ハラールとは?食べられない代表的なものや飲食店が取り組むべきハラール対応を解説

ハラール

近年増加するイスラム教徒の訪日観光客。飲食店にとって、宗教上食べてはいけないものが明確化されているイスラム教徒のお客さまを受け入れるためには、「ハラール」への理解が必須である。お店の「フードダイバーシティ(食の多様性)」を推進するためにも、基本的な情報を知っておきたいと考えている飲食店の方も多いのではないだろうか。

この記事では、ハラール対応について、飲食店ができることを紹介する。万が一、対応を怠れば、信用を失うだけでなく、トラブルに発展する可能性もあるだろう。

これから増えていくであろうイスラム教徒を迎えられるよう、ライバルより早くハラール対応に取り組もう。

ハラールとは

ハラール

ハラール(Halal)とは、日本語に訳すと「許されているもの」と言う意味。イスラム教徒(通称ムスリム、女性はムスリマ)で大切にされている考え方で、生活において合法なものがハラールとされている。

一方で、非合法とするものはハラームと呼ばれ、神より禁じられている行為だとされている。イスラム教徒は、食事や服装から普段の行いまで、生活のすべてを「ハラールかハラームか」で判断している。

神の教えに背く行動を避けるため、イスラム教徒は基本的にハラールに対応した店しか選ばない。そのため、イスラム教徒を迎え入れたい飲食店は、ハラール食への理解と対応が必須である。

イスラム教徒が食べられない5つのもの

ハラール

一般的には、食べられないもの(ハラームだとされるもの)を避けて料理やサービスを提供すれば、イスラム教徒に対して失礼にあたる可能性は少ないだろう。ハラール対応店としてのスタートラインに立つためにも、イスラム教徒が食べられないものについて理解しておく必要がある。

1.豚肉

ハラームのなかで、とくに避けるべきとされているのが豚肉である。豚肉そのものを禁止するだけでなく、一部では家畜を飼育する際にハラール対応した飼料での飼育を求められる場合もある。また、豚由来の成分が入ったものも好ましくないとされているため注意が必要だ。たとえば、豚の皮が原料のソーセージや、豚からダシを取ったスープなどもハラームにふくまれる。

イスラム教徒では、豚を食べることは禁忌とされていることを理解し、徹底してメニューから排除しなければならない。

2.アルコール

酔いを引き起こす作用のあるアルコールの接種は、イスラム教では禁止されている。そのため、食前や食後をふくめ、アルコールを勧めることがないよう注意しなければならない。

また、アルコールに関しては、考え方に個人差があることを理解しておきたい。たとえば、料理に調味料として使用することを問題ないとする場合と、好ましくないとするケースがある。

一方で、アルコールで手指の消毒をする場合は、問題ないケースが多い。イスラム教徒のお客さまをどれだけ迎えたいかによって、対応の度合いが求められる。

3.適切に処理されていない肉

豚以外の食肉でも、イスラム法で定められている処理ができていない肉は、ハラームと判断される。また自然死や病死などをした動物の肉もハラームに該当する。

と畜については、現在ほとんどの国際的なハラール基準において動物を気絶させるスタニング(ノッキング)が認められるようになってきているが、一部にはスタニングの使用を禁止するハラール基準や考え方も存在する。

4.血液

血液自体がハラームとされるため、すっぽんの生き血のような料理の提供はしてはならない。また、血抜きのされていない料理自体も避ける必要がある。

さらに、切り口から血を連想されるのを防ぐため、肉の断面はよく焼いた方が好ましい。こういった個人差が生まれる部分では、焼き加減を積極的に聞くなどの対策も一つの手段である。

5.うろこのない魚(宗派による)

魚類はハラールとされているため、提供しても問題はない。ただし、うろこのない魚に関してはハラームとされているため注意が必要である。

うろこのない魚には、うなぎや穴子が該当する。宗派によっては問題ないケースがあるため、どこまでハラール対応するかの判断が必要である。

食べても問題のない食材はハラールフードと呼ぶ

ハラール

ハラーム以外の食べ物は、神に食べることを許されたハラールフードと呼ばれる。飲食店においては、イスラム教徒が日常的に食べているハラールフードについても知っておきたい。

