消費者の環境意識の高まりとともに、「エシカル消費」や「エコツーリズム」といった概念が近年急速に浸透している。

2022年2月に大手総合旅行サイト「エクスペディア」が、日本を含む世界11ヵ国で各国1,000人を対象に実施した「サステナブルな旅行に関する意識調査」によると、全体の約90%の人が「旅行をする際、サステナブルかどうかを意識している」と回答したことが明らかになった。特に日本やオーストラリアの回答者は、過去2年の間でサステナブルな旅行に対する関心度が急激に高まったという。

そこで今回のコラムでは、サステナブルなホテル宿泊プラン14選を紹介する。新型コロナウイルス感染拡大防止のための規制緩和によるインバウンド顧客増加に加えて、全国旅行支援の延長に伴う国内顧客の増加も見込まれる今、集客強化の参考事例としてご活用いただきたい。

目次

1.館内を探索してクイズに挑戦。子どもたちがSDGsを楽しく学べる宿泊プラン

帝国ホテル東京

「帝国ホテル東京」では、「帝国ホテルでSDGsを学ぶ宿泊プラン」と題して、子どもたちがSDGsを楽しく学べる宿泊プランを実施。

このプランでは、「帝国ホテルSDGs Book」に沿って子どもたちに館内各所に設けられたクイズに挑戦してもらい、全問正解するとホテルオリジナルのエコグッズが進呈される。答えがわからない時には、SDGsバッジを付けたホテルスタッフがサポートを行うことで、ゲストとのコミュニケーション促進にもつながるプランだ。

また、客室に飾られたバラなどの花を再利用したポプリ作りや、車いすに乗る・押すといった体験をしながら、ベルスタッフの案内でバリアフリールームを探検できる期間限定イベントも同時開催した。

2.里山環境や生物多様性の保全を学ぶ。大人のための体験型宿泊プラン

琵琶湖ホテル

「琵琶湖ホテル」では、環境保全型農業を実践する滋賀県大津市仰木での稲刈り体験を通して、里山環境・生物多様性の保全について学ぶことができる体験型宿泊プランを実施。同ホテルが掲げるSDGsスローガン「食べることが守ること」「触れることが育むこと」「愉しむことが繋ぐこと」をモットーに、農業体験を通じて里山の美しさと自然の恵みを体感してもらう、大人のためのイベントだ。

1日目は琵琶湖ホテル館内にて、里山環境の保全活動に取り組んできた写真家・今森氏からのレクチャーや交流会を開催。2日目は、稲刈りや稲を自然乾燥させるために行う「はさ掛け」体験の後、近江牛のバーベキューや湖魚の天ぷらなど地産食材をふんだんに使用した夕食が提供された。

【関連記事】「環境と観光の共生地」になることを目指して。琵琶湖ホテルが続ける取り組みとは

3.地域農業のお手伝いや森林保護活動を通じて、SDGsを学ぶ宿泊プラン

軽井沢プリンスホテル

「軽井沢プリンスホテル」は、地域と自然と人をつなぎ、ゲストにエコでエシカルな旅行を提案することを目的として2つの「SDGsステイプラン」を実施。

1つ目のプランは、絶滅の危機に瀕している長野県小諸市発祥の「御牧いちご」の原種を育てる農作業を通して、地域産業を活性化させる援農プラン。農作業を通して地域の農産業活性化を支援に貢献することができ、参加者には小諸市からの感謝状が贈呈された。

2つ目のプランは、同ホテルのスキー場の森で行う間伐作業体験等のフィールドワークや、自然環境や環境保全への理解を深める学習プログラム付きのプラン。森を手入れすることで光合成を促進し、二酸化炭素の吸収量を増加させ、森の生態系保全に貢献できる。

左:いちご農園での作業イメージ / 右:フィールドワークの場となる森

4.捕獲されたジビエを資源として活用。地産地消に貢献するディナー付き宿泊プラン

伊豆マリオットホテル修善寺

「伊豆マリオットホテル修善寺」が位置する静岡県・伊豆市では、市内の山林に生息するイズシカによる農作物や自然への被害の深刻化を受け、増加するシカを適正頭数まで捕獲し食用として有効活用する活動を行っている。こうした活動に賛同した同ホテルは、捕獲されたイズシカを味わうディナー付宿泊プランを実施した。

ディナーのメインには、塩麹でマリネすることでやわらかく仕上げた「骨つきイズシカロース肉のロティ」を提供。メイン以外はセミブッフェスタイルで、地産地消を通じた“エシカル”をコンセプトに、豊富な伊豆の山海の幸を取り入れた料理が提供された。

