スタバやスープストックも取り組む、LGBTQ+の課題。飲食店が取り組む理由と具体策とは?

2022年13日、アメリカのバイデン大統領は連邦政府による同性婚の権利を保護する法案に署名。この新法は、結婚を男女間のものと定義した「The Defense of Marriage Act(結婚防衛法)」を正式に無効とするもので、同性間や異人種間の結婚を含め、州外での結婚許可証の有効性を尊重することを義務付けている。

バイデン大統領は同日「わが国の歴史のほとんどの期間、我々は異人種間カップルや同性カップルを保護せずにきた。私たちは彼らを平等な尊厳と尊敬をもって扱うことができなかった。そして今、法律は異人種間の結婚と同性間の結婚を、全米のすべての州で合法と認めなければならない。」と述べている。この新法の可決は「一人ひとりの多様性を尊重する」歴史的かつ画期的な出来事として、世界中で大きな話題となっている。

日本国内でも「ジェンダーレス」「ダイバーシティ」「LGBTQ+」など、多様性に関するワードを目にする機会が増えており、最近では飲食業界でも、大手企業を含むさまざまな企業が従業員の多様性を尊重する姿勢を公表している。

2022年11月には「スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社」が「work with Pride(ワーク・ウィズ・プライド)」が主催する、企業や団体の性的マイノリティに関する取り組みを評価する「PRIDE指標2022」において、最高評価である「ゴールド」を2年連続で獲得したことを発表。「株式会社スープストックトーキョー」も同指標で3年連続「ゴールド」を獲得している。飲食業では2社の他にも、丸亀製麺を運営する「株式会社トリドールホールディングス」や、国内外で626店舗を展開する「株式会社物語コーポレーション」なども受賞。

今回のコラムでは、この「PRIDE指標」についての解説と取り組みの実例を紹介しながら、飲食店におけるLGBTQ+に関する理解促進や権利擁護について考えていきたい。

PRIDE指標とは

「PRIDE指標」とは、LGBTQ+(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーなどの性的マイノリティ)に関する企業の取組みを評価するもの。2022年に7回目を迎えており、任意団体「work with Pride(wwP)」によって策定されている。wwPの活動目的は、日本の企業内でLGBTQ+の人々が自分らしく働ける職場づくりを進めるための情報を提供し、各企業が積極的に取り組むきっかけを提供することだ。

【5つの評価指標】
「PRIDE指標」という名称は「LGBTQ+の人々が誇り(PRIDE)を持って働ける職場の実現」を目指し、名付けられている。評価指標の名称もPRIDEの各文字に合わせた、次の5つが設定されている。

  • Policy: 行動宣言
    企業や団体の中の一部の人が取り組むのではなく、全体で取り組む課題であることを社内外に理解してもらうことが重要と考え、設定しています。
  • Representation: 当事者コミュニティ
    社内に当事者コミュニティや相談窓口があることで、当事者は同じ悩みを共有したり、適切な専門家へ相談したりすることができます。また、一人では伝えづらいような職場環境に関する要望も、コミュニティとして人事部等に伝えることができるという観点から、設定しています。
  • Inspiration: 啓発活動
    LGBTQ+に対する理解が進むことで、差別的取り扱いがなくなり、LGBTQ+の社員もLGBTQ+でない社員も気持ちよく働ける職場環境を整えていくことが重要と考え、本指標を設定しています。
  • Development: 人事制度、プログラム
    LGBTQ+の社員も、LGBTQ+でない社員と同等の取り扱いとなるような対応、またトランスジェンダーの社員向け対応を、福利厚生等の整備により出来る範囲から実施していくことが重要であると考え、設定しています。
  • Engagement/Empowerment: 社会貢献・渉外活動
    LGBTQ+が暮らしやすい社会を実現するために、企業は、社内の施策だけでなく、他社、NGO/NPO、行政等、様々なステークホルダーと連携して行動を起こすことが重要であり、社会への大きな効果を期待することができます。このことから本指標を設定しています。

