ジビエ

ジビエといえば、田舎でしか味わえない郷土料理というイメージを持つ人もいるだろう。しかし近年のジビエブームにより、積極的にメニューに取り入れる飲食店も増えてきた。

ぼたん鍋や鴨鍋といった定番の日本料理だけでなく、ジビエバーガーといった若者向けのメニューを取り入れるファーストフード店も登場している。飲食店やレストランがジビエ料理を積極的に取り入れることで、害獣として捕獲後にただ廃棄されてしまう野生鳥獣を減らすことができる。

今回のコラムでは、ジビエの種類だけでなくジビエの普及が拡大した背景など、サステナブルな視点で解説する。

ジビエとは

ジビエ

「ジビエ(gibier)」とはフランス語であり、狩猟で得た野生の鳥獣の肉を指す言葉だ。フランスでは高級食材として扱われ、かつては上流貴族しか食べられないほど貴重だったと言われている。日本でも古くから親しまれており、江戸時代においては肉食が忌避されていたにもかかわらず、上流階級だけでなく庶民の間でも食事処などでひそかに食べられていた。現在、シカ肉は「もみじ」、イノシシ肉は「ぼたん」と呼ばれることもあるが、この呼び方は、かつて肉食忌避を回避するために植物の名前を付けて隠語で呼んでいた名残だといわれている。

現代の日本では、野生鳥獣による農作物への被害防止の対策として、農林水産省をはじめ行政がジビエの活用を推奨している。毎年11月15日~翌年2月15日(北海道のみ毎年10月1日~翌年1月31日)を狩猟期間として定めており、命ある生き物を捕獲後にただ廃棄するのではなく、ジビエとして有効活用することで、サステナブルな活動につなげている。

ジビエの種類

日本には野鳥・野獣が約700種生息しているが、鳥獣保護管理法施工規制により狩猟鳥獣としては46種類が選定されている。これらの狩猟鳥獣から、イノシシやシカをはじめとする代表的なジビエの種類について、農作物などへの被害状況もあわせて紹介しよう。

1.イノシシ

ジビエ

イノシシは、全国の農作物被害金額ではシカに次いで2位となっており、積極的に捕獲が進められている野生鳥獣の1種だ。狩猟による捕獲頭数及び被害防止などを目的とした許可に基づく捕獲頭数の合計について、2000年度は15万頭に対し、2020年度は53万頭となっており、大幅に増加している。

日本人にとって、イノシシの肉はぼたん鍋を中心としてもっとも認知されているジビエなのではないだろうか。肉の味としてはクセが少なく甘みのあるさっぱりとした脂身が特徴だ。栄養価も高く、同じ量の豚肉と比較すると、ビタミンB12は豚肉の3倍、鉄分は4倍多く含まれている。

2.シカ

ジビエ

シカは、全国の農作物被害金額で1位となっており、イノシシと同様に捕獲頭数も増加傾向にある。狩猟による捕獲頭数及び被害防止などを目的とした許可に基づく捕獲頭数の合計については、2000年度の14万頭に対し、2020年度は72万頭となっている。

シカ肉は、高級牛肉の赤身のような食感があり、西洋では高級ジビエとされている。脂肪が少なく、低カロリー高たんぱくのヘルシーな食肉として人気が高い。食べ方は、炭火で焼いたり煮込みにしたり、もみじ鍋としても親しまれている。

3.クマ

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クマは、農作物だけでなく養鉢や養魚、林業への被害がある。特に、ツキノワグマによる樹皮剥ぎは局所的に被害は甚大だ。また、各地で人身被害なども報告されており、2020年度における被害件数は141件報告されている。

食肉に関して、クマ肉は生活習慣病の予防にも役立つと言われているオレイン酸を多く含む。シカ肉とは対照的に、うまみのある脂が多い。脂の乗ったクマ肉は、そのまま焼いても、鍋にしてもおいしく食べることができる。

4.ウサギ


ウサギは、植栽木を採食することで苗木が枯死するといった林業への被害が報告されている。再造林樹種として期待されているコウヨウザンについては、特にノウサギの被害を受けやすい。

ウサギ肉に関しては日本だけでなく世界でも古くから食されている。肉質がとても柔らかく、脂肪も少ないため、ヘルシーな肉である。鶏肉のような淡白な味のなかにコクがあり、パエリアや煮込みなどが人気だ。

