2022年4月の「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(プラスチック資源循環法)の施行から半年以上が経った。削減の対象となった特定プラスチック使用製品の12品目には、ホテルや旅館に不可欠な、歯ブラシやクシ、シャワーキャップなどのアメニティグッズが含まれている。取り組みが著しく不十分な場合に勧告・公表・命令などを受ける可能性があることから、既に多くのホテルで12品目を削減するための対策が講じられている。

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しかし、あくまでもプラスチック資源循環法は「プラスチックの廃棄を削減し、資源としての循環を促すこと」が目的であり、今回対象になった12品目を削減することがゴールというわけではない。環境省と経済産業省は同法律の告示のなかで「取り組みの把握ともに、全体としての進捗状況を可能な限り定量的に検証していく」と、継続的な推進にも触れており、既にさまざまなホテルが更に踏み込んだプラスチック削減に取り組み始めている。

今回のコラムでは、プラスチック資源循環法の対象である“12品目以外”のホテルのプラスチック削減事例を紹介する。これらの事例が、もう一歩踏み込んだ、持続可能なホスピタリティ促進のヒントになるかもしれない。

(プラ循環法対象12品目の削減事例はこちら>ホテル編レストラン編

 

ペットボトル飲料水を見直す

事例1.紙製のボトルに置き換える

まずは、各客室に設置しているペットボトル飲料水を見直してみてはいかがだろうか。近年、脱プラスチックの流れが加速するなかで注目を集めている紙容器のミネラルウォーター。日本国内では2019年時点で1社2製品が市場に展開されていたが、2022年10月時点で16社19製品に増加。3年間で約10倍に増えたことになる。このミネラルウォーターの紙容器を日本市場に本格展開した「日本テトラパック株式会社」によると、テトラパックの紙容器は主に再生可能な資源を使用した紙から製造され、その原材料は、国際的な森林管理協議会「Forest Stewardship Council(FSC)」の認証材を使用しているという。

 

事例2.生分解性のペットボトルに置き換える

「ヒルトン 日本・韓国・ミクロネシア地区」では、客室に置くペットボトル飲料水について、2019年より生分解性プラスチックボトル「Earth Group Water(アースグループウォーター)」の導入を始めている。このボトルは、100%リサイクル可能で10年以内に自然に分解される生分解性のプラスチックボトル。販売元のThe Earth Groupでは純利益を活用して、製品を1本販売するごとに、1.5本の海洋プラスチックごみを撤去する活動を行うほか、年間50万食以上の学校給食を世界中の子供たちに提供している。

 

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事例3.ガラス瓶を利用する

「ハイアット セントリック 銀座 東京」では、2021年から客室用ミネラルウォーターをリターナブル瓶の商品「From AQUA リターナブル瓶」に切り替えている。リターナブル瓶は使用後に、瓶を回収して中身をきれいに洗浄し、再び中身を詰め替えて商品化される。回収スキームが整った状況であれば瓶のまま何度も繰り返し使用することが可能だ。そのため、新たに容器を製造する原料やエネルギーを抑えることができ、また原料にプラスチックを使用していないことから環境に優しい容器といえる。

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また、19ヶ国、19軒のリゾートとホテル、27軒のスパを運営する「SIX SENSES HOTELS Resorts & Spas(シックスセンシズ ホテルズ リゾーツ スパ)」でも飲料水の瓶での提供が行われている。同ホテルでは、各施設の敷地内で飲料水の処理・浄化を行い、再利用可能なガラス瓶に詰め、宿泊客に無料で提供しているという。

 

事例4.マイボトルの利用推進・導入

「ヒルトン名古屋」では、持続可能な環境を目指すとともにその重要性の認知を広げるため、ホテル内にウォーターステーションを設置し、宿泊者に限らずマイボトルやタンブラーなどを持参した方に無料で飲料水を提供するサービスを実施。

また、「渋谷ストリームエクセルホテル東急」は、プラスチック廃棄物の削減を目的とし、2022年より国産間伐材を使った日本初のエコボトル「森のマイボトル」を全客室に導入している。素材には和歌山県産のヒノキの間伐材をプラスチックに混ぜ込んでいる。容器全体の28%が間伐材由来の原料でできており、木材由来の自然な質感や香りが楽しめるという。

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事例5.ウォーターサーバーを設置

先述の渋谷ストリームエクセルホテル東急が「森のマイボトル」と同時に導入するのが、ウォーターサーバーだ。各フロアに設置することで、これまで客室で無償提供していたペットボトルのミネラルウォーターを廃止。ウォーターサーバーの水を客室へ持ち運ぶための容器として、このボトルを使用してもらう狙いだ。これにより年間約7万本のペットボトルのごみを削減可能だという。

また、サステナブルな高級ホテルとして世界的に注目されている「1Hotels」でも、全ての客室でガラスコップとろ過された水を提供している。

 

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客室備品を見直す

事例6.カードキーを木製に

「ホテルウィングインターナショナル」など全国39店舗、5,166室を展開する「株式会社ミナシア」では、2022年2月からプラスチック製カードキーを木製の環境配慮型カードキーへと順次変更している。この木製カードは、原材料の購入からカードの生産、そして販売に至るまで、国際的な森林管理の認証を行う森林管理協議会である「Forest Stewardship Council(FSC)」に認定された製品だ。

 

事例7.ドアサインを天然素材に

通常、ホテルのドアノブに下げておくことで、シーツやタオルの交換、部屋の清掃などのサービスが必要かどうかを伝えるドアサイン。カードキー同様、近年では環境に配慮した木製のドアサインを目にすることも増えてきた。

