食べ物を無駄にしてしまう「フードロス(食品ロス)」は、世界全体で大きな問題になっている。実際に、飲食店を経営しているのであれば、食材を捨てざるをえない状況に直面することが多いだろう。
フードロスの状態を仕方ないと放置していると、飲食店自体の経営が危うくなる場合もある。食材を捨てることは、無駄なコストの発生を意味しているからだ。
この記事では、フードロスに関する現状と原因を解説しつつ、飲食店が取り組める対策を紹介する。
フードロスについての理解を深め、社会貢献への意識を向上させてほしい。そして、同時にお店の利益アップも実現させ、より質の良いサービスを提供できる店舗へとアップデートしていこう。
フード(食品)ロスとは
フードロスとは、食べられる状態にもかかわらず廃棄される食品のこと。国として解決すべき問題であり、農林水産省では「食品ロス・リサイクル対策室」が設立されているほどだ。
フードロスに対しての意識を高く持ち、対策の実践につなげるためにも、日本の現状や内訳を分析する必要がある。
フード(食品)ロスの現状
環境省が2021年に出した統計を見ると、年間523万トンものフードロスが起きていることがわかる。具体的には、毎日1人あたりお茶碗1杯分の食べものを捨てている状態だ。
2012年度のフードロスの量は642万トンにものぼるため、減少傾向といえるが、1人ひとりがさらに意識を持って行動をし、さらなる削減に努めていく必要があるだろう。
フード(食品)ロスの内訳
フードロスは、家庭から出る「家庭系食品ロス」と、製造や小売などの事業関係で出る「事業系食品ロス」に分けられている。
2021年のフードロスである523万トンのなかで、「家庭系食品ロス」は、244万トンを占めている。一方で、「事業系食品ロス」は、279万トンだ。
「事業系食品ロス」についてさらに細かく見ていくと、外食産業が80万トンものフードロスを出していることがわかる。現状を把握したうえで、外食産業全体で削減に向けて動かなければならない。
SDGsの達成には食品(フード)ロスの解決が必要
SDGsとは、人々が快適な生活を送り続けるために、世界が共通で掲げる17個の目標のこと。たとえば、貧困や飢餓、教育などの問題の改善が挙げられる。
SDGsの達成には、フードロスの解決が欠かせない。なぜなら、目標のひとつに「つくる責任 つかう責任」があるからだ。具体的には、食料廃棄を世界全体で半分にすることが挙げられている。
日本でも、SDGs対策本部を設け、取り組み状況の分析や推進策の制定を毎年実施しているのが現状だ。また、SDGsに積極的な企業や団体を表彰する「ジャパンSDGsアワード」を開催し、国民に行動を促している。
フード(食品)ロスがおよぼす問題
フードロスの発生を放置することで、環境破壊や食糧不足など、日本だけに留まらない問題へと発展していく。
事業においてもコストアップが考えられるため、フードロス発生がおよぼす問題について理解しておく必要がある。
環境破壊
ごみとして出される食品は、処理工場で可燃ごみとして処分される。運搬や焼却の際には二酸化炭素が排出され、環境に負荷がかかっている。
また、食料の生産や加工の過程でも温室効果ガスが発生し、地球温暖化の原因となっていることを忘れてはならない。
食べないものを生産・処理までしている現状は、無駄な環境破壊を引き起こしているといえるだろう。
流通・生産のコストアップ
食品が消費者に届くまでには、過程のなかで多くの人が関わっている。飲食店においては、生産・流通のみならず、調理や販売などさまざまな場面が想定できるだろう。
実際に誰にも食べられない場合でも、携わった人たちに発生したコストは消えることはない。フードロスの削減をしなければ、必要のないコストアップが続くばかりである。
世界的な人口増加による食料不足
世界の人口が増加すると、食料不足の問題も膨れ上がってくる。国際連合食糧農業機関(FAO)の統計によると、2022年時点で食料不安を抱えている人口は23億人にものぼる。
人口増加に合わせて穀物生産量も増えているにも関わらずだ。食料不足解決のためには、目の前のフードロス削減が必要といえる。
飲食店でフード(食品)ロスが起きる原因
飲食店において、フードロスは常に対策を講じなければならない問題である。社会への貢献だけでなく、無駄なコストの発生で経営にも支障がでるからだ。
社会に貢献しつつ、効率の良い経営を続けていくためにも、飲食店でフードロスが起きる原因について整理していく。
食べ残し
農林水産省の統計によると、飲食店のフードロスの原因の約80%が食べ残しである。想定より量が多かったり、苦手なものを残したりする場合が考えられるだろう。
食べ残した料理は再利用ができず、廃棄しか選択肢がなくなってしまう。飲食店として、食べきりの促進やテイクアウトの推進などを積極的に行っていくべきである。
仕入れ・仕込みのミス
仕入れや仕込みの際に、量を過剰に確保してしまうケースがある。もし材料が足りない場合、提供がストップし運営が成り立たない可能性があるからだ。
また、誤発注で想定以上の食材が届き、調理しきれない場合もあるだろう。余った食材は、新鮮な状態を保てないものから廃棄することになる。
調理でのミス
メニューを間違えたり、オーダーミスをしたりすると、調理したものが無駄になってしまうことがある。また、焦がしすぎや味付けの失敗など、提供できるレベルではない場合も廃棄の対象だ。
とくに新人教育の過程では、調理中のアクシデントが考えられる。技術向上や調理過程の効率化などを常に検討していく必要があるだろう。