伊豆産食材の魅力を堪能する「”IZU-SHIKAL”(イズシカル)ディナー」

5.ハワイの海の水質改善プロジェクトに寄付される宿泊プラン

ザ・リッツ・カールトン・レジデンス ワイキキビーチ

ハワイ・オアフ島に位置する「ザ・リッツ・カールトン・レジデンス ワイキキビーチ」では、オアフ島最大の水路であるアラワイ運河の水質を改善する取り組み「ゲンキ・アラワイ・プロジェクト」に料金の一部が寄付される宿泊プランを実施。プラン料金から10ドルを、さらに同ホテルが10ドルを上乗せした合計20ドルがプロジェクトに寄付される。

アラワイ運河は、長年に渡って泥や有機物、ゴミなどによる水質汚染が問題視されてきた。そこで、光合成細菌や発酵型の乳酸菌など、自然界に存在する善玉菌の集合体「EMゲンキボール」を運河に投下することで水質改善を試みる「ゲンキ・アラワイ・プロジェクト」が発足。EMゲンキボールには、ヘドロの分解や水の浄化、植物性プランクトンの増加促進、有害なバクテリアや悪臭を抑制するなどの効果があり、今後7年間かけて泳いだり釣りができるまでの水質に改善するという。

6.絵本2冊相当の金額が世界の子供たちに寄付される宿泊プラン

芝パークホテル

「芝パークホテル」は、1泊につき200円が「認定特定非営利活動法人 ルーム・トゥ・リード・ジャパン」に寄付される宿泊プランを実施している。寄付金200円は、同法人を通じて世界の子どもたちの識字率向上のために贈られる各現地語の絵本約2冊分に相当する。また、プランを利用したお客さまには、特典としてホテルオリジナルトートバックがプレゼントされた。

左:芝パークホテル 2階ホワイエの本棚 / 右:ホテルオリジナルトートバッグ

7.児童養護施設の子どもたちに自立資金が寄付される宿泊プラン

ホテルグランヴィア和歌山

「ホテルグランヴィア和歌山」は、SDGs・地域貢献の取り組みとして、宿泊代金のうち200円が和歌山県内の児童養護施設に寄付されるプランを実施。寄付金は、「一般財団法人日本児童養護施設財団」を通じて、児童養護施設を退所し社会へ巣立つ子ども達が進学する際や、夢や目標に挑戦する際に必要な生活費など、様々な社会の壁を乗り越えるためのサポート費用として役立てられるという。

左:全国児童養護施設総合寄付サイトのマスコットキャラクター“もっち~” / 右:ホテルグランヴィア和歌山 客室イメージ

8.障害のある作家のアートを体感できる、コンセプトルーム宿泊プラン

ハイアット セントリック 銀座 東京

「ハイアット セントリック 銀座 東京」は、知的障害のある作家の才能や描き出されたアートを“異彩”と定義し、福祉領域の拡張を見据えた多様な事業を展開する株式会社ヘラルボニー」とコラボレーションしたコンセプトルーム宿泊プランを実施。

知的障害のあるアーティストが描いた作品は、美術教育を受けていない人が独学で描くアートとして、「アール・ブリュット(生の芸術)」や「アウトサイダー・アート」と呼ばれる。同ホテルは、こうした“異彩を放つアート“を取り入れた客室での宿泊体験を通じて、「福祉」や「障害」という普段の生活で関わりを持ちづらい分野と一般的な生活者の間にある目に見えない境界線を無くし、お客さまに新たな価値を体感してもらう機会を提供している。

左:“異彩を放つアート”を体感できるコンセプトルーム / 右:ニッコー株式会社とHERALBONYがコラボレーションした食器

客室のいたる所にアートが施されており、宿泊中は老舗陶磁器メーカー「ニッコー株式会社」製のカップなど、HERALBONYのアイテムを自由に利用することもできるという。

【関連記事】障害のある作家のアートを事業展開するヘラルボニー、ライフスタイルブランドをスタート

9.車椅子のまま入浴できる温泉宿泊プラン

秘なる諏訪湖に心癒される宿 上諏訪温泉 しんゆ

長野県諏訪市にある温泉旅館「神秘なる諏訪湖に心癒される宿 上諏訪温泉 しんゆ」 では、車椅子を利用しているゲスト向けに、車椅子のまま入浴できる「昇降式貸切温泉」の利用特典がついた「車椅子でも温泉快適プラン」を実施している。