世界のサステナブルホテルを牽引する「1Hotels」では、客室のドアサインは天然石を使用している。シーツを取り替えて欲しい時は「NOW」、不要な時には裏返して「NOT NOW」にして置いておく。

 

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事例8.寝具のマットレスをバイオマスプラスチック製に

一流アスリートの使用しているマットレスや、王室御用達ブランドの枕、医療用マットレスなど、こだわりの寝具を導入し、付加価値としてPRしているホテルも多い。家具・寝具の企画製造を行う「株式会社モーブル」では、食用に適さない古米や米菓メーカーなどで発生する破砕米や飼料としても処理されない非食用米から作られた国産バイオマスプラスチック「RiceResin」を配合した独自素材「RICEWAVE(ライスウェーブ)」を開発。

同社の公式サイトによると、このRICEWAVEを使ったクッション材は、ホテルのほかプールサイドやグランピング施設、スポーツシーン、保育園などさまざまな用途や場所で採用されている。さらに、現在はマットレスに関する企画も進めているという。

 

事例9.環境配慮素材のハンガーを使用

客室のクローゼットに不可欠なハンガー。環境配慮素材のハンガーは、木製のものをはじめ、紙や生分解性プラスチックを使用したものなどさまざまな種類のものが発売されている。ソーシャライジングをコンセプトに持つ「TRUNK(HOTEL)」では、鉄工場で使われなくなった鉄をアップサイクルして作られたハンガーを使用している。

 

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ホテル内施設の備品を見直す

事例10.フィットネスジムのイヤフォンをリサイクル可能に

北米の「ハイアットホテル」のフィットネスセンターでは、今まで使用していた使い捨てイヤフォンをリサイクル可能なものに変更している。2017年には、80軒を超えるハイアットホテルが65,000個近くのイヤフォンのリサイクルに貢献したという。

 

事例11.ビニール袋廃止/エコバッグ貸し出し

「帝国ホテル」では、帝国ホテル東京、大阪、上高地のホテルショップにおけるプラスチック製の手提げ袋を廃止している。惣菜などのプラスチック製容器も、他の素材への切替えを進める予定だという。また、「リッチモンドホテル」では、買い物に出かけた宿泊客がビニール袋を使用することがないよう、エコバックの無料貸し出しを実施している。

 

宿泊プランに盛り込む

事例12.プラ削減宿泊プランを販売

2022年10月、「JTB株式会社」は志賀高原エリアの宿泊事業者と連携し「アメニティ無し」と「宿泊施設でドリンクを補給するサービス」を組み合わせた、プラスチックごみ削減宿泊プランを発売した。「マイボトルから始める脱プラスチック!ボトルへの1ドリンク付き&ホテルアメニティ無し」と題したこのプランは、長野県の志賀高原エリアにある「志賀パークホテル」「硯川ホテル」「木戸池温泉ホテル」の3施設で設定されている。

また、京都市の「THE BLOSSOM KYOTO」は2022年8月に、ホテルオリジナルの「風呂敷」と観光時の持ち運びにも便利なマイボトル付の「SDGs 京都の風呂敷とオリジナルマイボトル」宿泊プランを発売。風呂敷を使ったことのない方にも安心な包み方指南書付きで、より詳しく風呂敷の活用術を知りたい人に向けてワークショップも開催するという。

 

まとめ

2019年の使い捨てプラスチックの廃棄量は世界全体で約1億3000万トン。そのうち、日本の年間総廃棄量は431万トンを占めており、世界第4位の多さだ。日本は世界的にも、多くのプラスチックを使い捨てている国だと言える。「法律が施行されたから」「罰則があるから」取り組むのではなく、持続可能な環境への責任を果たすため一人一人が取り組まなくてはいけない課題だ。

同時に、消費者の環境意識が日々高まっているなかで積極的にプラスチック削減策を打ち出すことは、ホテルの付加価値を高めることにもつながる。まずはできることから一つずつ始めてみてはいかがだろうか。

【関連記事】

プラ循環法、ホテルの対応策は?取り組み事例11選

【参考サイト】 経済産業省 環境省 告示第二号
【参考サイト】 日本テトラパック 環境に配慮したミネラルウォーター紙容器が急成長
【参考サイト】 ヒルトン、8月1日から国内のホテル客室で純利益が環境保全や慈善活動に役立てられる生分解性プラスチックボトル「Earth Group Water」の導入を開始
【参考サイト】 Six Senses Serves Up Sustainable Food and Water
【参考サイト】 1Hotels
【参考サイト】 ホテルウィングチェーン・テンザホテルは環境に優しいホテルを目指し、プラスチック製カードキーを木製の環境配慮型カードキーへと順次変更
【参考サイト】 国産バイオマスプラスチック「RiceResin®」を使ったコア材、『RICEWAVE™(ライスウェーブ)』を新開発しました
【参考サイト】 TRUNK(HOTEL)
【参考サイト】 Hyatt Announces Global Efforts to Reduce Single-Use Plastics
【参考サイト】 帝国ホテル 環境活動
【参考サイト】 Brits want hotels to ban plastic bags and bottles
【参考サイト】 JTB、SDGsを旅で応援する『脱炭素へ貢献、プラスチックごみ削減宿泊プラン』を発売!
【参考サイト】 「THE BLOSSOM KYOTO」× SDGs 貢献への新たな一歩を
【参考サイト】 一般社団法人:日本エシカル推進協議会

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table source 編集部では、サステナビリティやサーキュラーエコノミー(循環経済)に取り組みたいレストランやホテル、食にまつわるお仕事をされている皆様に向けて、国内外の最新ニュース、コラム、インタビュー取材記事などを発信しています。
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