企業がおこなっているフード(食品)ロスの対策事例
近年、フードロス問題に対する消費者意識の高まりとともに、さまざまな企業でフードロス対策が実施されている。大手企業を中心に、取り組みが公表されることも増えている。飲食店として社会に貢献し、運営を継続していくための参考に、いくつかの事例を紹介する。
発注から提供までの仕組みづくり
ファミリーレストランチェーンを運営する外食チェーン企業「すかいらーくグループ」では、食材の無駄な発注を防ぐため、自動発注システムを導入している。店舗で使用した分の食材が機械的に補充され、適切な量をコントロールする仕組みだ。
また、動画や画像を使って調理方法のマニュアルを詳細に整備し、アルバイトをふくめて教育を徹底。調理ミスの削減をしつつ、品質の良いものを提供するルールづくりに成功したケースも。
ほかにも、ご飯の量を選べるようにして、食べ残しを少しでも無くすための取り組みも実践している。
全店舗で同一の味を提供
大手牛丼チェーン「(株)吉野家」では、店舗ごとに味付けが異ならないように調理作業を均一化している。どこの店舗でも同じ味を提供して、食べ残し削減に貢献するのが目的だ。
また、食品リサイクルについても積極的に実施しているのが特徴である。牛丼の調理で発生する牛脂を100%再利用し、肥料や発電燃料として使用。社会貢献のために、事業のなかでリサイクルを実施している。
フードロス自体をリサイクル
ハンバーグレストラン・びっくりドンキーを展開する「株式会社アレフ」では、リサイクルの仕組みを独自に整えている。調理くずや食べ残しは、メーカーと共同で開発した粉砕乾燥処理機にて、農場で使われる原料として生まれ変わる。
ほかにも、調理中に発生する食用油を利用して国内の自社工場にてハンドソープを生産し、全国の店舗の洗面所に導入。小学生以下の子どもを対象にした、完食応援イベント「もぐチャレ」を実施するなど、フードロス削減の取り組みを積極的に行っている。
飲食店でフード(食品)ロスを起こさないためにできる7つの対策
飲食店で食品ロス(フードロス)を起こさないための対策として、以下のような取り組みが挙げられる。
- 実際の量とのギャップをなくす
- 地産地消を取り入れる
- 来店予測をデータ化する
- メニューの種類を絞る
- 食べ残しを持ち帰れる容器を用意する
- 時間・量に応じて価格を下げる
- 食品ロス削減をアピールする
4~7の項目については、以下の記事にて事例を交えて詳しく紹介しているので、ぜひご覧いただきたい。
【関連記事】 飲食店が実践したい、世界の食品ロス削減アイデア8選
本記事では、上記1~3の3つの項目を取り上げ、解説をしていく。
1.実際の量とのギャップをなくす
食べ残しの原因には、お客さまが予想していた量より多い料理が提供されたことが考えられる。対策として、メニューに写真をのせて、どの程度のボリュームなのかを想像できるようにすると良いだろう。
また、調理スタッフのあいだで量にばらつきが出てしまう事態も避けるべきである。マニュアルを詳細にし、誰が作っても適量を提供できる仕組みづくりが必要だ。
ほかにも、メニューごとの食べ残しの傾向を分析すれば、ギャップをなくすことに役立つ。たとえば、米だけ残っている場合が多いのであれば、大盛りや小盛りなどをお客さまに選んでもらう方式に変えることも必要だろう。
2.地産地消を取り入れる
地産地消を取り入れるのも一つの方法だ。運搬のコストが減るうえ、近くで生産されたものがすぐに届き、新鮮なままの食材を仕入れることができる。品質管理と納品スケジュールの調整がしやすく、運営のしやすさにつながる。
また、生産者との直接やり取りし、食材としては問題ないにも関わらず見た目の問題で流通の過程で廃棄されてしまう規格外野菜を仕入れることで、フードロス削減に貢献できる。
ほかにも、地元食材を使用していることをPRすることで、ほかの飲食店と差別化もできるだろう。フードロスの削減だけでなく、利益アップも期待できる。
【関連記事】 地産地消はサステナブル?飲食店が知っておきたいメリット・デメリット
3.来店予測をデータ化する
曜日や時間帯、天気などを細かく記録し、来店者数のデータを取ることが大切である。データを蓄積して活用すれば、過剰に仕入れや仕込みをしてしまうようなミスが減っていく。
感覚だけに頼ってしまうと、いつまでも改善されない可能性がある。立地や来客者の特徴など、店舗ごとに来店要因は異なるため、データを取って対策することをおすすめする。
まとめ
飲食店におけるフードロスの原因は、食べ残しがほとんどを占めている。そのため、サステナブルな店づくりをするためには、まずは食べ残し対策から始めてみるのが良いだろう。
フードロスの対策をすると、無駄なコストを省けるため、利益アップにもつながる。浸透しつつあるSDGsの考え方を最大限活用して、お客さまの共感を呼ぶような店舗づくりを目指していきたい。
【関連記事】
【参照サイト】 環境省 食品ロスの推計結果
【参照サイト】 農林水産省 食品ロス量(令和3年度推計値)
【参照サイト】 農林水産省 食品ロスの推移(平成24年度~令和3年度)
【参照サイト】 国際連合食糧農業機関(FAO)世界の食料安全保障と栄養の現状(2022年報告)
【参照サイト】 食品関連事業者における食品廃棄物等の 可食部・不可食部の量の把握等調査
【参照サイト】 すかいらーくグループ:食品ロス削減方針・考え方
【参照サイト】 吉野家ホールディングス:食べ物を廃棄しない工夫
【参照サイト】 びっくりドンキー