公開:2022年2月28日/更新:2022年11月9日

2021年3月に閣議決定された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(プラスチック資源循環法)が、いよいよ2022年4月から施行される。削減すべきとされる特定プラスチック使用製品の12品目には、歯ブラシやクシ、シャワーキャップなど、ホテルや旅館で使用されるアメニティグッズも含まれる。法律の施行が間近に迫り、多くのホテルが対応への準備を進めている。

今回のコラムでは、この「プラスチック資源循環法」の把握しておきたいポイントと、実際に国内外のホテルで行われているプラスチック削減の事例を紹介する。ぜひ、対応策の検討のヒントとしてご活用いただきたい。

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目次

プラスチック資源循環法とは?

「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」は、プラスチックをとりまく様々な環境問題に対応するため、プラスチックの廃棄を削減し、資源としての循環を促すことを目的にした法律。2021年3月に閣議決定された同法は、「プラスチック資源循環法」「プラ循環法」「プラスチック新法」とも呼ばれ、2022年4月1日からの施行が決定している。

同法では、3R(Reuse・Reduce・Recycle)+Renewableの促進を掲げている。
・Reduce(リデュース) 廃棄物の発生抑制 <物を大切に使おう。ごみを減らそう>
・Reuse(リユース) 製品・部品の再使用 <繰り返し使おう>
・Recycle(リサイクル) 再生資源の利用 <再び資源として利用しよう>
・Renewable(リニューアブル) 持続可能な資源に替える<資源を循環させよう>

対象事業者は、提供方法や提供する特定プラスチック使用製品の工夫の中から、有効な取組を選択し、“特定プラスチック使用製品の使用の合理化”に取り組むことが求められている。

 

対象事業者

スーパーやコンビニ、ホテルなど国が特定プラスチック使用製品として定めた12品目を提供する事業者。

・各種商品小売業(無店舗のものを含む)
・飲食料品小売業(野菜・果実小売業、食肉小売業、鮮魚小売業及び酒小売業を除き、無店舗のものを含む)
・宿泊業
・飲食店
・持ち帰り
・配達飲食サービス業
・洗濯業

なお、前年度において提供した特定プラスチック使用製品の量が5トン以上である事業者は「特定プラスチック使用製品多量提供事業者」として、取組が著しく不十分な場合に勧告・公表・命令等を受ける可能性がある。

 

対象製品(12品目)

フォーク・スプーン・ナイフ・マドラー・ストロー・ヘアブラシ・くし・カミソリ・シャワー用キャップ・歯ブラシ・ハンガー・衣類用カバー

 

求められる取り組み

提供方法の工夫
・消費者に必要/不要の意思確認をする
・不要とした消費者にポイントの還元などをする
・消費者に有償で提供する
・提供した消費者に繰り返し使うよう促す

提供する製品の工夫
・繰り返し使うことができる製品の提供
・環境配慮品や持続可能な商品など工夫された製品の提供
・商品やサービスに適したサイズの製品の提供

 

行政によるチェックポイント

1.目標の設定(目標を定め、達成するための取組を計画的に行うこと)
2.特定プラスチック使用製品の使用の合理化(プラスチック使用製品廃棄物の排出を抑制すること)
3.情報の提供(店頭での掲示する、インターネット等で公表する、提供製品に排出抑制の重要性を表示するなど、消費者による排出の抑制を促進するための情報を提供すること)
4.体制の整備等(責任者の設置などの体制の整備や、従業者に対し研修などを行うこと)
5.安全性等の配慮(合理化を図る際には、安全性、機能性その他の必要な事情に配慮すること)
6.実施状況の把握(実施した取組及びその効果を把握し、インターネットなどで公表するよう努めること)
7.関係者との連携(取組を効果的に行うため、国や消費者、関係事業者との連携を図るよう配慮すること。必要に応じて取引先に対し協力を求めるものとすること)
8.加盟者における特定プラスチック使用製品の使用の合理化(本部事業者は、加盟者の事業において使用の合理化に関し必要な指導を行うこと。加盟者は、協力するよう努めること)

