「一般社団法人 日本サステイナブル・レストラン協会(SRA-J)」は2022年11月14日、「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2022」を開催し、SRA-J加盟レストランのなかでも特にサステナブルな取り組みを推進し、「調達・社会・環境」の3つの指針に基づくレーティングにおいても高評価を得たレストランを大賞と部門賞として表彰した。
SRA-Jは、持続可能な食の循環を実現させることを目的に2010年にイギリスで設立された団体「サステイナブル・レストラン協会(SRA)」の日本支部。サステナブルなフードシステムの実現に向けたサポートや、網羅的な指標で「食」の持続可能性をはかることで、持続可能なフードシステムの構築に貢献している。SRA-Jのレーティング指標は食のアカデミー賞として知られる「世界のベストレストラン50(The World’s 50 Best Restaurants)』の評価指標としても使用されており、世界的な認知度も高い。
今回のコラムでは、「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2022」イベントレポートとして、各賞を受賞したレストランの受賞理由やコメントについて詳しくご紹介する。
目次
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- 「調達・社会・環境」の3つの指針に基づく評価指標
- サーキュラーエコノミー賞「BOTTEGA BLU.」
- 審査員による受賞理由/全国牛乳容器環境協議会 常務理事 伊藤氏
- 受賞コメント/BOTTEGA BLU. 大島シェフ
- 調達賞 「PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO」
- 審査員による受賞理由/食品ロス問題ジャーナリスト 井出氏
- 受賞コメント/PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO 岩澤シェフ
- 社会賞 「haishop cafe」
- 審査員による受賞理由/一般社団法人日本サステナブルラベル協会 代表理事 山口氏
- 受賞コメント/haishop café (運営:株式会社Innovation Design) 表氏
- 環境賞 「トラットリア ケナル」
- 審査員による受賞理由/認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長 潮崎氏
- 受賞コメント/トラットリア ケナル(運営:サンマルクイノベーションズ」) 江下氏
- 大賞 「BOTTEGA BLU.」
- 審査員による受賞理由/認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長 潮崎氏
- 受賞コメント/BOTTEGA BLU. 大島シェフ
- 編集後記
「調達・社会・環境」の3つの指針に基づく評価指標
日本としては2年目の開催となる今回は、アワードの協賛団体である「三菱地所株式会社」が運営する「3×3 Lab Future」を会場に、対面とオンライン配信のハイブリット型にて開催された。各賞の受賞者には、当ウェブメディアの運営を行う老舗陶磁器メーカー「ニッコー株式会社」が提供するプレートが贈呈された。
審査の対象となったのは、日本サステイナブル・レストラン協会よる2022年度のサステナビリティ評価が完了した以下の17の飲食店だ。
- BOTTEGA BLU.(兵庫・芦屋)★★★
- PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO (東京・石神井)★★★
- トラットリア ケナル(岡山・真庭)★★★
- haishop cafe(神奈川・横浜)★★★
- 御料理 茅乃舎(九州・福岡)★★★
- SELVAGGIO(愛媛県・北宇和郡)★★
- L’OSIER(東京・銀座)★★
- 日本料理 富成(石川・輪島)★
- Graal(宮城・仙台)
- Oppla da Gtalia(東京・石神井)
- BAR芦屋日記(兵庫・芦屋)
- 伊たこ焼(大阪府・大阪)
- お野菜料理ふれんちん(大阪・東大阪)
- 能勢 日本料理 新(大阪・能勢)
- ザ・キャピトルホテル東急内 オールデイダイニング「ORIGAMI」(東京・千代田区)
- TRONCONE(埼玉・所沢)
- naturam(東京・二子多摩川)
