環境負荷の少ないエネルギーとして注目される、水素エネルギー。
東京都は2023年12月11日に水素施策の方向性を紹介した「東京水素ビジョン」を策定。2030年までに都内温室効果ガス排出量を50%削減(2000年比)する「2030年カーボンハーフ」と、その先の2050年脱炭素社会の実現を目指している。
水素調理だからこそ活きる、素材の持ち味
水素エネルギーの普及を促進するには、水素への理解促進や機運醸成とともに、水素社会の体験価値向上が不可欠。そこで、水素の利活用コンサルティングや、水素コンロの製造・販売を行う「株式会社H2&DX社会研究所」は、水素調理による水素焼レストラン「icHi(いち)」のオープンを発表した。
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icHiは、2024年4月12日に東京都内で開店。水素で調理された「水素焼きコース」を味わうことができるうえ、水素料理のために考案したワインペアリングも楽しむことができる。また、従来ガスでの調理と水素調理による同一食材の食べ比べも提供される。H2&DXの発表したプレスリリースによると、水素調理を用いた水素焼レストランの開業は世界で初めてのことだという。
水素コンロの燃料は、燃焼の際に二酸化炭素を排出しない水素ガス。水素は無臭のため、食材に燃料の臭いが付かず、食材本来の風味を活かした調理が可能だという。さらに、空気中の酸素と結合して水蒸気が発生するため、しっとりとした焼き上がりも特徴だ。
- 店舗名称:icHi(いち)
- 所在地:東京都港区(詳細住所非公開)
- 営業日:週4日(火、水、金、土)
- 営業形態:1部制・一斉提供
- メニュー:水素焼コース(鳥) 、水素焼ワインペアリング
協力企業とともに実現した、サステナブルな調達
H2&DXでは、2024年2月1日のプレスリリースでicHiのコンセプトを発表し、参画企業を募った。
(※ 五十音順・敬称略、2024年3月26日時点)
参画企業とともにお店のさまざまな部分でサステナビリティにこだわっており、「株式会社瓦粋」の協力により床には壊れてしまった瓦が敷き詰められ、床材として活用されている。店内で使用するグラスは廃車の窓ガラスを再融解してガラス食器に仕上げた「小樽再生ガラス」だ。
コースを通して使用される白い食器は、石川県の老舗洋食器メーカー「ニッコー株式会社」のファインボーンチャイナ製の商品。ニッコーでは、捨てられる食器をリン酸肥料としてリサイクルする技術を確立。サステナブルな肥料「BONEARTH(ボナース)」として製造・販売している。その他にもサーキュラーエコノミー(循環経済)の原則に沿ったさまざまな取り組みを進めており、BONEARTHもそうした取り組みのひとつだ。
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icHiでは、サステナブルな食材として、このBONEARTHを使って育てられたコシヒカリ「ボナース米」を提供する。ボナース米が育つ石川県白山市鳥越地域では、朝日が早くのぼり夕日が落ちるのが早く、「白山おろし」と呼ばれる白山からの山風の影響を受け寒暖差が大きいことから、昔からおいしいお米ができるといわれているという。
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東京都の水素利活用モデルとして期待
icHiのオープンに先立ち2024年3月に行われた内覧会とオープニングレセプションには、小池百合子東京都知事も視察に駆けつけた。
東京都立産業貿易センター浜松町館で行われたレセプションで小池都知事は、「今現在、残念ながら水素そのものや水素エネルギーは多くの方々にとって一般的ではないと思います。そうしたなかで、『レストラン』を通して水素を知ってもらうことで、未来をぐっと身近に感じてもらえるのではないでしょうか。
東京都ではすでに、水素ステーションと連携した燃料電池で走る都営バスが80台ほど走りまわっています。水素エネルギーに関連した予算も前年度から倍増させており、水素の活用が進む都市の姿を発信していきたいと考えています。
水素は『つくる』『はこぶ』『つかう』という3つの観点から施策を推進していく必要があります。そのためにはまず楽しみながら便利さを味わっていただくことが大切。今回オープンした水素焼きレストラン『icHi』もそうした具体的なモデルのひとつになると思います。」と、今後の期待を語った。
今回オープンしたicHiの大きな特徴として、「ショールームとしての要素」を兼ね備えている点がある。同店では、水素調理によるメニューを提供するだけではなく、稼働中の関連機器やインフラ設備など、来店者が実際に使用シーンを見ることができる。
また、来店者だけでなく水素調理器の導入を検討する飲食店関係者にもその仕組みやビジョンを身近に感じられるだろう。五感に伝える水素の利活用を発信していくicHiの今後と、発信の先に広がる新たな展開に期待したい。
【参照サイト】 H2&DX、世界初・水素焼レストランを都内に開業
【参照サイト】 水素焼レストランicHi 開店のお知らせ
【参照サイト】 東京都環境局:東京水素ビジョンを策定しました