出典:work with Pride PRIDE指標
 

【指標の目的】
・企業などに、LGBTQ+が働きやすい職場の要件を認識してもらい、社内施策を推進するためのガイドラインとして活用する。
・毎年、本指標に対する企業等の取り組み状況や取り組み事例を募集し、優れた企業を表彰することで、LGBTQ+が働きやすい職場づくりを応援する。
・募集した取り組み事例の中からベストプラクティスを可能な範囲で公開し、LGBTQ+が働きやすい職場づくりの定着状況や具体的な方法を、広く社会に認識されることを促進する。

【認定の種類】
対象期間においての取り組みについて、各指標内で指定の要件を満たしていれば1点が付与され、5点満点を「ゴールド」、4点を「シルバー」、3点を「ブロンズ」として認定。2021年からは、自社単独の取り組み範囲を超えて、他のプレイヤーと力を合わせながら、LGBTQ+の人々が自分らしく働ける職場・社会づくりの実現に中長期的にコミットメントする企業を後押しする評価指標として、新たに「レインボー」が追加されている。

LGBTQ+の理解促進の取り組み事例

スターバックス コーヒー ジャパン

2018年より「コーヒーを淹れるには『フィルター』が必要だけれど、人の心には『フィルター』をかけてはいけない」というインクルージョン&ダイバーシティのメッセージ「NO FILTER」を掲げている「スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社」。LGBTQ+ユースの支援のために500万円の寄付を実施したり、5,700名の学生や教育関係者にLGBTQ+当事者やアライと多様性について考える出張授業を提供したりといった、積極的な取り組みが評価され、3年連続の「ゴールド」を受賞。

多様性を考える授業を実施
2020年より認定NPO法人ReBitとともに、スターバックスのパートナー(従業員)などLGBTQ+当事者が自分の経験を語り、生徒や教育関係者たちと多様性について考える「レインボー学校プロジェクト」を実施。若者が多様な性について正しい知識を身に着け、安心して学校に通えるようになることを願い、多様性やLGBTQ+に関する出張授業を提供している。

LGBTQ+に関する情報を発信
当事者の経験談など、LGBTQ+コミュニティ支援やアライとしての取り組みに関わる情報を、オウンドメディア「スターバックス ストーリーズ ジャパン」で発信。

メッセージを込めた商品の販売・売上の一部を寄付
多様性をテーマにレインボーをモチーフとした商品を期間限定で販売。2022年は「ステンレスボトル355ml NOFILTER」と「コールドカップタンブラー 710ml NOFILTER」を、2021年には氷を入れたアイスドリンクを中に注ぐと、本体の色とは違った色があらわれる「カラーチェンジングコールドカップセットNOFILTER」を販売している。これらのアイテムの売上の10%は、ReBitへ寄付され、レインボー学校プロジェクトの実施に使用される仕組みだ。

誰もが自分らしく輝ける居場所を目指して/人事制度の導入
2017年1月より2つの人事制度を導入している。

1.「性別適合手術のための特別休暇」制度
性別適合手術により連続して5労働日以上にわたり就業が困難であると会社が認めたとき、勤続年数に応じた日数の有給休暇が取得できる。2017年、「PRIDE指標」の「人事制度・プログラム」におけるベストプラクティスに選定。
2.「同性パートナーシップ登録」制度
申請のあった同性カップルに対し登録した同性パートナーを「結婚に相当する関係」「配偶者と同等」とみなし、これにより慶弔見舞等の特別休暇、育児や介護休職、転勤に伴うサポートや支援を実施。2021年10月1日現在16名が登録。


 

スープストックトーキョー

「ゴールド」を3年連続で獲得した「株式会社スープストックトーキョー」は“ひと”それぞれに寄り添った、誰もが自分らしく生き生きと働けるブランドであるための取り組みの一つとして、LGBTQ+の理解促進を進めているという。性的指向、性自認に基づく差別を許さず、それらを尊重していく方針で、多くの取り組みを実施している。

採用プロセスにおける配慮、採用ポリシーで「性的指向や性自認を尊重」の発信
採用サイトでは、すべての応募者の方の性的指向や性自認を尊重することを明記。説明会参加申し込み、履歴書・エントリーシート、入社資料など、採用プロセスのすべての手続き・プロセスにおいて、性別記入欄をなくしている。

