2050年までに100%サーキュラーエコノミー(循環経済)を実現するという目標を掲げ、まち全体としてサーキュラーエコノミーに取り組んでいるオランダの首都・アムステルダム。
アムステルダムにはサーキュラーエコノミーのコンセプトを体現したユニークでクリエイティブなスタートアップ企業やプロジェクトが星の数ほどあるが、その代表例の一つとして取り上げられることが多いのが、廃棄予定の食材を一流のシェフが調理して提供するレストラン「Instock(インストック)」だ。
Instockの物語の始まりは、2014年にまでさかのぼる。もともとオランダの大手スーパー「アルバートハイン」の従業員だった4人が、スーパーで毎日のように大量廃棄される食品に頭を悩ませるなかで、廃棄食材を使ったレストランというビジネスモデルを思いついた。
社内のビジネスコンテストで勝利を収めた彼らは2014年6月にポップアップ店舗をオープン。大きな反響を呼び、翌年には常設のレストランを構え、それ以降、地元の人々はもちろん海外からの視察も多く訪れる人気のレストランとなっている。
Instockで提供されるメニューは、少なくとも80%が廃棄予定の食材で作られている。毎朝どんな食材が店に運ばれてくるのかを100%予測することはできないため、料理にはシェフのクリエイティビティが試される。
世界一のレストランとして知られるデンマークのレストランnomaなどから転職してきた一流のシェフらが、自らのアイデアと創造性を駆使して廃棄予定の食材をおいしい料理に仕上げ、リーズナブルな価格で提供する。オープン以来、すでに約1,000トンもの食材を廃棄から救っている(2020年3月現在)。
Instockは、自らのアイデアを多くの人に広めようと、廃棄を出さずにクリエイティブに料理を楽しむための料理本「Circular Chefs(サーキュラーシェフ)」を発行している。
今回は、彼らがCircular Chefの原則として挙げている5つのポイントをご紹介したい。
- Choose plant-based(植物由来のものを選択する)
- Embrace the unwanted(規格外やわけあり食材も大事に使う)
- Enjoy from root to stem and nose to tail (根から茎まで、鼻から尾まで楽しむ)
- Preserve what’s left (余った食材は保存する)
- Expand your circular lifestyle outside the kitchen(循環型のライフスタイルをキッチンの外に広げる)
1. 植物由来のものを選択する
FAO(国連食糧農業機関)によると、人為的に排出されている温室効果ガスの7~18%が畜産業に由来するという。工業的な畜産がもたらす気候変動への影響を多くの人が認識するなか、最近ではヴィーガンやベジタリアンという食生活を選択する人も増えている。提供する食材をできるかぎり植物由来のものへと切り替えていく、またその選択肢を増やしていくということは、レストランを気候変動緩和に向けたハブへと変えるだけではなく、食の多様性を提供するという観点でも価値がある。
2. 規格外やわけあり食材も大事に使う
見た目や形がいびつだという理由だけで市場や売り場からはじかれてしまう食材たち。これらの食材も大切に扱うことも重要だ。Instockが食材を卸しているCircl(ABN Amroが運営するサーキュラーエコノミーをコンセプトとする複合施設)のレストランでは、スキポール空港で飛行機の安全な飛行のために撃ち落された鳥なども提供されているという。
3. 根から茎まで、鼻から尾まで楽しむ
食材を端から端まで無駄にすることなく使い切る。これは日本の食文化には古くから根付いている習慣ではないだろうか。魚も肉も、内臓から骨までしっかり料理に使い切り、最後に残った部分からは出汁をとる。日本の食文化には、世界に誇れるクリエイティブなゼロウェイスト・クッキングのアイデアが溢れている。
4. 余った食材は保存する
余った食材を保存するのも日本が得意とする分野だ。漬物に代表される発酵文化はその代表例だろう。野菜などの食材を米ぬかや酒粕などに漬け込ませ、保存性を高めながら味付けをしていく発酵の技術も、サーキュラーエコノミーの視点から見ると非常に優れたアイデアなのだ。
5. 循環型のライフスタイルをキッチンの外に広げる
料理をつくるときだけではなく、それ以外の時間でも循環型のライフスタイルを実践することも、サーキュラーシェフにとって重要なポイントだ。クリエイティブな料理のアイデアは、キッチンの外で生まれることも多い。暮らしのシステム全体を循環型に移行していくことで、自然とキッチンの中にサーキュラーエコノミーの原則が浸透していく。
廃棄をなくすのは、クリエイティビティ
Instockが教えてくれるのは、食材廃棄をなくすうえで一番大事なのはシェフの「クリエイティビティ」だということだ。分量にこだわり、レシピ通りに食材をカットして料理を作っていたら、どうしても余りが出てしまう。しかし、本来料理とはもっと自由で創造的な営みのはずだ。ロスを生み出す「型」ではなく、ロスを生まない「型」を身につける。余りがゴミ箱に向かうのではなく、お客様の口へと向かうアイデアを考える。
日本の食文化には、食のサーキュラーエコノミーを実現するためのアイデアが溢れている。ぜひあなたもサーキュラーシェフへの一歩を踏み出してみてはいかがだろうか?
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