また、審査においては「調達・社会・環境」の3つの指針に基づく以下の10評価項目をもとに、各部門の有識者である日本サステイナブル・レストラン協会のアドバイザー5名が審査員を務めた。
サーキュラーエコノミー賞「BOTTEGA BLU.」
サーキュラーエコノミー賞を受賞したのは兵庫・芦屋の「BOTTEGA BLU.」。BOTTEGA BLU.は、大島シェフがイタリア修行時代に培った「もったいない精神」を守り続け、端材はだし汁に、失敗したお菓子の生地はオーブンシートの代わりにするなど、店内での食品ロスをゼロにする取り組みを当然のこととして実施している。
2022年、SRA-Jは「全国牛乳容器環境協議会」とともに紙パックリサイクルの推進プロジェクトを協働し、複数の加盟店において紙パックリサイクルに関する実証実験を実施。全国牛乳容器環境協議会が支援する「サーキュラーエコノミー賞」では、このプロジェクトを通じてサーキュラーエコノミーの実現に最も尽力した飲食店として評価された。
審査員による受賞理由/全国牛乳容器環境協議会 常務理事 伊藤氏
「紙パックリサイクルの推進プロジェクトのなかで、店舗への紙パックの回収ボックスの設置やフライヤーの配布など、どの店舗も来店者への啓発を熱心に取り組んでいただきました。なかでもBOTTEGA BLU.は紙パックの回収量もさることながら、芦屋市の環境局や、芦屋市商工会を巻き込んで同業他社にアピールをし、その結果1ヶ月も経たないうちに芦屋市長からも『一緒にサイクルをしましょう』というお話をいただきました。この実行力、情報発信力を評価させていただきました。」
受賞コメント/BOTTEGA BLU. 大島シェフ
「去年のFOOD MADE GOOD Japan Awards 2021では環境賞をいただきました。1年間を振り返って最も印象に残っていることは、『SDGs未来都市』に選定された岡山県真庭市の蒜山高原にサンマルクが新たにオープンしたトラットリア ケナルの料理監修をしたことです。通常営業の中で行った活動だったので大変な部分もありましたが、自分の成長にも繋がったと思います。また、自社ブランドとして展開しているグルテンフリースイーツのブランドの活動の幅が去年の3倍ほどに増えたことも印象的でした。来年も皆さんの前でお話しできる機会があったなら、1年間どんな取り組みに尽力してきたのかしっかりと報告できるよう、頑張って参りたいと思います。」
調達賞 「PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO」
調達賞を受賞したのは、「PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO」。PIZZERIA GTALIA DA FILIPPOは、地元の食材と人を大切にし、地元住民に愛される東京都練馬区のピッツェリアだ。地産地消が難しいとされる都内で、地産地消を実現し、漁業資源や生態系、フェアトレードに配慮した調達を行い、食品ロス・廃棄物削減にも積極的に取り組んでいる。
審査員による受賞理由/食品ロス問題ジャーナリスト 井出氏
「評価指標のうち、「調達」に関する項目は4項目ありましたが、そのすべてにおいて70%以上の高い評価を得られたのは、対象レストランの中でもこの1店舗だけでした。調達方針に則り食材を購入し、魚は近隣の魚屋さんから環境に配慮した漁法や漁獲海域を指定したものを優先的に調達。生産者とも協働し、あえて市場に出回らない未利用魚も仕入れ、レストラン内で使えないものは、ふりかけにするなど商品開発にも力を入れています。また、海外食材に関しても、フェアトレード認証のものを積極的に使用し、環境・社会に配慮した質の高い食材を提供しようという姿勢が見られる点を評価させていただきました。」
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受賞コメント/PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO 岩澤シェフ
「現在のメニューのほとんどは現場のスタッフたちが考案したレシピであり、生産者も若手が中心に選んでいます。今回いただいた評価は“スタッフ全員で作り上げたお店”がいただいたものなので、現場のスタッフを1番に褒めてあげたいと思います。また、今回の評価は、生産者の方々の協力によって生産者と現場の想いを合わせられたことや、SRA-Jの方々にご指導いただいたことで得られた評価だと感じています。今後、今回いただいた評価をより発展させていけるよう、スタッフの皆で力を合わせていきたいです。」
社会賞 「haishop cafe」