5.アナグマ

ジビエ

アナグマは、甘みのある作物などの嗜好性が高く、国内でもイチゴ、スイカ、トウモロコシなどの被害が報告されている。

食肉に関して、アナグマ肉は1頭からとれる肉の量が少なく、猟師が自分で食べることが多い。そのためあまり流通しておらず、幻のジビエと呼ばれている。味に関して、漁師の間でも定評があり、秋から冬にかけて越冬のために溜め込む大量の脂肪には、濃厚な甘みがあるという。

6.ヌートリア

ジビエ

ヌートリアは、南アフリカが原産の外来種で、繁殖力が高い生き物である。食欲が旺盛なため、水辺の環境を激変させることもあるほどだ。農林水産省の報告によると、2018年度の日本国内の被害額は約6500万円ほどで、主にイネや野菜の被害が多い。

食肉としては、主食が水草や植物のため、肉に臭みがなく淡白で上品な味だ。中国の一部の地域では「海龍」と呼ばれ、炒め物や揚げ物として親しまれている。

7.カモ

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2011年度より減少傾向にあるものの、被害の対象となる作物は、主にイネ、野菜、ムギ類、ノリ養殖など広範囲にわたる。レンコンもカモ類による被害を受ける。

鴨南蛮や鴨せいろなど、日本でも古くから親しまれてきたカモ肉の料理。スーパーなどで流通しているカモ肉はジビエではなく、食肉用にアヒルと交配された合鴨と呼ばれる品種である。ジビエとしてはマガモが一般的で、合鴨と比べると脂が少なくカモ独特の香りがあることが特徴だ。

8.カラス

ジビエ

日本中どこでも見かけるカラスは、果樹、野菜、飼料作物、穀類などの農作物の被害だけではなく、生まれた子牛をつつく、ビニルハウスを破く、ゴミを荒らすなど、被害の内容が、他の鳥類と比較して多岐にわたるのが カラスの特徴である。

調理法は、ロースト、空揚げ、煮込みなど。食感は鳩に比べて少し硬く、赤みがやや強く、太ももの筋肉が発達しているため、もも肉がしっかり取れる。胸肉は牛に近い赤身で、臭みがなく柔らかいのが特徴。ももは若干の固さはあるものの、地鶏のような味わいだという。

ジビエが注目されている背景

ジビエが注目されている背景として、野生鳥獣による農作物への深刻な被害が影響している。令和3年度の被害額は155億円となっており、年々減少しているものの被害額の大きさゆえに引き続き対策を強化していかなければならない。

鳥獣被害は営農意欲の減退、耕作放棄や離農の増加、さらには森林の下層植生の消失などによる土壌流出など、被害額として数字に表れる以上に農山村に深刻な影響を与えている。こうした農山村地域の衰退や、有害鳥獣の捕獲後の埋却・焼却処理の負担といった課題を解決するため、ジビエ振興が重要となる。被害防止のために捕獲するだけでなく、捕獲鳥獣をジビエとして活用し、地域資源として利用することで農山村地域の所得向上が見込めると期待されている。

また近年では、消費者に動物福祉や家畜福祉とも呼ばれる「アニマルウェルフェア」の考え方が浸透しつつある。ジビエは“命をありがたくいただく”大切さを消費者に伝える役割も担っているといえる。

ジビエの利用拡大に向けた取り組み

事例

ジビエは飲食店での利用拡大だけでなく、ペットフードなど他の用途でも利用量が年々増加傾向だ。農林水産省は、2019年における利用量の倍増を2025年度までに目指すという目標を掲げており、利用拡大に向けた取り組みを推進している。ここでは、利用拡大に向けた主な取り組みを紹介しよう。

国産ジビエ認証制度

農林水産省はジビエの利用拡大にあたり、2017年度に衛生管理の遵守やトレーサビリティ確保のための認証基準を設けた国産ジビエ認証制度を制定した。

ジビエには寄生虫やウイルスによる食中毒といったリスクが懸念されており、取り扱いには注意が必要だ。こうした問題を解決するために、徹底した衛生管理、カットチャートによる流通規格、表示ラベルの記載事項、トレーサビリティに関する記録の管理保存など4つの遵守事項を制定している。認証されている食肉処理施設は30施設以上あり、消費者が安心して購入できるよう安全性の向上や透明性の確保を目指す。

