
顧客の印象を左右し、滞在時間やリピート率、売上にも直結するといわれている、店舗の内装デザイン。近年の内装デザインといえば、木目や植物などを多用したナチュラルなデザインや、コンクリート打ちっぱなしやスケルトン天井などのミニマルなデザインがトレンドだ。
一方で、消費者の環境意識の高まりに伴い、こうした見た目のおしゃれさだけでなく、サステナビリティに配慮された店舗づくりも注目を集めている。2022年4月の「ホットペッパーグルメ外食総研」の調査では、回答者の約3人に2人が「環境や持続性に配慮した飲食店を積極的に利用したい」と答えている。今回のコラムでは、サステナブルで見た目もおしゃれな内装のアイデアについて、サービスや実例を交えつつ紹介していきたい。
01.障がいのある人の作品を内装デザインに
近年「パラアート」とも呼ばれ、その豊かな独創性に注目が集まる障がい者アート。2021年12月に、モスバーガーチェーンの取り組みを表現するフラッグシップ店舗としてオープンした「モスバーガー原宿表参道店」では、障がいのある人々の作品を内装デザインとして採用し、アートギャラリーのような空間を演出。これは、モスバーガーチェーンが2016年から実施してきた「MOSごと美術館」という取り組みの一環だ。多くの人にアート作品に触れもらう機会を創出することで、障がいがある人と社会との繋がりを生み出す架け橋になることを目指している。
また、2022年3月には同店で働く社員を含む46名が「ユニバーサルマナー検定」3級を取得。高齢者や障がい者、ベビーカー利用者、外国人など多様な方々への接客時に適切なサポートができることを目指しているという。
02.和紙を使った、店舗内装サブスクサービスを利用
「株式会社O-line(オーライン)」が運営するサービス「四季 SHI-KI」は、四季に応じて年間4回まで、施工込みで月額40,000円から内装を変えることができる。
和紙を用いて施工されるため、内装の改修にかかるコストや時間、廃棄物も大幅に削減することができる。さらに、豊富な和紙のデザインにより、和風だけでなく洋風にもアレンジ可能。和紙には室内の湿気調整や空気の浄化作用もあるうえ、日本の伝統工芸による空間の演出は外国人ゲストにも喜ばれそうだ。
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03.タンスに眠る、着物や帯を使ったアートパネルを飾る
先に紹介した和紙と同様、外国人に人気の高い伝統工芸品が着物だ。着物の着付けやレンタルなどの体験サービスも需要がある一方で、日本の家庭には約7億枚もの着物や帯が着用されることなく眠っているといわれている。着る機会もなく、手入れが大変なうえ保管スペースも必要なため、次世代に渡らず廃棄する家庭が増えている。
マーケティングコンサルティング会社「bonobo LLC.」は、アンティーク着物・帯のアップサイクルを行う事業「i-kasu(イカス)」を運営。衣類としての役目を終えた着物や帯の生地を活用したインテリア・アートパネルの作成・販売を行なっている。公式オンラインショップで販売されているパネルは、日本の伝統を感じさせるものからモダンなものまでデザインも豊富だ。サイズ展開も幅広いので、レストランやホテル客室の雰囲気や広さに合わせてコーディネートすることができる。
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04. 家具のサブスクリプションサービスを利用
個人・法人向けに月々440円から自由で手軽に家具・家電の利用・交換ができるサブスクリプションサービス「CLAS(クラス)」。必要なときに必要なものをレンタルし、不要になったら返却する、という循環型の「所有しない利用」を促進することを目的としている。
返却品には専門のリペア職人によって修繕やリフレッシュを施し、再貸し出し可能な状態にして次のユーザーに貸し出すことで、商品を廃棄せずに循環させる。SDGsの目標12「つくる責任つかう責任」の達成に向け、循環型でサステナブルな「ものを捨てない社会づくり」の実現を目指している。
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05.リペアされた、テーブルや椅子を使用
衣料品および生活雑貨を展開する「株式会社ユナイテッドアローズ」は、店舗で使用していた家具や什器をリペアして販売するプロジェクト「RE:Store Fixture UNITED ARROWS LTD」を2018年にスタート。リペアしたソファやラウンジチェア、テーブルなどを新たな商品として販売している。
