海藻 海外

日本人にとって身近な食材である海藻類だが、いま世界では「未来食」の1つとして注目を集めているのはご存知だろうか。地球温暖化による気候変動、アジアやアフリカなど第3世界の人口増加 による食糧問題 などを解決する、新たな活用として期待が高まっている。

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さらに海外で認知されるようになった背景には、健康への関心の高まりやサステナブルな食材の需要増加だ。コロナ禍で在宅時間が増えたことにより、運動不足や食べすぎによる摂取カロリー過多で健康やダイエットを意識する人が多くなった。

日本では習慣的に海藻類を食べており、その良さに気づきにくいが、海外からの視点で見てみると思わぬ魅力と出会えるだろう。本記事では海藻類の魅力や重要性、海藻の活用例など、飲食店が押さえておくべきポイントを紹介していく。

「海外の人は海藻を食べない」は迷信だった

海藻 海外

海外では、海藻類を食べる文化が日本ほど一般的ではなかった。「海藻は日本人にしか消化できない」という誇張された迷信があるが、これは生の海苔に限った話だ。実際、海苔は加熱さえすれば細胞壁がこわれ、消化されやすい。現に海外では「SUSHI」として海苔巻き寿司が食べられており、海藻はヘルシーでダイエットに最適だとされている。

海藻を食用とする地域は、アジアの沿岸地帯だけではない。イギリス諸島やハワイなどでも食べられてきた。海藻が食べられるようになったのは、陸上食用植物とされる葉野菜やハーブなどが少なかったことに起因している。海藻は栄養価が高く、豊富なミネラルで食物繊維を含んでおり、栄養素の補給に役立つことから食用として重要視されてきた。

たとえばイギリス諸島のアイルランドでは、「カラギンモス」と呼ばれる海藻を使ったデザート、「ダルス」という紅藻を使ったスープ料理が食べられている。海藻の栄養価と風味を活かしたものであり、アイルランドの食文化において重要な役割を果たしてきた。

海藻類を食べるのは日本人だけと言われているのはなぜ?

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なぜ海外では、海藻類を食べるのは日本人だけと言われているのだろうか。その理由は複数ある。

日本の海の恵みで育まれた独特の風味や食感である

海藻類は”日本料理の一部”として知られ、日本の食文化と結び付けられているため、日本人が海藻を食べるイメージが強くなっていることが挙げられる。日本の食文化といえば和食であり、なかでも出汁は「料理のキモ」といわれるほどだ。

また、海藻の風味や食感は独特であり、他の国や地域では一般的ではないことも要因として考えられた。海藻は日本の海の恵みで育まれた食材で、独自の風味や食感がある。鳴門の渦潮が生み出す、激しい激流で育った「鳴門ワカメ」はしっかりした歯ごたえと風味が特徴だ。食べ慣れていない海外の人にとっては独特の食感だろう。

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日本人はヨウ素過剰摂取の珍しい民族である

日本人は、世界で1番多くヨウ素を摂取している民族だ。海藻と切っても切れない関係にあることから、WHOのヨウ素推奨摂取上限の数値は、日本人だけ高く設定されている。

昆布などの海藻はヨウ素が豊富だ。出汁のほとんどで昆布が使われており、和食には出汁が欠かせないため日本で生活する以上、ヨウ素の過剰摂取は避けられない。ヨウ素は甲状腺ホルモンの合成に必要な栄養素であり、正常な代謝や成長に重要な役割がある。しかし、過剰に摂りすぎると甲状腺機能の乱れや健康リスクの恐れがあるため、適切な範囲内で摂取しなければならない。

日本人はヨウ素を過剰摂取しているといった理由から海藻類を食べるのは日本人だけというイメージが強くなったと予想される。

アジアでは日常的に食べられている

「海藻を食べる国」というイメージは日本が代表的とされるが、じつは世界で1番多く海藻を食べている国は中国だ。日本より人口が多いこともあるが、昆布や海苔の使用量は世界一。韓国でも海藻を活用した伝統料理は多く存在している。中国の「海带丝(海藻の絲状煮)」や韓国の「미역국(海藻スープ)」などは現地の人々にとってなじみ深い料理であり、世界各国のレストランでも人気のメニューだ。

