2022年10月11日より、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために行われている入国者数の上限撤廃や、個人旅行の解禁などの規制緩和が始まった。インバウンド対策は、売り上げの増加はもちろん、「フードダイバーシティ(食の多様性)」や「エコツーリズム」など飲食店のSDGs達成にも深く関わる重要な取り組みだ。

飲食店のインバウンドについて、全国の飲食店を対象に行った2022年11月の調査によると、全体の6割近く(57.7%)が、「すでに外国人観光客の客足が増加している」と回答。8割近く(77.5%)が、「外国人観光客の客足増加に期待している」と回答する一方で、飲食店の7割以上(70.4%)は、「外国人観光客の集客に課題を感じている」と回答。そのうち半数以上は対策が打てていないことが明らかになっている。

今回のコラムでは、飲食店のインバウンド対策について、集客だけでなく「飲食店のサステナビリティ推進」の側面からの解説も加えながら具体的な対応策や事例を紹介していきたい。

インバウンドとSDGsの関連性とは?

実は、インバウンド対策とSDGsをはじめとするサステナビリティ推進対策には重なる部分が多い。特に、「食のバリアフリー」とも呼ばれ、世界に存在する食文化や宗教などを背景とした特徴的な食生活や料理が多様に存在することを指す「フードダイバーシティ(食の多様性)」はSDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」と関連が深い。「年齢や性別、人種、宗教などを理由とした不平等をなくし、多種多様な人々がお互いを尊重しあう社会を目指す」という目標の達成において、ヴィーガンやベジタリアンメニューという食の選択肢は、様々な文化や宗教、体質の人が安心して食を楽しむことにつながる。また、ヴィーガンメニューは目標13「気候変動に具体的な対策を」で課題となっている、畜産業による温室効果ガスの抑制にもつながる。

その他にも、サービス向上のための外国語の習得は目標8「働きがいも経済成長も」と、エコツーリズムなどのサステナブルな旅行の需要は目標11「住み続けられるまちづくりを」と、密接に関わっている。また、外国人ゲストとのコミュニケーション不足によって起きるフードロス問題はSDGsの目標12「つくる責任つかう責任」につながる。

01.多様性を理解する

世界にはさまざまな国と文化があり、外国人ゲストをスムーズに受け入れ、もてなすためには、各国の文化や価値観を理解する必要がある。特に食に関しては信仰、嗜好、体質、生活習慣などあらゆることが関連する。多くの日本人にとって当たり前のことでも外国人などにとっては非常識だと捉えられることも。「宗教上の理由で、ヒンドゥー教徒は牛肉を食べず、イスラム教徒は豚肉を食べない」「ヨーロッパやアメリカはヴィーガン・ベジタリアンの人が多い」「台湾では生ものを食べる習慣がない」など、こうした多様な食文化の基本知識をスタッフの研修に盛り込むのも効果的だ。スタッフ一人一人が食の多様性を理解し、配慮することがお店全体のサービスの向上につながるだろう。

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02.確認事項やルールを事前に伝える

後で説明が必要になりそうなお店のシステムやルールを事前に伝えておくことで、トラブルの回避につながる。例えば、1人1品以上の注文をお願いしたい際、入店して席に着いてからのやり取りするのではなく、確認してから席についてもらう。また、その際には会話ではなく文字や写真、現物で伝えることがポイントだ。

月平均3,000人の外国人ゲストが訪れるという大阪・道頓堀の鉄板焼店「鉄板神社」では、言葉で伝えても相手の記憶に残らない場合があるので、店からのお願いやルールを、メニューなどにわかりやすく、その国の言葉で明記している。ルールに納得できずに、メニューを見て帰るゲストも全体の2割ほどいるが、トラブルは減り、売り上げはむしろ伸びているという。

03.多言語メニュー・注文表でオーダーを受ける

先述の「鉄板神社」では店内には韓国語、中国語、英語のメニューも置いており、オーダーの通りをよくするために、メニューと連動して3か国語で書かれたオーダー表も活用している。ゲストはメニューを見ながら注文したい料理の数量をオーダー表に書き込んでスタッフに渡す。ゲストに直接記入してもらうようになってオーダーミスが減り、フードロスの削減にもつながるうえ、外国語がわからないスタッフでも効率よく注文が取れ、職場環境の改善にもつながっている。