週間ホテルレストランの2021年の消費者調査では、低価格帯のホテルでプラスチック製のアメニティ代替品の提供を望む人が7.4%だった一方で、高価格帯ホテルに対しては20.7%との回答だった。自宅でも使えるアメニティについても、低価格帯ホテルの4.1%に対し高価格帯のホテルが17%と、低価格帯のホテルに比べて高価格帯ホテルでは「アメニティが必要」と考える人の比率が高くなることがわかっている。
次項では、提供の廃止を含め、代替品への置き換えやお客さまへの告知など、実際に国内外のホテルで行われているプラスチック削減の事例を紹介したい。

1.プラスチックストローの提供を廃止

細く小さなストローは、廃棄物処理のシステムをすり抜けて自然環境に流出しやすいといわれている。既に国内外の多くのホテルでプラスチックストローの提供廃止が進んでいる。日本国内のヒルトングループのホテルでは、2018年よりプラスチック製ストローを全面廃止している。これにより、年間140万本ものストローが削減できるという。プリンスホテルでは、2019年に国内全ホテル、スキー場、ゴルフ場の直営レストラン・宴会場で使い捨てプラスチック製ストローを廃止することを発表している。

2.リクエストがある場合は代替えストロー・マドラーを提供

先述のヒルトングループやプリンスホテルではお客さまのリクエストがあった場合に限り、紙ストローや木製のマドラーを提供している。ザ・キャピトルホテル東急でも、2019年よりプラスチック製ストローの使用を廃止している。同ホテルでは、環境ジャーナリストの竹田 有里氏と株式会社アキュラホームと共同で開発した「木のストロー」を導入している。木のストローは、森林保全のために国内の間伐材を含む国産材から作られているという。

また、イギリスのラグジュアリー・ホテル・グループ、Red Carnation Hotels(レッド・カーネーション・ホテル)では、紙製や竹製のストローに加え、穴の空いたパスタで作られたパスタストローが採用されている。

そのほかの代替え品としては、口当たりや飲み物の風味を損なわないとして、サトウキビ製のストローも話題だ。全国のカフェ・レストラン・ホテルなど累計約800店舗で採用されている株式会社4Natureの「サトウキビストロー」は、各店舗から回収された使用済みのストローを千葉県佐倉市にある自社の堆肥処理場に集めて、堆肥化している。

3.アメニティの設置を廃止

京都のTHE THOUSAND KYOTOでは、2022年4月のプラ循環法の施行日に合わせて、客室へのアメニティの設置を取りやめることを発表している。歯ブラシ&歯磨き粉セット、髭剃り、ブラシ、コーム、シャワーキャップ、ボディタオル、ヘアゴムが対象だ。

4.繰り返し使える代替品を有料で提供

また同ホテルでは、アメニティを忘れたお客さまに対して、環境に配慮した客室アメニティを有料で提供するという。販売するアメニティは使い捨てではなく、自宅へ持ち帰って繰り返し使えるもので、竹製歯ブラシや木製のブラシや髭剃りなど。持ち帰り用の袋も用意する。

環境に配慮されたホテルのアメニティは、ナチュラルな雰囲気のものからラグジュアリーなデザインのものまで、最近ではさまざまなタイプのものが発売されている。ホテルのオリジナルのロゴを入れられる商品もあるため、ホテルのオリジナリティを演出することも可能だ。

5.環境に配慮された素材のものに置き換え

ザ・ペニンシュラ東京では、シャワーキャップ、歯ブラシ、カミソリなどのアメニティを環境配慮型のものにリニューアルしている。コーンスターチ、小麦、木材、リサイクル金属など、持続可能な素材で作られたアメニティだ。

6.リサイクル可能なアメニティを提供

帝国ホテル東京では、パートナー企業と協働し、スリッパ、歯ブラシ、ヘアブラシなど客室で使用されたアメニティのリサイクルを行っている。客室係によって分別回収されたアメニティは、粉砕・加工され、固形燃料にリサイクルされるという。また、ザ・ペニンシュラ東京では、シャンプーやコンディショナー、シャワージェル、ボディミルク、石鹸などのパッケージは、リサイクル可能なアルミニウム製のものを採用している。