社会賞を受賞したのは、神奈川・横浜の「haishop cafe」。食にまつわる社会課題の解決と、食の楽しみの両立を目指すhaishop caféは、食のサステナビリティ推進を目的として、”食”を通した社会課題の解決に貢献している。半径80km以内で収穫された規格外を含む無農薬栽培の野菜を使用し、牛肉は環境負荷が高いため一切使用せず、8割のメニューでヴィーガンに対応している。社会問題をテーマにした映画の上映会など、レストラン・カフェの枠を飛び出した活動も多く行いながら、環境・社会課題の背景を含めたサステナブルな発信に取り組んでいる。
審査員による受賞理由/一般社団法人日本サステナブルラベル協会 代表理事 山口氏
「フェアトレードや水産物もさることながら、店舗全体へサステナブルな配慮を広げたり、ヴィーガンメニューをはじめ、多様な価値観や国、嗜好など、様々なお客さまのニーズに応えられる店づくりが出来る店舗だと感じられました。また、従業員とともに提携農家に農作業支援を行ったり、シェフが1週間漁業体験を行うなど食材の生産者達と素晴らしい信頼関係を構築されています。全従業員がサステナブルデザイナーとして活動し、課題解決に向けて積極的に行動に移せるような仕組みも見受けられました。フェアトレードキャンペーンの企画推進や調理専門学校でのSDGs授業など、自店舗に留まらない社会への貢献が大きく、生涯教育と次世代教育を同時に進めていくことの重要性を理解している点を評価させていただきました。」
受賞コメント/haishop café (運営:株式会社Innovation Design) 表氏
「フードシステムにおけるさまざまな課題の解決を目指すなかで、私たちだけではなく学生や協会、団体のみなさまの力をお借りしながら、日々精進しています。今回こうした評価をいただけたのは、この1年間私たちと共に共創関係を築いてくださった皆さまのおかげです。また、何よりもhaishop caféのメニューを開発している料理長をはじめ、キッチンメンバーやサステナブルデザイナーである弊社社員全員が、お客さまに対して想いを伝えた結果でもあると感じます。」
環境賞 「トラットリア ケナル」
環境賞を受賞したのは、岡山県真庭市の本格イタリアン「トラットリア ケナル」。節水ツールの導入や再生資材で作られた家具、備品を使用し、環境に配慮した店舗づくりに取り組んでいる。また、蒜山高原の食材を活かした地産地消にも取り組み、「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2022」大賞とサーキュラーエコノミー賞をダブル受賞した「BOTTEGA BLU.」大島隆司シェフ監修のメニューを提供している。「SDGs未来都市」に選定された岡山県真庭市で、地域に根差すサステナブルレストランとして持続可能を発信し続けることを目指している。
審査員による受賞理由/認定NPO法人フェアトレードラベルジャパン事務局長 潮崎氏
「リユースや再生資材を積極活用し、サーキュラー・エコノミーを推進しています。すべての生ごみを廃棄せず、肥料として活用し、省エネ・節水ツールの導入や、廃油の『バイオ・ディーゼル・ヒューエル』として地元に還元するなど、廃棄物を出さずに資源として活用することを実践されています。また、毎日食品ロスの量を計測してスタッフ全員を巻き込んで対策のアイデア出しをするなど、日々改善を生み出す素晴らしいオペレーションが設計されている点を評価させていただきました。」
受賞コメント/トラットリア ケナル(運営:サンマルクイノベーションズ) 江下氏
「今回こうした賞をいただくことができたのは、開店前からSRA-Jの指導のもとサステナビリティのフレームワークに則して準備を行ったことや、BOTTEGA BLU.の大島シェフに6ヶ月にわたってメニューを監修していただいたことなど、みなさまにご協力いただいたおかげだと思います。また、開店前に従業員の研修としてBOTTEGA BLU.大島シェフの元で修行するなど、従業員ひとりひとりが真摯に取り組んだ成果でもあると感じます。」
大賞 「BOTTEGA BLU.」
大賞を受賞したのは、兵庫県芦屋市にあるイタリアンレストラン「BOTTEGA BLU.」。「調達・社会・環境」に総括的に取り組み、サステナブルな輪を広げるため、シェフの受け入れや他店舗のメニュー監修を行うなど、さらにリーダーシップを発揮している点が評価され、今回サーキュラーエコノミー賞とのダブル受賞となった。
審査員による受賞理由/認定NPO法人フェアトレードラベルジャパン事務局長 潮崎氏
