ベトナムの大人気ピザ屋「Pizza 4P’s」のSustainability Managerである永田悠馬氏による、レストランのサステナブルなプロジェクトに焦点をあて、Pizza 4P’sがさらにサステナビリティを突き詰めていく「過程」を追っていくオリジナル記事シリーズ「Peace for Earth」。
前回は「ケージフリーエッグ」をテーマに、ケージフリーを取り巻く世界の現状や企業の動向、ケージフリーエッグをベトナムにて導入する際に見えてきた利点、今後の課題など、サステナブルアクションに取り組む企業のリアルな現場をシェアしてきた。
▶︎【Pizza 4P’s「Peace for Earth」#03】飲食店から広げる、ケージフリー・エッグの選択肢
第四回目である今回の「Peace for Earth」のテーマは、今までの記事とは少し趣を変え、これまでPizza 4P’sで永田氏が検討してきた事例を紹介しつつ、その過程における社内での衝突や、サステナビリティについての意思決定の難しさなど、なかなか公にすることのない企業のサステナビリティ推進の舞台裏を紹介する。ベトナム国内でサステナブルアクションに取り組む企業のリアルな現場をシェアする。
サステナビリティ担当はつらいよ
近年、サステナビリティに力を注ぐ企業が増えてきている。気候変動への危機感、SDGsの普及、ESG投資の増加などさまざまな要因により、企業に対してサステナビリティへのシフトを求める声が世界的に高まっている。本業から稼いだ利益の中から社会貢献活動へお金を使うというCSRは以前から主に大企業には存在したが、近年はそのCSRという枠を超え、いかに自社のビジネスにおける環境負荷を減らしていけるか、また事業自体からサステナブルなインパクトを生み出せるか、というCSVに企業は力を注ぐようになってきた。
そんな中、より多くの企業が社内にサステナビリティに関する担当者や担当部署を置くようになった。しかし未だ、ほとんどの企業においてサステナビリティの推進とは馴染みのないもので、社内の担当者は苦労している人が多いように思う。私もそんな一人だ。
「利益を生まないものにはお金はかけられない」
「サステナビリティへの優先度は低い」
「マーケティングの一環ですよね」
そんな理解のない言葉をかけられ、悔しい思いをしている担当者も多いのではないだろうか。企業のサステナビリティへのシフトが求められる一方、社内の関係者をどう巻き込んでいけるか、社内でサステナブルなアクションをいかに意思決定させるか、そういったノウハウはまだ確立されていないように感じる。
今回は、実際に私がPizza 4P’sで働いてきた中での困難や、そこから得た教訓などを具体的な事例と共にシェアする。
オーガニック野菜を増やしたいサステナビリティ担当者と、安さを求める調達部との衝突
「調達」はレストランのサステナビリティを考える上で非常に重要なカテゴリーだ。レストランで使用されている食材がどのような素材か、持続可能な農法で生産されたものを使っているか、地元産や季節の食材を使用できているか、農家さんから直接購入しているか、などレストランが調達を通して影響を及ぼす範囲は少なくない。
入社して半年ほど経った頃だろうか。私も調達に力を入れたいと思った。オーガニック野菜や、サステナブルな方法で作られた食材をもっと使うべきだと考えたのだ。
しかしここで問題が起きた。私がベトナム国内のオーガニック農園とのつながりを増やし、実際に農園まで足を運び、見積を取得して会社へ提案するものがことごとく調達部に却下されるのだ。上司のコンセンサスを得た上で進めてきたことが、自分の力の及ばない範囲で全て無駄になっていった。調達部の言い分はこうだ。
「今の野菜よりも価格が高い」
「卸業者はさまざまな野菜をまとめて納品してくれるのに、なぜたった1つの野菜を仕入れるために農園と契約しなければいけないのか」
つまり、調達部として仕入れコストを削減すること、調達プロセスを効率化することは非常に優先度の高いことであり、私の行動はそれに真っ向から逆らうことだったのだ。正直、当時は私もこの衝突にはかなりゲンナリしたが、今思えば調達部の考えとしては至極真っ当な論理だと思う。むしろ、調達部との方向性のすり合わせなしに勝手に調達に関わることを進めてしまった私に非があった。
その後、会社のマネジメント層と調達部のマネジャーを含めてサステナブルな食材の調達に関する会社としての方向性のすり合わせを行った。会社としてサステナブルな調達は、これこれこうして進めていきましょう、というふうに決めたのだ。そして、調達部のKPIの一つとしてサステナブルな食材調達が正式に加わることになった。そこからは早かった。今では調達部と足並みを揃え、サステナブルな食材調達を共に進めることができている。