このプロジェクトは、店舗の移転や改装等による空間デザインの更新により、店舗で使用してきたこだわりが詰まった家具や什器を手放さなくてはならない現状に対する「もったいない」という想いからスタートしたという。取り扱う商品は、創業以来店舗で使用していたテーブルやチェスト、ソファなどの海外からの買付け家具や、オリジナルで製作した什器、ディスプレイで使用していた備品など、いずれも歴史を感じる味わい深いものばかり。2022年6月23日から、家具・インテリア通販サイト「FLYMEe」で販売されている。
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06.地産地消に配慮した、国産木材で作るカウンター
2022年、ミシュランのグリーンスターと1つ星を獲得した「Nœud. TOKYO」。“オールサステナブル・フレンチ”をコンセプトに掲げる東京・永田町のフレンチだ。
地産地消・旬産旬消を実現するためシェフが産地に赴き、自然の循環に配慮して作られた食材を選定しているNœud. TOKYOでは、地産地消を考えた国産杉のカウンターを使用しており、内装でも地産地消に取り組んでいる。また、壁材も安土桃山時代の土をリサイクルして作られたものだという。
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07.飲食店から回収したコルク栓を再生し、スツールやタイルに
東京都内の飲食店を中心に廃棄予定のコルク栓を再資源化し、新たな製品や再生素材として世の中へ発信するプロジェクト「TOKYO CORK PROJECT」。天然素材で、断熱・遮音・防水・弾力・軽量・絶縁性など多くの機能特性がある、コルク。2018年の酒税調査によると、飲食店1店舗でも毎月1000本以上のワインのコルク栓が廃棄されており、さらに東京では年間でボトル1億5000万本分、日本全体のおおよそ3分の1をこの都市で消費している計算になるという。同プロジェクトによる、コルク栓の回収実績は約400万本(25トン)、回収拠点は全国約750か所にもおよぶ。
リサイクル工程や商品製作では、障がい者施設と協力し就労支援を実施。障害者福祉施設やデザイナーズホテルといったさまざまなパートナーと共に、コルク栓を再資源化して作られた積み木やスツールなどの生活雑貨やインテリアなどを広く提案している。
08.リサイクル素材を使った装飾
「スターバックス コーヒー ジャパン株式会社」のリソースポジティブカンパニー実現への戦略店舗「スターバックス コーヒー 皇居外苑 和田倉噴水公園店」では、天井部や客席エリアに、廃棄されてしまうキャンバスや糸、漁網を再利用し制作されたアートを設置。天井から下がる照明は、リサイクルガラスや和紙を用いて、ハンドクラフトならではのあたたかみを演出している。
店内家具は、国産木材を100%使用。古くなったら入れ換えるのではなく、修理しながら長く使い続けることに重きをおいているという。
09.出店工事の際に出た廃棄物の約85%をリサイクルへ
先にも紹介した「スターバックス コーヒー 皇居外苑 和田倉噴水公園店」では、装飾だけでなく建材も環境配慮されたものを使用している。
コーヒーの豆かすを練りこみ、CO2を固定化したタイル床や、間伐材を使った什器を店内に導入。また、出店工事の際に出た廃棄物の約85%を、鉄や紙の原材料としてマテリアルリサイクルに回し、残る約15%をバイオマス燃料などにサーマルリサイクルしている。
10.堆肥化できる、再生可能な建材を使用
兵庫県淡路市のサステナブルガーデン「Awaji Nature Lab&Resort」内にある、自家製野菜や淡路島産食材など地産地消の料理を提供する農家レストラン「陽・燦燦(はる・さんさん)」。
レストランの設計は、建築業界で最も権威のある賞のひとつ「プリツカー賞」を受賞した建築家 坂茂(ばん しげる)氏監修のもと、環境に配慮し再生可能な材料を活かしたデザインを採用。堆肥として再利用できる 「茅(かや)」を屋根材として活用するほか、再生紙による「紙管(しかん)」を柱の建築材として利用している。
11.木材の捨てられる部分を活用
コスメティックブランド「SHIRO」が展開する、渋谷ヒカリエの「SHIRO CAFÉ」。カウンターや壁に天然素材をベースとした左官材を使用し、中央の什器には北海道大雪山のナラ材を採用している。
ナラ材の白い帯は「白太」と呼ばれ、木の外周部分のこと。通常、白太部分は板材に加工する段階で切り落とされるが、この捨てられてしまう白太部分を使用することで、白で統一された空間に、木のやわらかさを特徴的にデザインしている。
12.東京2020オリンピックの余剰木材による装飾