全国ジビエプロモーション事業

ジビエに興味がある若者層を主対象としてジビエフェア開催事業などを実施。キャンペーン期間の設定及び協賛飲食店などを募集し、全国ジビエフェアの開催やジビエ専用ポータルサイトなどにて、ジビエ関連情報を発信する。それらのイベントや情報発信を通じてジビエの普及を拡大させることが目的だ。

プロ向けジビエ料理セミナー

2016年度より料理人を対象としたジビエ料理のセミナーを開催している。セミナーでは、飲食店の方や調理師養成施設の関係者に向けてジビエの流通・仕入れのルールや、衛生管理の方法、調理方法などの説明を行う。
座学だけでなく、解体から調理実演、試食まで行っており、ジビエの正しい基礎知識と調理方法の普及を促進し、需要の拡大を目指す。

ジビエアカデミーのオープン

2023年5月16日、大分県宇佐市に日本初のジビエ処理研修施設である日本ジビエアカデミーがオープンした。こちらの施設では、ジビエの基礎知識やおいしいジビエの作り方などを学べ、要望に応じて狩猟から食肉加工、販路拡大、開業支援まで幅広くサポートを受けることができる。

ジビエ料理に関心のある飲食店の方がノウハウを習得できるだけでなく、すでにジビエに携わっている方も、管理体制の見直しに役立つだろう。
【関連記事】 日本初、ジビエの処理や衛生管理を学べる「日本ジビエアカデミー」がオープン

ペットフード利用の拡大

2021年度におけるジビエのペットフード利用は、ジビエ利用量全体の約3割を占めている。これまでは、においが強く食肉利用としては不向きな肉や、内臓・皮・骨などは廃棄されていた。今後は、衛生的に問題が無ければペットフードとして利用するなど、ジビエペットフード原料に関するマニュアルによる品質レベルの明確化を行い、さらなる利用量拡大を図ろうとしている。

また、近年では動物園・水族館でのエサとしての利活用例もあり、豊橋総合動植物公園のライオンや、男鹿水族館GAOのホッキョクグマへの給餌が報告されている。

ジビエ取り扱い事業向けの補助金制度

鳥獣被害防止総合対策交付金として、鳥獣捕獲の強化や、ジビエ利用拡大への取り組みを支援する補助金制度だ。補助対象としては、鳥獣被害の防止や捕獲活動の強化を推進するための費用だけでなく、ジビエを扱う飲食店の拡大に向けて支援するための費用がある。

ジビエの普及拡大はサステナブルな活動につながる

サステナビリティ

ジビエは、豚や牛、鳥肉とは違った独特な味わいや栄養価の高さが魅力的な食材だ。これまで、害獣として捕獲し廃棄していた命を「山の恵み」として感謝を持って活用することで、農山村地域の所得向上の後押しになるうえ、廃棄物の削減や食糧確保にもつながる。

本記事で紹介した利用拡大に向けた取り組みを参考に、飲食店がジビエについて知り、活用することで、サステナブルなお店づくりが目指せるだろう。

【関連記事】

今、注目の「経産牛」とは?ブームの理由と特徴を解説

【参照サイト】 環境省 野生鳥獣の保護及び管理
【参照サイト】 農林水産省 捕獲鳥獣のジビエ利用を巡る最近の状況
【参照サイト】 文部科学省:日本食品標準成分表/肉類
【参照サイト】 クマ類の保護・管理の基本と出没及び錯誤捕獲への対応
【参照サイト】 環境省 クマ類による人身被害について
【参照サイト】 ブナの里 白神館
【参照サイト】 林野庁 ノウサギ被害対策検討事業報告書
【参照サイト】 参考:肉の鈴木屋 ウサギ肉
【参照サイト】 農林水産省 野生鳥獣被害防止マニュアル
【参照サイト】 備後ジビエ制作所:アナグマ肉
【参照サイト】 合同会社ワイルドライフ:鳥類のジビエ食材
【参照サイト】 農林水産省:国産ジビエ認証制度
【参照サイト】 参考:農林水産省農村振興局 鳥獣被害防止総合給付金

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