フィリピンやマレーシア、タイなどの東南アジアでも日常的に食べられている。セブ島では海藻の茎を使ったサラダが人気だったり、寒天ゼリー「Agar-Agar(マレーシアの寒天)」は家庭の定番デザートだったりと、日本以外でも食用とされていることがわかる。

海外で海藻類の注目度が高まる理由

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アジアでは海藻類は昔から食べられていたが、ここ最近アメリカやヨーロッパからの注目度が高まってきた。主な理由は持続可能な食材への関心、健康やダイエットへの意識の高まりだ。

ブルーカーボンの役割

持続可能な食材への関心の高まりとともに、環境や海洋保全の観点からも注目を浴びている。

SDGs持続可能な開発目標の14番目「海の豊かさを守ろう」の添え書きには”海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する”とある。海藻類は二酸化炭素を吸収する海洋植物として、国連環境計画(UNEP)の報告書で「ブルーカーボン」と命名され、世界的にも注目された。海藻類はこの目標達成において、重要な役割を果たす存在と位置づけられている。

このような背景から、近年ヨーロッパでも環境や海洋保全の観点から”優秀な食材”と注目され、海藻の栽培方法やサプライチェーンなどの研究が進行中だ。海藻の活用によって、より持続可能な未来を築くための一翼を担っている。

海藻類がスーパーフード

健康への意識の高まりも海藻ブームの一因といえるだろう。海藻類は低カロリーでありながら豊富な栄養素を含んでいる。食物繊維やミネラル、ビタミン、抗酸化物質が多く含まれており、健康促進や美容にも効果的だ。これらのプラス要素が注目を集め、海藻の人気を高めている。

またSNS上では、海藻類を”スーパーフード”とする情報発信も活発だ。2023年2月には海外のTikTokで「シーモスジェル(海藻をペースト状にした食品)」がトレンド入りしたことで海藻は”話題のフード”として注目された。体に必要なミネラルやカルシウム、鉄、亜鉛などが摂れることにより腸活や免疫力の維持などの効果が期待できるとして、2023年のトレンド予測にも海藻がランクインした。

ニューヨークでのコンブ養殖合法化

2021年6月ニューヨークでコンブ養殖合法化されたことも大きな転機だ。これまでニューヨーク州ロングアイランド湾では、コンブの商業的な養殖は違法だった。しかしコンブが二酸化炭素を吸収する作用をもつとして、資源量を増やすべく養殖が解禁となり「コンブ法案」が施行される。

コンブ養殖の合法化は、ニューヨークの食文化に新たな風を吹き込んだ。海藻類がニューヨークの食文化に取り入れられたことで、多くの人々がコンブ料理を楽しんでいる。地元のレストランや食品メーカーがコンブを活用したメニューや商品を開発するなど、ニューヨークの海藻業界は成長をつづけ、注目度はますます高まっていくことだろう。

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海外における海藻ブームの具体例

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アメリカで2023年の食のトレンド予測に選ばれ、注目を集めている海藻類。日本人は身近であるが故、魅力に気づきにくいがアメリカやヨーロッパでは、健康やダイエットへの意識が高まり海藻ブームが到来している。

アメリカやヨーロッパではほぼ食べる習慣がなかった海藻だが、昨今のコロナ禍で在宅時間が増えたことで健康やダイエットを意識するようになり、低カロリーでたんぱく質が豊富な海藻が注目を浴びた。たとえばアメリカのレストランでは海藻を使ったサラダやスムージーが提供され、健康志向の人々に支持されている。

それぞれ各国でどのように海藻類が食べられているのか紹介していく。

アメリカでは『ダルスベーコン』

アメリカでは海藻の人気が急上昇している。オレゴン州立大学の研究チームが「ベーコン味の海藻」を開発し、特許を取得した。ベーコン味の海藻とは紅藻の一種「ダルス(Dulse)」を使用したもので、カロリー制限や宗教上の理由によりベーコンを食べられない人たちから、代替品として注目を集めている。