「全ての項目で高いレーティングを獲得しており、調達面では、有機野菜やフェアトレード原料の調達など、広い分野で丁寧な対応を行っています。魚はWWFジャパンのお魚ハンドブックを参照し、魚種、漁法などを確認しながら調達するなど、地域の市場の現状に即した形で改善を推進し、持続可能な調達や社会への貢献、資源循環、気候変動対策を包括的に実施されています。社会面では、トラットリアケナルへの指導など、他のレストランに食品ロス削減のノウハウを積極的に伝えることで、レストラン業界全体のサステナビリティ向上に取り組んでいました。環境面では、再生可能エネルギーを100%使用する他、食品ロス対策として自店舗のみならず提携農家での食品ロスが出ないようにサポートし、メニュー構成から廃棄物削減に取り組むなど、食品ロス・廃棄物対策をフードシステム全体で実施できています。全体的な取り組みの幅広さや持続可能な調達の徹底、レストランスタッフへのサステナビリティ研修や提携農家の食品ロス削減サポートなど、自店舗だけではなく農業・レストラン業界全体の発展に貢献する姿勢を評価させていただきました。」
受賞コメント/BOTTEGA BLU. 大島シェフ
「サーキュラーエコノミー賞に加えて、大賞までいただけるとは思っていなかったので驚いています。今年開業13年目を迎えるBOTTEGA BLU.は、開業当初から地元を盛り上げることや食品ロス削減を意識し、シンプルなことをコツコツと積み上げてきました。夫婦二人でスタートしましたが、現在はスタッフも増え、働きやすい環境づくりにも尽力しています。シンプルなことを積み重ねてきたつもりですが、こうした賞をいただけたことで自分の取り組みに自信を持つことができました。来年に向けて、今後も頑張っていきたいと思います。」
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また、受賞者に贈呈されたプレートは、「ニッコー株式会社」が提供するボーンチャイナ製食器(NIKKO FINE BONE CHINA)。NIKKO FINE BONE CHINAは、捨てられる食器から生まれた肥料「BONEARTH」の原料としてリサイクルできる素材であるため、プレート自体がサステナブルだ。
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編集後記
持続可能な社会の実現に向けてさまざまな環境課題の解決が急がれる今、消費者の意識にも変化が現れている。2021年11月17日に消費者庁が公開した調査の結果によると、社会的課題に配慮した消費行動 「エシカル消費」に関心があると回答した人は89.6%だった。2020年の調査で「エシカル消費」に関心があると回答した人は59.1%、2016年の調査では35.9%だったことと比較すると、消費者の環境への意識が近年急速に高まっていることがわかる。
「食」と「環境」は密接な関係であるからこそ、飲食店は率先して環境に配慮した取り組みを推進する必要がある。今回「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2022」を主宰したSRA-Jは、明確な指標のもとに自社のサステナビリティ活動の現状を把握できる簡易診断ツール「FOOD MADE GOOD50」も提供している。
消費者の環境課題への意識も高まる今、まずはこうした診断ツールを活用し、現状把握や課題の確認をしてみるのも一つの方法だ。「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2022」で各賞を受賞した飲食店の先進的な取り組みを参考に、サステナブルな飲食店づくりに取り組んでみてはいかがだろうか。
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【参照サイト】消費者庁:エシカル消費(倫理的消費)に関する 消費者意識調査報告書の概要について
【参照サイト】FOOD MADE GOOD Japan Awards 2022
【参照サイト】【プレスリリース】持続可能なフードシステムを推進するレストランを表彰するアワード、11月14日(月)開催!
【参照サイト】【日本初】レストランのサステナビリティを格付けする「FOOD MADE GOOD」最高峰の三つ星を獲得
【参照サイト】芦屋のイタリアンレストラン「ボッテガ・ブルー」がアスエネの再エネ100%電力調達開始、フードロスゼロ店が次世代に残したいサステナビリティ
【参照サイト】岡山 蒜山(ひるぜん)のサステナブル・レストラン『トラットリア ケナル』2022年3月14日OPEN