2021年3月に閣議決定された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(プラスチック資源循環法)が、いよいよ2022年4月から施行される。レストランやカフェなどで提供されるストローをはじめ、テイクアウト用のフォーク・スプーン・ナイフなど、12品目の特定プラスチック使用製品が削減の対象となっている。
今回のコラムでは、この「プラスチック資源循環法」の把握しておきたいポイントと、具体的なプラスチック削減策について事例を交えて紹介する。ぜひ、対応策検討のヒントとしてご活用いただきたい。
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目次
プラスチック資源循環法とは?
「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」は、プラスチックをとりまく様々な環境問題に対応するため、プラスチックの廃棄を削減し、資源としての循環を促すことを目的にした法律。2021年3月に閣議決定された同法は、「プラスチック資源循環法」「プラ循環法」「プラスチック新法」とも呼ばれ、2022年4月1日からの施行が決定している。
同法では、3R(Reuse・Reduce・Recycle)+Renewableの促進を掲げている。
・Reduce(リデュース):廃棄物の発生抑制 <物を大切に使おう。ごみを減らそう>
・Reuse(リユース):製品・部品の再使用 <繰り返し使おう>
・Recycle(リサイクル):再生資源の利用 <再び資源として利用しよう>
・Renewable(リニューアブル):持続可能な資源に替える<資源を循環させよう>
対象事業者は、提供方法や提供する特定プラスチック使用製品の工夫の中から、有効な取組を選択し、“特定プラスチック使用製品の使用の合理化”に取り組むことが求められている。
対象事業者
スーパーやコンビニ、ホテルなど国が特定プラスチック使用製品として定めた12品目を提供する事業者。
・各種商品小売業(無店舗のものを含む)
・飲食料品小売業(野菜・果実小売業、食肉小売業、鮮魚小売業及び酒小売業を除き、無店舗のものを含む)
・宿泊業
・飲食店
・持ち帰り
・配達飲食サービス業
・洗濯業
なお、前年度において提供した特定プラスチック使用製品の量が5トン以上である事業者は「特定プラスチック使用製品多量提供事業者」として、取組が著しく不十分な場合に勧告・公表・命令等を受ける可能性がある。
対象製品(12品目)
フォーク・スプーン・ナイフ・マドラー・ストロー・ヘアブラシ・くし・カミソリ・シャワー用キャップ・歯ブラシ・ハンガー・衣類用カバー
求められる取り組み
提供方法の工夫
・消費者に必要・不要の意思確認をする
・不要とした消費者にポイントの還元などをする
・消費者に有償で提供する
・提供した消費者に繰り返し使うよう促す
提供する製品の工夫
・繰り返し使うことができる製品の提供
・再生可能素材の利用や軽量化などの工夫がされた製品の提供
・商品やサービスに適したサイズの製品の提供
プラスチック使用削減に向けた目標の設定や消費者への情報提供、実施状況の把握や情報公開などのチェック項目が定められている(環境省特設ページを参照)。
次項では、提供の廃止を含め、代替品への置き換えや取り組み体制の整備など、実際に飲食店で行われているプラスチック削減の取り組みについて、事例を交えて紹介したい。
【今回の対応策と参考事例】
1.プラスチック使用製品の提供を廃止
「海洋プラスチックごみ」というと、真っ先にプラスチック製ストローを思い浮かべる方も多いのではないだろうか。2018年に1本のストローがウミガメの鼻に刺さっている動画が拡散され、全世界に衝撃を与えた。以来、スターバックスやマクドナルド、すかいらーくHDなど、数多くの大企業がプラスチックストローの削減に動きだしている。
アメリカでは2018年5月にサンフランシスコ市やニューヨーク市などの市議会で「市内の飲食店がプラスチック製ストローの提供を禁止する条例案」が提出され、6月にはカリフォルニア州マリブ市で全米の主要都市としては初めて全面禁止が開始した。EUでは2019年に「使い捨てプラスチック流通禁止指令」が可決され、2021年7月3日よりストローやマドラー、カトラリー、皿などの提供禁止が実施されている。
2.プラスチック代替品を提供
プラスチック製ストローの代替品として、紙をはじめ、竹やサトウキビ、藁(わら)、穴の空いたパスタで作られたストローなど、さまざまな商品が開発・販売されている。全国のカフェ・レストラン・ホテルなど累計約800店舗で採用されている株式会社4Natureの「サトウキビストロー」は、各店舗から回収された使用済みのストローを千葉県佐倉市にある自社の堆肥処理場に集めて、堆肥化している。
また、ファミリーレストランチェーンを運営する株式会社すかいらーくホールディングスでは、2020年2月から持ち帰りや宅配用のカトラリーを、石油由来のプラスチック製のものから植物由来のバイオマスプラスチック製のものへ、そして2022年1月には更に木製へと段階的に切り替えた。バイオプラへの変更によって環境負荷削減を進めてきたが、さらに使い捨てバイオプラ製カトラリーの使用量を2020年比で75%削減することになるという。