ハラールフードに該当するものは、野菜・果物・穀物・豆類・魚介類・牛乳・卵などであり、日本に流通している多くの食材を利用できる。ただし、ハラールとされるアルコールを原材料として使用すると、ハラームに該当する可能性があるため注意しなければならない。

ハラーム以外のものであれば提供して問題ないという考えを持つと、サービス内容を決めやすいだろう。さらに、動物性の肉を使わないヴィーガンやベジタリアン対応のプラントベース(植物性)ミートを活用すると、メニューのバリエーションも豊かになりそうだ。

ハラールフードとはなにかを理解したうえで、独自性のあるメニューの提供ができれば、他店舗との差別化も期待できる。
【関連記事】 飲食店が知っておきたいヴィーガンメニューを作る5つのポイント

飲食店がハラール対応をした方がいい理由

ハラール

今のうちに飲食店がハラール対応を行うことで、今後の利益アップが期待できる。時代の流れを汲んでチャンスをつかむためにも、飲食店がハラール対応をした方がいい理由を解説する。

イスラム教徒人口が増加しているため

イスラム教徒の人口は増加傾向にあり、世界の4分の1の人口を占めているのが現状だ。また、日本にも現在20万人以上のイスラム教徒が住んでいるとされる。インバウンド観光客が増えつつある今、より多様なお客さまを迎えるためには、需要が増えているハラールへの対応が必要といえる。
【関連記事】 インバウンド集客とSDGs推進を同時に解決!飲食店の「食の多様性」対策10選

「食の多様性」に対応するため

近年では、サステナビリティの観点から、食の多様な選択を尊重し、環境を整え対応する「フードダイバーシティ対応」の重要性に注目が集まっている。フードダイバーシティ(Food Diversity)とは、直訳すると「食の多様性」。一般的に使われる意味としては、世界に存在する食文化や宗教などを背景とした特徴的な食生活や料理が多様に存在することを指す。近年では宗教や文化といった背景的な特性だけでなく、健康上の理由や思考に基づくものも含めて捉える傾向がある。

近年では世界的なサステナブル意識の高まりから、飲食店に対して「より自由な食の選択肢」を期待する人が増えている。
【関連記事】 フードダイバーシティ(食の多様性)とは?

他店との差別化を図れるため

ハラール対応をすることで、競合店舗との差別化が図れる。神からの教えを大切にするイスラム教徒は原則、ハラール対応をしていない店舗で食事をしないためだ。

また、ハラール料理は、新たな食のトレンドとしてニューヨークをはじめ世界で注目されている背景もある。ニューヨークの有名屋台(ベンダー)「Halal Guys(ハラルガイズ)」はいつも行列のできていることで知られている。定番メニューのチキンオーバーライスは、野菜がたっぷり入っており健康的なうえリーズナブルな価格で、観光客にも地元の人にも人気だ。

イスラム教徒の観光客の増加が予測できるため

新型コロナウイルスの拡大が落ち着き、観光客が増えることが予想される。なかでも、人口の多いイスラム教徒が、インバウンドの整備が進められている日本へ来訪する可能性は高いだろう。

また、観光客以外に、ビジネス目的での来訪も考えられる。トルコのエルドアン大統領がG20で来日した際、「ハラール対応の飲食店が見つからず、ビジネスホテルの低単価のレストランを選んで食事をした」ことを公表している。

イスラム教徒が食事をする場合、ハラール対応をしているかどうかで店を選ぶことが多いため、飲食店の選択肢が限られる。日本国内での対応店はまだまだ少なく、今のうちからハラール対応をすることで、観光客やビジネス目的で来訪したイスラム教徒のゲストに選ばれる可能性は高いだろう。

飲食店が取り組むべきハラール対応

ハラール

飲食店でハラール対応をするといっても、なにから始めればいいかわからないケースがあるだろう。飲食店が取り組むべきハラール対応のなかには、準備が必要なものが多くあるため、早めに行動へ移すことが大切だ。1つずつでも実践していき、イスラム教徒がハラームの不安なく過ごせるような店舗づくりをしていこう。