赤字のアイデアの許可をどうとるか?瓶リターンプログラムの事例から
サステナビリティに関するアイデアに大きな予算がつくことは少ない。なぜならば、それが直接売上を生み出すことがほとんどないからだ。もちろん、サステナビリティに貢献しつつ、会社のコスト削減=利益創出につながる場合もある。省エネなどはその代表的な例だ。電気消費量を削減すれば、温室効果ガスを減らし、さらに会社のコストを削減することができる。しかし、企業のサステナビリティの現場には、そんないい案ばかりではない。
Pizza 4P’sはレストランを運営するだけではなく、自社製造しているチーズ、ヨーグルト、プリンなどの乳製品をコンビニやスーパー向けに小売販売している。ヨーグルトとプリンは小さなガラス製の瓶に入れて販売しており、もしお客様が返却してくれれば洗浄殺菌して再利用が可能だ。
そこで私はガラス瓶のリターンプログラムを提案した。お客様が食べ終わった瓶を店舗で回収し、そのお礼として瓶1つで「さけるチーズ」、瓶2つで「ヨーグルト」か「プリン」を無料で差し上げるのだ。我ながらなかなか魅力的なインセンティブだと思った。
しかし問題があった。瓶のコストを差し引いても、原価が高めの「抹茶プリン」をお客様がリターンとして無料で貰い続けてしまうと、このプログラム自体が赤字になってしまうことがわかったのだ。会社として赤字を垂れ流すリスクを犯してまで瓶のリユースを推進できるのか。普通であれば、即断で却下されるダメなアイデアだろう。
しかし、COO(チーフオペレーションオフィサー)は違う考えを持っていた。彼は「このプログラムはお客様を店舗に来店してもらうとてもいいアイデアだと思う。瓶の回収自体で多少赤字になっても、お客様がそのついでに店舗で食事をしてくれれば、むしろ売上アップにつながる」とコメントしてくれたのだ。
結果、少し赤字になる可能性はあるが、魅力的なインセンティブ設計ができ、瓶回収プログラム開始からもう4か月ほど経つが、すでに2000個もの瓶を回収することができている。
サステナブルなアクションの意思決定は本当に難しい
サステナブルであるし、実は売上貢献にもつながるアクション、というのは比較的容易に意思決定ができる。しかし、売上アップにつながるか、コスト削減に貢献するか、ブランド価値向上になるか、実際に始めるまで明確にそれらを予想できないサステナブルなアイデアも多くある。むしろ、そういったアイデアの方がほとんどだ。
企業にとって利益とは空気のようなもので、それを目的に事業を行うわけではないが、利益を生み出さなければそもそも継続することができない。サステナブルなアイデアがいくら素晴らしいからといって、コスト度外視でその全てを実行できるわけではない。
しかし、時には企業として、腹をくくってコミットすべき時もある。経済的なメリットが不明瞭でも、それが社会的に強く期待されている場合は、会社として意思決定する必要が出てくる。しかし同時に、サステナビリティは数値根拠を示せることも多くはなく、それは投資家への説明責任を負う経営者にとっては暗いジャングルを突き進んでいくような不安もあるかもしれない。その意思決定を全力でサポートするのが、企業のサステナビリティ担当者の責任であり、この仕事の醍醐味でもあると言える。データを集め、情報整理し、協力者を探し、数値計算し、フワッとしたアイデアをできるだけ意思決定しやすい地点まで固める。それでも却下されたら仕方がない。自分の提案力が低かったか、まだその企業としてのタイミングではないということである。
いずれにせよ、現在のグローバル経済では、企業の及ぼす影響は非常に大きい。WWFのドキュメンタリー「OUR PLANET: OUR BUSINESS」でも示唆されているように、現在のグローバルな課題に対して企業がサステナブルな方向にシフトすることで課題解決に貢献できることは多大にある。企業で働く全てのサステナビリティ担当者にエールを送りつつ、私自身も引き続き地べたを這いずり回りながら、それに少しでも貢献していきたいと思う。
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【参照サイト】 Pizza 4P’s<
Edited by Erika Tomiyama
本記事は、IDEAS FOR GOODからの転載記事です。