なランドマークとして展望台、パノラマレストラン、土産物店を併設してきた。2024年、この展望台に新たな事業として本格的な屋内農園が誕生した。

広さ6,000平方メートルの農場では、イチゴ、ケール、キュウリなど数十種類の作物が栽培されている。温室栽培の3~5倍の量の野菜を、10分の1のスペースで、98%も少ない水で栽培できる。
このプロジェクトを行うAgriplay Ventures社は、このシステムをカルガリー市内の他の地域にも導入し、市街地の活性化に貢献したいと考えているという。

事例2:世界最大級パリの都市農園。展示場の屋上で栽培

フランス・パリでは、2020年に世界最大規模の屋上農園「Nature Urbaine」がオープンした。パリ南西部にある国際展示場「パリ ポルト・ドゥ・ヴェルサイユ見本市会場」の屋上にあり、土地の広さは約14,000平方メートル。屋上で作られる作物は30種類以上だという。

設計は、都市農業デザイン企業「Agripolis(アグリポリス)」。同社は他にも、パリ市内複数の都市農園において設計や運営に携わっている。収穫した作物は、パリの市民やスーパー、レストランなどに直接届けられるため、輸送コストやCO2排出量も最小限で抑えることができる。

事例3:スウェーデン、スーパーの店内で栽培した野菜をそのまま販売

スウェーデンのスタートアップ企業「Swegreen」は、室内で農作物を栽培できる垂直農業ユニットを開発している。この垂直農業ユニットを導入することで、水の消費量やCO2排出量を削減しながら農薬を使うことなく、レタス、ディル、ミント、パセリなど、最大 100 種類の作物を毎日収穫できるようになる。

スウェーデンの大手スーパーマーケット「ICA(イーカ)」では、Swegreenの小型タイプの垂直農業ユニット「Saga」導入しており、店内で毎週2,000~3,000個のサラダやハーブを生産できるという。店内でパンを焼いてそのまま店頭に並べるスーパーがあるように、垂直農業ユニットを使って栽培した野菜をそのまま店内で販売することが可能だ。

【関連記事】スーパーの店舗内で野菜を栽培し、そのまま販売。スウェーデンの垂直農業スタートアップ

事例4:イチゴ栽培に必要な⽔は従来の1/10、農業排⽔ゼロを実現

テレワークと都市農業

クラフト苺・BERRYを生産する三重県の「遊士屋株式会社」と膜式栽培農法など先端農業に取り組む、沖縄県の「株式会社CULTIVERA」が共同創業した「The Good Green Farms」。2022年5月16日に、環境負荷を抑えながら生産したイチゴを、シェフやパティシエをはじめとするプロフェッショナル向けの限定販売を開始した。

CULTIVERAの開発した栽培技術では、特殊なファイバー積層で形成した空間を気化水分で満たし、元来植物が持っている微細な「毛細根」を発生・活性させることで、効率よく水分や栄養を吸収することができる。気化水分で育てるため水の消費量が従来の栽培法の約1/10にもなるという仕組みだ。また、土壌の代わりに空間で育てるため、土をほとんど使用しない省土壌栽培を実現している。

【関連記事】栽培に必要な⽔は従来の1/10、農業排⽔ゼロを実現。気候変動に負けない苺が発売

事例5:アルコール発酵で発生するCO2を植物栽培に活用

白鶴酒造 植物栽培

兵庫県神戸市の老舗日本酒メーカー「白鶴酒造株式会社」はアグリテック系のスタートアップ「スパイスキューブ株式会社」と共創。日本酒造りをよりサステナブルに進化させるべく、「発酵由来CO₂の利活用実証プロジェクト」を2025年4月より開始した。

日本酒を生産する工程では、お米に含まれるでんぷんを微生物が糖化・発酵することでアルコールが生産される。
プロジェクトは、白鶴酒造資料館内にごく小規模の醸造所として設置されたマイクロブルワリー「HAKUTSURU SAKE CRAFT(ハクツル サケ クラフト)」にて実施。ブルワリーの室内から捕集した発酵由来CO₂を濃縮し、小型の室内農業装置に送る。ここではバジルやシソ、ミントなどのハーブ類を栽培し、収穫後は白鶴酒造が製造する醸造酒やクラフトジンの原料として利用する計画だという。

【関連記事】酒造メーカー白鶴の循環型ものづくり。アルコール発酵で発生するCO2を植物栽培に活用

まとめ

今回は、国内外で実施されているさまざまな事例を紹介した。

都市農業の普及について、現時点ではまだ先の未来の選択肢だと感じている人も多いのではないだろうか。しかし、国内外で実用化が急速に進む今、私たちの想像以上に、都市農業が日常の食材として定着する日は近いのかもしれない。

【関連記事】

食器メーカーが販売するコシヒカリ一等米。捨てられる食器から生まれた肥料で栽培

【参照サイト】BBC:A new life for empty offices: Growing kale and cucumbers
【参照サイト】Money Trees (and Office Greens): Why Real Estate Developers are Transforming Vacant Office Spaces into Trendy Urban Farms
【参照サイト】Agripolis
【参照サイト】クラフト苺生産のBERRYと膜式栽培農法のCULTIVERAが、気候変動時代に環境負荷を抑えながら美味しい苺を生産する「The Good Green Farms」を共同創業
【参照サイト】発酵由来CO₂の利活用実証プロジェクト!白鶴酒造資料館内のマイクロブルワリー「HAKUTSURU SAKE CRAFT」の発酵由来CO2で植物を栽培開始
【参照サイト】Meet SweGreen: This Swedish vertical farm start-up grows vegetables inside of supermarkets

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table source 編集部では、サステナビリティやサーキュラーエコノミー(循環経済)に取り組みたいレストランやホテル、食にまつわるお仕事をされている皆さまに向けて、国内外の最新ニュース、コラム、インタビュー取材記事などを発信しています。
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