ハラール認証を取得する

ハラール認証とは、第三者機関によりハラールに対応している店舗だと証明できる制度のことである。認証マークを取得すれば、イスラム教徒へハラール対応ができていることを分かりやすくアピールすることができる。

ハラール認証の機関は、世界で300以上あるとされている。判断基準は機関により異なるが、一般的には原材料がハラールかどうかや、適切な保管ができているかなどがチェック項目である。

ほかにも、ハラールとハラームを分けて管理しているかを判断基準とするケースも多い。無事審査が通れば、店舗入口に認証ステッカーの貼り付けたり、ホームページで公表したりできるのが魅力である。ハラール認証を利用すれば、イスラム教徒が利用する店舗を決めるときの指標となり、選ばれることが増えるだろう。

ハラール対応がわかるメニュー表にする

メニュー表にハラール対応料理であることを記載することで、イスラム教徒のお客さまが注文しやすくなるだろう。ほかにも、ハラール専用のメニュー表の用意や、原材料を細かく記載する方法などもある。

さらに、指差しだけで意思疎通ができるコミュニケーションボードを用意する方法も有効だ。イスラム教徒が、イラストや文字だけで安心してハラール対応メニューを注文できる。メニュー表に気を配り、ハラールへの理解がある店舗だと知ってもらうことが大切だ。

ハラール専用の調理器具・食器を用意する

イスラム教徒のなかには、ハラール専用の調理器具や食器がないと、不快感を覚える人もいる。ハラームである豚肉を焼いたフライパンでほかの料理をしても、ハラームに該当してしまうためである。

さらに、ハラームの食材に触れた調理器具は、洗浄したとしてもハラールとしては使えない。イスラム法で定められた方法で清め、初めてハラールとして扱えるようになる。  正しいルールに基づき調理器具・食器を別にすることで、より本格的な対応店としてPRすることができるだろう。

イスラム教徒専用スペースを用意する

ほかの客がアルコールの摂取をしたり、豚肉を食べたりする様子を見たくないというイスラム教徒もいる。そのため、イスラム教徒の専用スペースや個室を作れば、安心して食事を楽しんでもらえる。

また、礼拝ができるスペースも用意するとより親切である。イスラム教徒は1日5回お祈りをする時間があるため、礼拝スペースがある飲食店は気軽に利用しやすい。イスラム教徒の考え方を理解し、習慣を尊重したうえでのサービス提供をすれば、何度も利用してもらえる店舗になるだろう。

ハラールでは食べられないものを理解することが大事

ハラール
増加が見込まれるイスラム教徒の観光客を飲食店へ呼び込むためには、ハラール対応が必須である。

多くの日本人にとっては馴染みのない習慣のため、一見難しい対応のように感じるかもしれないが、食べられないものであるハラームを避けることを意識すれば、トラブルなく対応することができるだろう。まずは、専用のメニュー表の提供や、専用の調理器具の準備など、できることから始めてはいかがだろうか。

また、お店のフードダイバーシティ(食の多様性)を推進することで、サステナブルなお店づくりにも一歩近づくことができるだろう。イスラム教徒のお客さまを含め、より多くの人に寄り添ったサービスの提供を考えることで、お店の売上げアップにも貢献できそうだ。

【関連記事】

インバウンド集客に必須!飲食店の「フードダイバーシティ」対策10選

【参照サイト】 四日市市役所
【参照サイト】 一般社団法人ハラル・ジャパン協会 
【参照サイト】 NPO法人日本ハラール協会
【参照サイト】 国際機関日本アセアンセンター:HALAM(ハラム)=禁止された
【参照サイト】 国際機関 日本アセアンセンター:HALAL(ハラル)=許可された
【参照サイト】 国土交通省:イスラム教とは
【参照サイト】 独立行政法人 国際協力機構:「日本のムスリム社会」イラン事務所職員によるテヘラン大学における講義」

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