また、国の国際観光モデル地区に指定されている岐阜県高山市では、外国人観光客の受け入れ態勢整備の一環として、市内の事業者に向け、ツールの多言語化に対する補助金を交付している。こうした支援制度は他の自治体でも行われているので、調べてみてはいかがだろうか。

04.指差しできるコミュニケーションボードを用意

最近では、日本語の通じない外国人や聴覚や発語に障害のある人など、コミュニケーション支援を必要とする人のために「コミュニケーション支援ボード」を用意する店舗も増えている。お客さまに、ボードにあるイラストや文字を指差してもらうことで意思確認ができる。こうしたボードのデータは、さまざまな自治体のホームページで無料公開されているため、すぐに活用できそうだ。

また、言語が通じない場合、ジェスチャーでコミュニケーションを取るという方法もあるが、日本では良い表現に使われるジェスチャーでも、外国の文化では別の解釈となるケースがあるので注意したい。例えば、「いいね」や「了解しました」という意味の親指を立てるしぐさは、中東など一部の地域で侮辱的な意味合いを持つ。「おいで」と手招きするしぐさは、アメリカや中国などで「来ないで」「あっちに行って」という逆の意味になる。コミュニケーション支援ボードなどのツールを使うことで、こうした誤解を招くリスクも回避できるだろう。

05.ヴィーガンメニューなど食材制限に対応

近年、ヴィーガン人口は世界的に増え続けている。2019年の観光庁の資料によると、主要100ヶ国・地域における、ヴィーガンを含むベジタリアンの人口は、毎年約1%近くの増加傾向にあるという。健康上の理由や、環境への配慮だけでなく、宗教やアニマルウェルフェア、食糧危機に対する懸念など、ヴィーガン・ベジタリアンを選択する背景はさまざまだ。

日本での市場拡大も予想される一方で、日本ではまだ対応する飲食店が少ないためベジタリアンの人にとって外食は気を遣うことだ。訪日ベジタリアンなどを対象とした観光庁の調査によると、「菜食などのオプションがなく食べたい料理を諦めたことがある人」は55%、また「対応店でないと入店しない」と回答した人は45%もいることが明らかになっている。

口コミサイト「トリップアドバイザー」の「外国人に人気の日本のレストランランキング」の上位に毎年ランクインしている岐阜県高山市の「平安楽」では、宗教上の制限などに抵触するような食材は、混ぜずに添えて出し、ゲスト本人の判断にゆだねているという。ヴィーガンメニューや宗教対応メニューを一から作るのは時間と労力がかかるかもしれないが、こうした配慮なら今すぐに実践できそうだ。

【関連記事】 飲食店が知っておきたいヴィーガンメニューを作る5つのポイント

06.アレルゲンとなる食材を表示

特定の食品を摂取した後、皮膚や消化器、呼吸器などに異常が起こるのが食物アレルギー。まずは飲食店側が、自身のお店のメニューに使用されている食材を正確に把握しておくことが重要だ。アレルギー食品の表示方法としては、メニューにアレルゲン食材の有無を記載するのが一般的だが、近年ではお店のホームページでアレルギー表を公開しているケースも増えている。

先述の「平安楽」では、アレルギーのある人のために小麦不使用の醤油や、アルコールを添加していない味噌など常備している。アレルギーのある人が来店した時には、その調味料のパッケージを席まで持って行き、目で確認してもらうという。

農林水産省の公開している「飲食事業者のためのインバウンド対応 ガイドブック」には、アレルギー源となりやすい食材と、宗教上の戒律に関わるおもな素材をリストアップした「アレルギー・食べられない食材チェックシート」が掲載されている。先述の「コミュニケーション支援ボード」と同様、指差しで確認ができるので、外国の人だけでなく聴覚や発語に障害のある人とのコミュニケーションにも役立てることができる。