持続可能なフードシステムを実現するための飲食店格付けプログラム「FOOD MADE GOOD 2022」で中四国初の三つ星を獲得した、岡山県のイタリアンレストラン「トラットリア ケナル」。同店では、天井やテラス、テーブル、ベンチなどでさまざまな木材が使用されており、それらの素材は「繰り返し使えるか、自然に還すことができるか、廃棄されるはずだったものを活用できないか」といった目線で選ばれている。
店内の天井の丸棒は、東京2020オリンピックのために用意されていた材料で、コロナ禍で規模が縮小したことで不要になってしまった足場用丸棒を引きとって活用しているという。テラス席や店内にある丸太の椅子は木の形をそのまま活かした最低限の加工で作られているため、加工によって発生するCO2の量も少なく、廃棄部分も最小限に抑えられている。
13.デニムの端材や卵の殻など、廃棄素材由来の壁材を使用
廃棄物ゼロを目指す「zero-waste(ゼロウェイスト)」をコンセプトとした、zero-waste cafe & bar 「æ(アッシュ)」では、スタイリッシュなブルーグレーの壁面に廃棄デニムを使った壁面素材を使用している。
日本エムテクス株式会社による壁材「NURU DENIM」は、大手デニム工場から排出された、デニム端材を原料とし、左官材へアップサイクルした商品。接着剤を使用していないため、デニムの質感を残せるだけでなく、古くなったら水をかけ再度練り直すことでまた左官材として使用することができる。排出される端材をアップサイクルし、さらにリユースもできるサステナブルな壁材だ。同社では、主原料に卵の殻を使った、調湿・消臭機能のあるペイント「エッグペイント」や壁紙「エッグウォール」も製造・販売している。
14.季節の装飾に、過去に使用した枝葉を再利用
ザ・リッツ・カールトン京都では、高さ約2mの「サステナブル・クリスマスツリー」を設置。昨年も使用した「七夕の竹」「枯れた盆栽」「ソテツ」に加え、今年新たに「紫陽花」「ドラゴン柳」「グレビレア」を再利用。フローリストがひとつひとつ手作業でゴールドに色付けした合計6種類の再利用素材を組み合わせ、華やかながらも趣のあるクリスマスツリーに仕上げている。
また、イタリア料理「ラ・ロカンダ」の入口にも、今年新たに加わった再利用素材である「蓮の実」や「びわの葉」を含めた計4種類の再利用素材を使用した装飾を設置。さらに、エントランスには、再利用した「枯れた盆栽」などを使った一対の装飾を設置している。
15.フラワーロス対象の花を装花として活用
美しいのにも関わらず行き場を失い廃棄されてしまう花や、生産者から出荷される際、品質やサイズなどが規格外であることを理由に廃棄される花のことを指す、フラワーロス。花き業界では生産者から流通、販売を経て消費者に届くまでの過程で、年間10億本の花が廃棄されており、その経済損失は年間で1,500億円と推計されている。
「株式会社ethica」は、フラワーロス対象の花を100%使用し、独自の乾燥技術によるドライフラワー「エシカルフラワー」を制作・販売している。同社の独自製法は通常のドライフラワーの製造工程と異なり、乾燥機による人工乾燥と自然乾燥を組み合わせることで、エシカルフラワーでしか表現出来ない色と質感を生み出すことができるという。また、この取り組みはフラワーロス削減のため労働過多になっている花き業界の構造や働き方改革にも繋がっている。
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まとめ
いかがだっただろうか。今回のコラムではオープンやリニューアルの際に知っておきたい建材や壁材をはじめ、営業時間外や短期の休みがあれば導入できそうな家具や什器、装飾アイテム、サブスクやレンタルなどのサービスまで幅広く紹介した。
冒頭でも触れた通り、店舗デザインは、お店に対する印象を左右し、滞在時間やリピート率、売上にも直結するといわれている。近年、地産地消や食品ロス、ヴィーガン対応など、環境や多様性に配慮したメニューを提供する飲食店が増えているなかで、食事だけでなく店舗デザインにまでお店の「サステナビリティ」を反映させることで、他店との差別化が図れるのではないだろうか。
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【参照サイト】 酒類の取引状況等実態調査実施状況の公表について(速報) 平成29事務年度分(平成29年7月から平成30年6月)
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【参照サイト】 日本エムテクス株式会社