管理職および従業員・アルバイトパートナーへの社内セミナーの実施
株式会社スープストックトーキョーだけでなく、「スマイルズ」グループとして社内セミナーを開催。オフラインでの研修や、外部講師を招いてのオンラインセミナーなどを実施している。また、社内で“Ally meet up”という勉強会やウェブ社内報にて定期的な記事の配信などを実施。積極的なアライ(ALLY/LGBTQ+を理解し支援する)活動を進めている。

結婚および配偶者の定義に「同性婚」を追加
株式会社スープストックトーキョーおよび、スマイルズグループとしての福利厚生制度において、結婚および配偶者の定義に「同性婚」を追加。慶弔見舞金や結婚休暇を取得することができる。

人事制度の改定や書類表記の見直し
入社後にあたっても、公的書類発行プロセスなどの外的要因を除いては性別記入欄をなくし、就業規則などにわたっても「男女表記」をなくしていく取り組みを実施。

匿名相談できる専門相談窓口の設置
従業員・アルバイトパートナーの誰もが相談可能な窓口を設置。相談を希望する場合は社外のプライバシーが確保できる場所で実施するなどの配慮を行い、サポートを行う。

LGBTQ+への社会への理解を促進するための、イベントの主催
Soup Stock Tokyoの各店舗で東京レインボープライド2022期間中にスープを食べることで誰かのAllyになれる「Ally Days」というイベントを開催。「食」を通じて多様性について考え、応援する機会を作っている。イベントの売り上げの一部を、LGBTQ+を含めた全ての子どもを支援するNPO法人「ReBit」に寄付し、小学校への出張授業などにともに取り組んでいる。

まとめ

株式会社電通が全国20~59歳の計60,000人を対象に行った2020年の調査によると、自身が「LGBTQ+層に該当する」と回答した人は全体の8.9%にものぼる。「全体の8.9%」という数字は、たとえ自分自身が当事者でなかったとしても家族や友人、職場の人など身近な人が該当する可能性があることを示している。決して他人事とはいえないLGBTQ+の課題だが、ReBitの調査によると、就職の採用選考時にトランスジェンダーの75.6%が困難やハラスメントを経験している。就職できたとしても、25歳〜34歳のLGBTQ+のうち、この1年で10.5%が長期欠勤や休職を経験し、13.0%が辞職に至っているという。

飲食店がLGBTQ+に関する課題に真摯に向き合うことは、お店のサステナビリティ推進につながるのはもちろん、人手不足が深刻化する飲食業界において、人材の確保にもつながる。優秀な人材の確保が、お店のサービス向上に直結しているのは明白だ。多角的な視点から、LGBTQ+の課題をはじめ「全ての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する」取り組みについて考えてみてはいかがだろうか。

【関連記事】

スターバックスUKが植物性ミルクの追加料金を無料に。イギリスの1,020店舗で実施

【参照サイト】 work with Pride PRIDE指標
【参照サイト】 PRIDE指標2022レポート
【参照サイト】 Biden Just Signed Same-Sex Marriage Protections Into Law
【参照サイト】 プレスリリース(2022/11/29):スターバックス、LGBTQ+ユースの支援に500万円の寄付を実施。5,700名の学生や教育関係者に、LGBTQ+当事者やアライと多様性について考える出張授業を提供。性の多様性に関する取り組みが評価され、「PRIDE指標」の最高評価「ゴールド」を2年連続受賞
【参照サイト】 プレスリリース(2021/11/11) :スターバックス コーヒー ジャパン 性の多様性に関する取り組みが評価され、「PRIDE指標」最高評価の「ゴールド」受賞および最も優れた事例に選定
【参照サイト】 スープストックトーキョーがLGBTQ指標「PRIDE指標」の最高ランク「ゴールド」を3年連続で獲得。
【参照サイト】 電通、「LGBTQ+調査2020」を実施
【参照サイト】 調査速報/10代LGBTQの48%が自殺念慮、14%が自殺未遂を過去1年で経験。全国調査と比較し、高校生の不登校経験は10倍にも。しかし、9割超が教職員・保護者に安心して相談できていない。

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table source 編集部では、サステナビリティやサーキュラーエコノミー(循環経済)に取り組みたいレストランやホテル、食にまつわるお仕事をされている皆さまに向けて、国内外の最新ニュース、コラム、インタビュー取材記事などを発信しています。
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