本来食べられるにも関わらず、廃棄される食品を指す「食品ロス」。世界では、飢えや栄養不良に苦しむ人々が約8億人いるなかで、食料生産量の3分の1に当たる約13億トンの食料が毎年廃棄されている。「日本では、お茶碗約1杯分(約136g)の食べ物が毎日捨てられている」という農林水産省の報告を目にしたことがある方も多いのではないだろうか。
近年では消費者の環境・社会意識の高まりとともに、こうした食品ロスの問題にも注目が集まりつつある。2021年8月にはスターバックスコーヒージャパンが、閉店前にフードメニューの一部を20%割引で販売することで食品ロス削減を目指すプロジェクトを開始。さまざまなニュースやSNSで取り上げられ、話題になった。
【関連記事】 スターバックス、閉店前にフードを20%OFFで食品ロス削減。売上の一部は寄付へ
農林水産省でも「食品関連事業者から発生する事業系食品ロスを2000年度比で2030年度までに半減させる」ことを目標にしており、一般家庭から発生する食品ロスについても同様の目標設定が進められている。最近ではこうした目標を達成するために、各々の取り組みに加え、消費者や事業者、飲食店など立場を超えた視点からさまざまな意見を出し合い、“社会全体で取り組む”ことが重要視されている。
食品ロスを考えるワークショップが開催
そうしたなか、2023年1月30日「食品を捨てずに活用する方法を考える〜Re Born Food Project〜」と題し、食品ロスを考えるワークショップが開催された。食品ロスの活用技術を持つ企業や、活用を検討する食品関連企業、また食品廃棄に対して課題を持つさまざまな人が集い、食品のアップサイクルについて意見交換を行う場だ。
ワークショップを主催するのは、個人と企業と社会をつなぎ、社会課題解決と新規ビジネスを創出することを目指す「一般社団法人社会デザイン・ビジネスラボ」。共催として、「株式会社JSOL」、「fabula株式会社」「株式会社コル」が参画している。
ワークショップ当日、東京都渋谷区の会場「hoops link tokyo」には、企業担当者だけでなく、事業者、技術者、教育者、学生、などさまざまな人たちが集まった。なかには赤ちゃんを連れた参加者も。和やかな雰囲気のなか、まずは一般社団法人社会デザイン・ビジネスラボ事務局の土井氏のナビゲートで、会の流れの説明が行われた。
食品アップサイクルの最新の事例を知る
続いての「フ―ドロスへの取り組み紹介」では「fabula株式会社」代表の町田氏より、同社の手掛ける「100%食品廃棄物から作る新素材」が紹介された。このユニークな新素材は、規格外野菜や加工工程で出てしまう皮やかすなどの⾷品廃棄物を乾燥させ、粉末状にし、⾦型に⼊れて熱圧縮してつくられる。接着剤や凝固剤も使っておらず100%天然由来のため生分解も可能で、壊れた場合でも再び同じ工程で作り直すことができる。加工の際の調整次第では、原料本来の色や香りを残すこともできるという。
さらに、原材料となる食材によっては建材にもなりうるほどの強度のある素材を作ることも可能だ。例えば、⽩菜の廃棄物で作った素材は、コンクリートの曲げ強度の約4倍もの強度がある。今後は、食品以外のものを使用していないという特徴を活かし、「⾷べる」ことも視野に⼊れた研究を進めていくという。
次の取り組み紹介では、30社のパートナー企業と共に未利用資源のバリューチェーン構築に取り組む「株式会社コル」代表の福元氏より、「UP FOOD PROJECT」の紹介が行われた。同プロジェクトでは、「アップサイクルで食を持続可能にUPdateする」というミッションを共有するパートナーとともに、未利用資源に秘められた価値の発掘・価値の付加・最適なマッチングによって未利用資源のバリューチェーン構築を目指している。先に登壇したfabula株式会社も、UP FOOD PROJECTのパートナーのひとつだ。
今回のイベントでは、数ある取り組みのなかから、未利用クラゲから抽出したコラーゲン粉末・液体を使ったアップサイクル商品の開発や、「カスカラ」と呼ばれるコーヒー果皮を粉末にしたアップサイクル食品やメニュー開発などを紹介。こうしたUP FOOD PROJECT の取り組みは、循環型経済をデザインするプロジェクトやアイデアを世界から募集するアワード「crQlr Awards(サーキュラー・アワード)2022」で、「Best Bridge Builder Prize (ベストな橋渡し役賞)」と「MMHG Upcycle Prize(MMHG アップサイクル賞)」を受賞しているという。
それぞれの参加者の視点から、アイデアを出し合う
続いてのワークショップは、チームに分かれスタート。チームメンバーでアイデアや意見を出し合いながら、段階を踏みつつ進めていく。「食品廃棄再利用の市場浸透における課題」「食品廃棄再利用の市場浸透に対してのアイデア出しおよび共有」と進めていくなかで、不明な点があれば各チームに加わっている運営スタッフに気軽に質問することができるため、スムーズに取り組むことができる。「チームメンバーの全員が初対面」という参加者も多いなか、自己紹介を交えつつ和やかな雰囲気で意見交換やアイデア出しが行われた。
参加者からは「自分とは全く違う業種の人たちから出てくるアイデアがとても新鮮でした。」という感想をはじめ、「参加する前は、『ちゃんとしたアイデアや意見を言えるだろうか』『他の参加者に比べて知識不足なのでは』と不安な気持ちもありましたが、皆さんがお互いのアイデアに向き合い、意見を膨らませたり新たなアイデアのきっかけとして捉えたり、とても有意義なワークショップだったと思います。遠方から来た甲斐がありました。」「企業の担当者として参加しましたが、登壇者の方々をはじめ会場全体の雰囲気が和やかだったこともあり素直に『楽しい時間だったな』と思えるイベントでした。ワークショップで出たアイデアは社内で共有し、新たな施策の立案に活かしたいです。」といった意見も。
ワークショップ後半には、一般社団法人社会デザイン・ビジネスラボ法人会員でもある「株式会社JSOL」の新規事業検討プロジェクト「Re Born Food Project」のフ―ドロス解決案についての説明と意見交換も行われた。食品廃棄物の処理に悩まされる食品関連企業に対し豊富なアップサイクル型手法によるアプローチで、企業のフードロス問題解決を支援するプロジェクト。食品のアップサイクルについては画一的な技術が存在せず、原料となる食品素材によりその活用方法が異なるといった特徴がある。同社はアップサイクルの市場への啓蒙を行いながら、食品関連企業とともにアップサイクルの取組を促進するよう支援を行っている。
イベントでは、いしはらこはる氏による文字やイラストを使ったリアルタイムでの記録「グラレコ(グラフィックレコーディング)」も行われ、ワークショップ後には、撮影のため作品の前に多くの参加者が集まっていた。活発に意見が飛び交いつつ、終始和やかな雰囲気のなか行われた今回のイベント。消費者の危機意識が日々高まる「食品ロス」の解決について、個々での取り組みだけでは、アイデアの幅や取り組みの規模にも限界がある。こうしたイベントへの参加は、知識やヒントを得るだけでなく、共にサステナビリティの実現を目指すパートナーも見つけるきっかけにもなりそうだ。
【参照サイト】 一般社団法人社会デザイン・ビジネスラボ
【参照サイト】 fabula株式会社
【参照サイト】 UP FOOD PROJECT
【参照サイト】 株式会社JSOL
【参照サイト】 消費者庁:食品ロス削減関係参考資料