7.アメニティのミニボトルを撤廃

InterContinental Hotels Groupでも、世界約843,000室のホテルの客室で、シャンプーなどの小さなボトル入りのバスルーム・アメニティを廃止することを発表している。同グループでは、ホテルの敷地全体で毎年平均2億個のミニボトルを使用していた。これらのアメニティの代わりに、客室備え付けの大容量ボトルに置き換えている。

 

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8.アメニティバイキングの実施

ジェイアール西日本ヴィアインホテルグループでは、アメニティバイキングを実施している。必要な分だけをお客さまに利用してもらうことで、プラスチックごみの削減に取り組んでいる。

9.アメニティの有無を予約時に伝える

アメニティを提供しない場合、予約の際にその旨を必ず伝えることが大切だ。持参し忘れた宿泊客のために販売を行うなどの措置も必要になるだろう。

10.サイト、プレスリリースでの発信

既に多くのホテルが、公式サイトに「SDGsの取り組み」「環境に配慮した取り組み」といった特設ページを設けたり、プレスリリースでホテルの姿勢や方針を発信したり、積極的な周知に取り組んでいる。

【THE THOUSAND KYOTO 公式サイト】 THE THOUSAND KYOTO:(客室アメニティをプラスチックフリーへ)お気に入りのアメニティを持って旅に出るSDGsアクション
【帝国ホテル 公式サイト】 環境活動、環境負荷を減らす/環境にいいことを増やす/活動をひろく知ってもらう
【株式会社阪急阪神ホテルズ プレスリリース】 SDGsに取り組む阪急阪神ホテルズはプラスチックごみの削減に向けて4月1日より、客室内のアメニティーグッズをフロントロビーでの提供に変更します
【ヴィアインホテルチェーン プレスリリース】 お客さまとともに歩む使い捨てプラスチック削減に向けた取り組み開始のお知らせ

また、SNSを利用することで、新たに導入した取り組みをリアルタイムで発信することもできる。

11.客室に表示する

環境配慮型のものに置き換えている場合も、持ち帰って繰り返し使ってもらえるよう明記しておくことでお客さまの意識改善にもつながるだろう。ポスターやPOPなどで客室に表示しておいたり、アメニティにメモを添えておくのも良いかもしれない。

まとめ

いかがだっただろうか。今回のコラムは、2022年4月1日から施行される「プラスチック資源循環法」に向けたホテルの対策例をお届けした。
2021年12月にアイグッズ株式会社が行ったホテル旅館に関する旅行者の意識調査によると、「環境に配慮している宿」については全体の71.1%の旅行者が好印象と回答している。なかでも、リピーター層は地球に配慮した消費である“エシカル消費”を「とても意識している」「意識している」と回答した人が約74.7%にも及んでいる。「法律が施行されるから」「罰則があるから」と、プラスチック循環法の施行を理由にサステナブルなアメニティの導入を検討しているホテルも多いが、取り組みを行うことで、リピーター獲得なども含めた多角的な効果が期待できそうだ。

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【参考サイト】 The Hilton Effect(ヒルトン効果)
【参考サイト】 ザ・キャピトルホテル 東急:世界初「木のストロー」Wood Straw Projectのご案内
【参考サイト】 THE THOUSAND KYOTO:(客室アメニティをプラスチックフリーへ)お気に入りのアメニティを持って旅に出るSDGsアクション
【参考サイト】 帝国ホテル:環境活動
【参考サイト】 THE PENINSULA TOKYO:客室
【参考サイト】 週間ホテルレストランオンライン:ホテル・旅館はプラスチック製アメニティをどう減らしていけば良いのか?そのヒントとして
【参考サイト】 “環境に配慮している”宿、71%が好印象と回答 ホテル旅館に対する旅行者意識調査

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table source 編集部では、サステナビリティやサーキュラーエコノミー(循環経済)に取り組みたいレストランやホテル、食にまつわるお仕事をされている皆さまに向けて、国内外の最新ニュース、コラム、インタビュー取材記事などを発信しています。
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