同ホテルでは、SDGsの10番目の目標「人や国の不平等をなくそう」の観点から、露天風呂付きユニバーサルデザイン客室8部屋、車椅子のまま入浴できる昇降式貸切温泉とオストメイト対応の多目的トイレを新設するリニューアル工事を行った。昇降式貸切温泉とは、専用の車椅子をフラットになった湯船の床まで移動し、レバーを引くと床が下降して入浴できる仕組みの温泉だ。

左:レバーを引き、床が降下した際の入浴イメージ / 右:諏訪湖を望む客室の露天風呂

リニューアル後、車椅子利用客が増加した一方で、車椅子利用客の中には提供できる客室数と金額の関係から、露天風呂付きのユニバーサルデザインルームではなく一般客室を利用する方も少なくないことが発覚したという。そこで、一般客室に宿泊するゲストにも快適に温泉を楽しんでもらえるよう、通常40分2,000円の昇降式貸切温泉を60分間無料で利用できる車椅子利用客向けの特別プラン「車椅子でも温泉快適プラン」を販売することになった。

10.プラスチックごみ削減に貢献できる宿泊プラン

株式会社JTB

大手旅行会社の「株式会社JTB」は2022年4月に施行された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」を受けて、「プラスチックごみ削減宿泊プラン」を実施した。

対象施設は、長野県志賀高原エリアの「志賀パークホテル」「硯川ホテル」「木戸池温泉ホテル」3つのホテル。“アメニティ無し”と“お客さまが持参したマイボトルにドリンクを提供するサービス”を組み合わせたプランを通じて、ゲストに「旅行をする時はマイボトルやアメニティを持参する」という新しい旅のかたちを提案している。

【関連記事】アメニティだけじゃない!ホテルのプラスチック削減、取り組み事例12選

左:マイボトルサービスのイメージ / 右:志賀高原

11.食料品の寄付活動「フードドライブ」に気軽に参加できる宿泊プラン

HOTEL EDIT YOKOHAMA

「HOTEL EDIT YOKOHAMA(ホテル エディット 横濱)」は、食料品の寄付活動「フードドライブ」のさらなる普及を目指し、ホテル宿泊ゲストが気軽にフードドライブに参加できる宿泊プランを実施した。

このプランでは、チェックイン時に家庭で食べ切れない食料品を持参することで、ゲストは500円割引を受けることができる。寄付できる食品には「チェックイン日から2ヶ月以上の賞味期限があるもの」「常温で保存できるもの」「生鮮食品、冷凍食品、手作り品、アルコール類はのぞく」となどの条件が設けられており、「フードバンク横浜」を通して市内で支援を必要とする人々へ無償で配布される。ホテルステイを楽しみながら食品ロスの削減に貢献できる宿泊プランだ。

【関連記事】家庭の余剰食品を持ち込むと、宿泊料が割引に。フードドライブへの参加プランが開始

12.サステナブル格付け3つ星シェフ監修、地産地消の朝食ボックス付き宿泊プラン

フェアフィールド・バイ・マリオット・岡山蒜山高原

「フェアフィールド・バイ・マリオット・岡山蒜山高原」は、サステナブルなフードシステムを実現するための飲食店レーティングプログラム「FOOD MADE GOOD」で、3つ星を取得したボッテガブルー」大島シェフ監修の朝食ボックスつき宿泊プランを実施。

放牧によって育てられる牛「蒜山ジャージー」や蒜山野菜、地魚などの新鮮な地産食材をふんだんに使った朝食ボックスを通じて、地域の魅力を発信すると同時に、「食べることでサステナビリティに貢献できる」という価値を提供している。

【関連記事】サステナブルな飲食店を表彰「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2022」発表【イベントレポ】

「ボッテガブルー」大島シェフが監修した朝食ボックス

13.フェアトレードに触れながらホテルステイを楽しむ宿泊プラン

ホテルJALシティ羽田 東京

「ホテルJALシティ羽田 東京」は、「フェアトレードに触れてみる特別ステイ」と題して、客室内の備品や朝食で国際フェアトレード認証製品を体験し、味わうことができる宿泊プランを実施した。

客室には、日本製フェアトレードコットンタオルや、有機JAS認証コーヒー、スリランカ産の最高級茶葉のみを使用したオーガニックティーなど多彩な国際フェアトレード認証製品を用意。朝食では、カカオ農家が経営する「DIVINE(ディバイン)」のチョコレートやスリランカのウバ地方で栽培されたウバティーなど、フェアトレード食材を使用したメニューを提供した。