実際にサンフランシスコでは海藻ベーコンを使った『ヴィーガンベーコンチーズバーガー』が販売された。海藻ベーコンの主原料は”ダルス”といわれる赤い海藻。ダルスは北欧で古くから食べられてきた海藻で、焼くとまるで本物のベーコンのような味わいになるそうだ。他にも海藻を使った人気アイテムとしては、海苔が練り込まれたバターや昆布のピクルスが挙げられる。

ベジタリアンやヴィーガンの人々にとって、栄養価の高い代替品として受け入れられ、食事スタイルに新たな選択肢を提供できる。健康志向の人々にとっても魅力的な食材だろう。

オーストラリアでは『ペリペリチキンサラダ』

オーストラリア「クイーンズランド大学の研究チーム」の論文によると、海藻養殖は温室効果ガスの大幅な減少になり、環境負荷を低減できる可能性があると発表した。

さらにCSIRO(豪連邦科学産業研究機構)とジェームスクック大学の共同による「海藻に飼料に混ぜて与えることで牛が放出するメタンガスを削減することができた」という研究結果も注目を集めるキッカケになった。

もともと西欧地方の食文化には海藻を食べる習慣はないといわれていたが、シドニーやメルボルンなどの大都市では、海藻を使った料理が人気を集めている。海藻には豊富な栄養素が含まれており、健康志向の高まりやヴィーガン食の人にもマッチしているため、多くのレストランやカフェで海藻を取り入れたメニューが注目を集めた。たとえば『メカジキと海藻のラップロール』『ペリペリチキンサラダ(チキンや野菜、海藻が入ったサラダ)』は地元民だけでなく、旅行者にも人気だ。

イタリアでは『ゼッポリーネ』が定番

海苔やわかめなどの海藻類はイタリアでも食べられている。イタリア全体ではなじみは少ないが、沿岸地域では独特の食文化だ。

ナポリ料理の『ゼッポリーネ(zeppoline)』はピザ生地に海藻を混ぜて揚げる料理。レストランでは前菜として出てきたり、魚介フリットの一品だったりと意外に身近な食べ物である。青のりを混ぜて作られることが多いが、この青のりはイタリアでも採れる海藻だ。他には「マウル」「マウロ」と呼ばれる紅藻はシチリア島のカターニア近郊で昔から親しまれている。海藻をレタスやフルーツとオリーブオイルで和えていただくサラダも人気のようだ。

さらに和食ブームと食糧問題が相まって、「未来食」として海藻が注目を集めている。なかでも寿司は人気を博しており「WASYOKU」というより「SUSHI」と言ったほうが通じるほどだ。そんな寿司とともに海藻もイタリア人の食生活にはおなじみになってきた。

海外で海藻が貴重な食料となる可能性とは

海藻 海外
海外で海藻類の注目度が高まる一因として、持続可能な食材の特性が挙げられる。海藻は環境に優しい栽培方法で育てられ、他の食材と比較しても栄養価が高い。また、海藻の栽培には多くの水や土地を必要としないため、持続可能な食料として将来的な需要の増加にも対応できる可能性がある。

さらに海藻は水中で光合成をして、二酸化炭素を取り込んで酸素の放出が可能だ。海藻の栽培によって海洋の生態系の保護や環境問題への対策が期待されている。海藻は高い収量と短い成長期間をもち、栽培においても比較的容易に育てることが可能だ。これらの特性から、海藻は将来的には世界の食料安全保障に貢献する可能性があると考えられている。

海藻は持続可能な食材としての特性がある

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海藻類は海外で注目度が高まり、新たな食材としての地位を確立しつつある。持続可能な食材としての特性をもち、環境にやさしい栽培方法や栄養価の高さ、将来的な食料安全保障への貢献など、さまざまな魅力をもっているといえるだろう。

これからの時代、海藻類はさらなる注目を浴び、多くの飲食店やホテルレストランにおいても重要な食材となることが予想される。飲食店やホテルレストラン経営者は、海藻の可能性を見逃さず、その魅力を活かしたメニューや料理の提供に取り組むことで、競争力を高められるだろう。

新たな食文化の創造や健康志向の顧客ニーズに応えるべく、海藻を活用した創意工夫が求められる。

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