07.Wi-Fi環境を整える

旅の情報源として、多くの外国人観光客が インターネットを活用しているため、フリー Wi-Fiの環境がある店は、食事の場として選ばれやすい。また、SNSを利用している人も多く、その場で料理やお店の写真を撮影してSNSに投稿してもらうことで、集客にもつながる。
また、フリーWi-Fi導入の際にはその旨を店頭に掲示するなど、わかりやすくアピールするのが効果的だ。観光庁は、訪日外国人旅行者向けのフリーWi-Fiの整備促進のため、フリーWi-Fiを利用できることを示す「Japan.Free Wi-Fi」マークを作成している。申請サイトでWi-Fiスポット情報の登録とシンボルマークの使用申請を行うことで、マークの使用と同時に、観光庁の運用する英語のフリーWi-Fiスポット検索サイトに登録することができる。

08.決済方法を多様化する

多くの国で、支払いの主流はカード決済だ。国・地域によって使用カードの傾向にも違いがあるため、複数の種類に対応できることが望ましい。近年はスマートフォンやタブレット端末でカード決済ができるシステムも登場している。

また、その他に会計の際にクレームにつながりがちなのは、「消費税」や「時価」について。特に、旬の魚介類が「時価」であることは外国人ゲストには馴染みのない考え方だ。消費税がかかること、時価の素材があることは注文前に伝えておくのが良いだろう。

09.外国語での接客に対応

訪日外国人観光客と円滑に意思の疎通を図るため、外国語を習得したり、外国語に堪能なスタッフを雇用するのも1つの方法だ。福利厚生サービスの一貫として、営業時間外に講師を招いて英語研修会を実施したり、外部英会話学校に通う費用を条件付きで負担している企業もある。お店にとっては、従業員の外国語学習を支援することでサービス向上につながり、従業員にとってもスキルアップの機会を得ることができる。SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」のターゲットにある、働きがいのある持続可能な職場づくりの後押しになりそうだ。

10.外国人従業員を雇用する

国際的な共通語である英語に加え、中国語、韓国語など、訪日客数の多い国々への対応ができることが望ましいが、日本人従業員がそうした複数の言語スキルを身につけるのは非常に難しいことだ。

先でも紹介した大阪の道頓堀「焼鉄板神社」の行っているインバウンド対策のなかで最も効果的だったのは「外国人スタッフの採用」だという。現在同店では、韓国、中国、台湾、ベトナム人スタッフが接客に当たっている。日本人には馴染みのない各国の食文化や食習慣にも対応でき、行き届いた接客が実現できるうえ、外国人ゲストの安心感につながっているという。また、国籍や人種、宗教の異なる外国人スタッフが自分の能力を最大限に活かして働くことは、SDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」の実現につながっている。

まとめ

いかがだっただろうか。新型コロナウイルスの感染拡大防止のための規制緩和が始まったことで期待を集めるインバウンド消費。また、2020年に実施された意識調査では、コロナ禍がきっかけで「社会と自分の暮らしがつながっていると実感した」人が増えており、消費者のサステナビリティ意識が高まっていることが明らかになっている。

SDGsが目指す「誰一人取り残さない、グローバル社会の実現」というと、ハードルの高い遠い目標に感じるかもしれない。しかし、目の前の外国人ゲストをおもてなしするひとつひとつの対策がSDGsの目標実現につながっていると認識することで、少し身近なものとして感じられないだろうか。まずはできるところから取り組むことで、持続可能なお店づくりに一歩近づけるはずだ。

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【参照サイト】 インバウンド規制緩和から1ヶ月、飲食店の半数以上が客足が増加していると回答一方で、全体の6割近くは人手不足がより深刻化することを不安視 エビソル、飲食店向けインバウンドに関するアンケート調査を発表
【参照サイト】 観光庁:飲食事業者等における ベジタリアン・ヴィーガン対応ガイド
【参照サイト】 農林水産省:飲食事業者のためのインバウンド対応 ガイドブック
【参照サイト】 山口市:コミュニケーション支援ボードのダウンロード
【参照サイト】 観光庁:「Japan.Free Wi-Fi」のウェブサイトの検索機能等を拡充しました
【参照サイト】 電通:よりサステナブルな世の中へ。コロナ禍がもたらした生活者意識の「5つのシフト」

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table source 編集部では、サステナビリティやサーキュラーエコノミー(循環経済)に取り組みたいレストランやホテル、食にまつわるお仕事をされている皆様に向けて、国内外の最新ニュース、コラム、インタビュー取材記事などを発信しています。
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