一方で紙製や木製のカトラリーだと、強度や衛生面で不安を感じる人も多いかもしれない。大王製紙(株)では独自開発した高密度厚紙「エリプラペーパー」を使用したカトラリーを製造している。FSC認証を受けたバージンパルプを100%使用しており、強度だけでなく耐水性・耐油性も兼ね備えている。
3.繰り返し使える代替品への切り替え
お店の中で飲み物を提供する場合、使い捨てでなく繰り返し使用できる素材のストローやマドラーを使用することができる。陶磁器やガラス、シリコン、ステンレスやチタンなど金属から作られたストローだ。陶磁器製美濃焼ストロー「MYSTRO(マイストロ)」のように、多彩な色柄のバリエーションが目を引く商品も生まれてきている。
4.軽量化などの減プラスチック
デザインを工夫することでプラスチック使用量を削減している商品も登場している。持ち手の部分に穴をあけることで軽量化されたカトラリーは、コンビニのローソンやファミリーマートで導入されている。ファミリーマートのプレスリリースによると、持ち手に穴のあいたスプーンは従来のスプーンに比べ約12%のプラスチック削減につながるという。
5.必要・不要の意思確認
お客さまにストローやカトラリーの必要・不必要の確認を行うことも、対象製品の必要以上の消費を減らすひとつの方法だ。しかし、2020年の7月にレジ袋が有料化された際、確認する手間が増えたという声もあった。最近では、日本語の通じない外国人や聴覚や発語に障害のある人など、コミュニケーション支援を必要とする人のために「コミュニケーション支援ボード」を用意している店舗も増えてきている。お客さまに、ボードにあるイラストや文字を指差してもらうことで意思確認ができる。すぐに活用できるデータが、自治体のホームページで無料公開されているため、チェックしてみてはいかがだろうか。
6.有料での提供
千葉大学では2019年に、プラスチック廃止&紙ストロー有料化の実証実験を行っている。大学生協で500mL紙パック飲料を購入した人に対し、プラスチックストローの配布を一時停止し、代替えとなる紙ストローを1本5円で販売したところ、48.6%の利用者がストローの購入を控えたため、ストローの使用量が半減したという。
有料化に切り替える場合、事前に店内掲示物を作成したり、メニュー表へ記載するなど準備を行うことで、注文の度に説明や案内をするという負担が軽くなるかもしれない。定期的にホームページやSNSなどで、発信することも効果的だろう。
7.提供を辞退した人にポイントを還元
プラスチック製品の提供を辞退した人に対し、店舗で使えるポイントを発行することも推奨されている。ポイントの還元率や特典によっては、リピート率の向上につながる可能性もある。また、ポイントカードアプリやLINEショップカードなどのデジタルポイントカードなどを利用することで、カードを作る手間や資源の削減にもつながる。お客さまの持ち運ぶ手間がなくなり、紛失を防ぐこともできるだろう。
8.取り組み体制の整備
サスティナビリティ委員会やサステナビリティ推進室などの推進組織が中心となって、目標の設定や進捗状況のモニタリング、達成内容の評価を行うことで、プラスチックの有効利用や使用量削減に向けた取り組みを効果的に進めることができる。
また、社内で取り組みのアイデアを持ち寄る場を設けたり、推進リーダーを任命することでスタッフ一人一人がプラスチック問題に向き合うきっかけにもなるはずだ。さらに、有識者を招いてセミナーやワークショップを開催したり、共創パートナーと一緒に取り組みを進めることで、より効果的な社内意識の浸透が図れるだろう。
まとめ
いかがだっただろうか。今回のコラムでは、この「プラスチック資源循環法」の把握しておきたいポイントと、具体的なプラスチック削減策について紹介した。しかし今後、12品目以外にもドリンクカップやカバー、箸袋や容器なども削減対象になる可能性がある。実際に、すでに12品目以外のプラスチック製品の削減を進めている飲食店もある。
マーケティング・リサーチ会社、株式会社マクロミルの行った調査によると「環境に配慮したパッケージや製品を提供する企業はイメージが良い」と回答した人は約80%にのぼった。「多少不便になっても環境に影響のあるパッケージや使い捨ての製品は必要ない」との回答が約54%、「価格が上がったとしても環境に配慮したパッケージの製品を買いたい」と回答した人も約36%だった。プラスチック循環法対策に限らず、飲食店がサスティナビリティに取り組むことで、お客さまの共感を得るお店づくりにもつながりそうだ。
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【関連ページ】 NIKKO Sustainable Selection:サステナブルな調達をお考えの飲食店・ホテルの皆さまへ
【参照サイト】 環境省:特定プラスチック使用製品の使用の合理化
【参照サイト】 すかいらーくグループ:プラスチック問題対策について
【参照サイト】 エリプラ製品シリーズ
【参照サイト】 ファミマ40周年「40のいいこと!?」の1つ『食の安全・安心、地球にもやさしい』弁当やスープ用スプーンのプラスチック使用量を約12%削減
【参照サイト】 山口市:コミュニケーション支援ボードを設置しました
【参照サイト】 ストロー使用量が半減 プラスチック廃止&紙ストロー有料化の実証実験
【参照サイト】 脱プラスチックに関する意識調査。環境に影響があるパッケージや製品は「必要ない」、半数以上(マクロミル調べ)