左:フェアトレードコットンタオル / 右:朝食メニュー

14.ヴィーガンエステ&ディナー付き宿泊プラン

下田東急ホテル

静岡県下田市の「下田東急ホテル」では、肉、魚、卵、乳製品などの動物性食材を一切使用しないヴィーガンディナーとヴィーガン対応のスキンケアラインを使用したエステ付き宿泊プランを実施した。

ヴィーガンディナーでは、「地野菜とトマトのヴィーガンスパゲッティ」や「とんぶりとレタスのサラダ アボガドのピューレ添え」など、南伊豆産の地産野菜を積極的に使用した6品のメニューを提供。ヴィーガン認証団体「EVU(European Vegetarian Union) 」の認証を受けたスペイン産ヴィーガンワインも用意している。

左:とんぶりとレタスのサラダ アボガドのピューレ添え / 右:スペイン産ヴィーガンワイン

エステでは、「食べられない化粧品は作らない」をモットーに作られたオーガニックのスキンケアラインに加え、動物実験なし、動物由来成分不使用のコスメ・オイルを使用。ヴィーガンのゲストだけでなく、ヴィーガンでないゲストにも、期間限定で動物性食品を食べない「パートタイムヴィーガン」としてヴィーガンのライフスタイルを始めてみるきっかけを提供するプランだ。

まとめ

いかがだっただろうか。今回のコラムでは、サステナブルな宿泊プラン14選を事例とともに紹介した。プラスチック循環法の施行をきっかけに、サステナブルな取り組み始めたホテルも多い。そうしたなかで、アメニティなどの使い捨てプラスチックの削減だけでなく、サステナビリティに特化した特別なプランを提案することは他のホテルとの差別化につながるのではないだろうか。

※今回紹介したプランには既に販売が終了したものを含みます。

【関連記事】

寝具やアメニティもヴィーガン仕様!食事だけじゃない、アメリカのヴィーガンホテルの事例12選

【参照サイト】Spotlight On Sustainable Travel: Consumer Attitudes, Values, and Motivations in Making Conscientious Choices
【参照サイト】【データ】持続可能な旅行に関する意識調査 エクスペディア調べ
【参照サイト】ホテルステイでSDGsを学ぼう!「帝国ホテルでSDGsを学ぶ宿泊プラン」7月17日~8月31日
【参照サイト】【琵琶湖ホテル】『今森光彦の里山塾2022 ~環境農家ってなんだろう?~』 9月18日(日)から1泊2日体験型ツアーを開催 里山環境や生物多様性保全を学ぶ
【参照サイト】【軽井沢プリンスホテル】地域農業のお手伝いや森林保護活動等の「SDGsステイプラン」を販売
【参照サイト】伊豆マリオットホテル修善寺 伊豆×エシカルで地産地消に貢献 宿泊プラン「IZU-SHIKAL Dinner Stay (イズシカル ディナー ステイ) 」を発売
【参照サイト】【ザ・リッツ・カールトン・レジデンス ワイキキビーチ】オアフ島内最大運河、アラワイ運河の浄化プロジェクト「ゲンキ・アラワイ・プロジェクト」の協力パートナーに
【参照サイト】本によってつながる社会貢献。1泊につき200円(絵本2冊相当)が寄付される宿泊プランを販売【芝パークホテル】
【参照サイト】【ホテルグランヴィア和歌山】和歌山市内の児童養護施設を支援「ホテルに泊まって寄付する社会貢献!SDGs宿泊プラン」
【参照サイト】ヘラルボニーとハイアット セントリック 銀座 東京の初コラボレーション
【参照サイト】「車椅子でも温泉快適プラン」販売開始。車椅子のまま入浴できる【昇降式貸切温泉】の利用特典がついた車椅子利用客向けの特別宿泊プラン(上諏訪温泉 しんゆ)【参照サイト】JTB、SDGsを旅で応援する『脱炭素へ貢献、プラスチックごみ削減宿泊プラン』を発売!
【参照サイト】【ホテル エディット 横濱】食料品寄付「フードドライブ」活動に参加で、宿泊料が還元される新たなプランを展開
【参照サイト】JTB、SDGsを旅で応援する『脱炭素へ貢献、プラスチックごみ削減宿泊プラン』を発売!
【参照サイト】【ホテルJALシティ羽田 東京】サステナブルなグッズとともにホテルステイを楽しむ宿泊プラン「フェアトレードに触れてみる特別ステイ」を販売開始
【参照サイト】ヴィーガンエステ&ディナー付宿泊プランで、地球と自分に優しい旅を/下田東急ホテル

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