2019年10月、ニューヨーク市議会で「フォアグラの製造禁止命令」が可決されたことが世界中で話題となった。フォアグラの製造方法に動物虐待への懸念があるとして可決されたものだが、反発の声も多く、2022年9月19日の「ニューヨークタイムズ」では施行の遅れが報じられている。禁止命令に対し、ニューヨーク州ハドソン・バレーの2つのフォアグラ農場が提訴起こしたことが要因だ。

ニューヨーク州での施行は一時保留となったが、倫理観を問う消費者や行政とフォアグラ生産者の対立はニューヨーク州以外の地域でも勃発している。2012年にカリフォルニア州で同様の禁止令が施行された際にも、生産者の提訴によって一度は覆されたが、のちに再び施行された事例がある。

世界ではフォアグラの他にも、レストランにとって欠かせないさまざまな食材の輸入や生産を禁じる動きがあることをご存知だろうか。今回のコラムでは、アニマルウェルフェアの観点や地球温暖化の影響により、今後提供ができなくなる可能性がある食材について詳しくご紹介する。

目次

フォアグラ

カリフォルニア州の他にも、多くの地域で禁じられているのがフォアグラだ。フランス語で「肥育したガチョウの肝臓」を意味する「フォアグラ」。フォアグラはその名の通り、肥えたガチョウの肝臓「脂肪肝」を作るため、ガチョウやアヒルのクチバシに金属のパイプを差し込み、健康に害を及ぼすほど大量の餌を食べさせる「強制給餌(ガヴァージュ)」によって作られる。この生産方法が非人道的であるとして、近年アニマルウェルフェアの観点から問題視されている。

現在イギリスではフォアグラの生産が禁じられているが、輸入や販売に関する規制はない。一方で、英国放送協会(BBC)は2022年11月19日、チャールズ国王がバッキンガム宮殿やウィンザー城をはじめとした全ての王宮でのフォアグラの使用を禁止したと報じ、イギリスにおける今後のフォアグラの在り方に注目が集まっている。

イギリスの他には、現在ドイツやイタリア、オランダ、オーストリア、デンマーク、ポーランド、ノルウェー、アルゼンチン、チェコ共和国、トルコなどで強制給餌が禁じられている。また、世界最大のフォアグラ生産国であるフランスにおいても、リヨンやストラスブールなどの都市で公式行事でのフォアグラの使用が禁じられており、今後こうした風潮のさらなる波及が予想される。

植物性培養フォアグラ/株式会社Dr. Foodsが提供する植物性培養フォアグラを使用したハンバーガー

こうした課題の解決策として、2022年6月に代替肉の研究開発などを行う「株式会社Dr. Foods」が、カシューナッツを麹によって発酵させたものを原料とする世界初の「植物性培養フォアグラ」を開発し、注目を集めている。

キャビア

フォアグラ、トリュフと並んで、世界三大珍味として知られる「キャビア」。キャビアとなる卵を産むチョウザメは、産卵期間に四半世紀を必要とする種類もあり、養殖が追いつかず近年キャビアの需要が供給をはるかに上回っている。

そうしたなかで、生息地の環境悪化やキャビアに加工するための卵の乱獲などによりチョウザメの個体数が急激に減少し、27種のチョウザメはすべて国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに掲載されている。

細胞培養によるキャビアの開発も進んでおり、「ヴァーヘニンゲン大学・研究機関(WUR)」とオランダの「Geneus Biotech社」の共同研究では、「Magiccaviar(マジックキャビア)」と名付けられた細胞培養魚卵製品の開発に成功。Magiccaviaは体外で培養した卵子を原料としており、ベルーガ・チョウザメと近縁だが絶滅の危機に瀕していない小型のチョウザメであるスターレット・チョウザメから細胞を採取しているという。

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フカヒレ

中華レストランには欠かせない高級食材「フカヒレ」。フカヒレ漁は生きたままサメからヒレを切り取り、その後再び海に戻す「シャークフィニング」という手法で行われる。ヒレを失ったサメは当然泳ぐことができず、海の底に沈み、死んでしまう。

この漁の方法が、アニマルウェルフェアの観点から長年問題視されており、すでにアメリカでは、最初にハワイ (2010年)、次にワシントン、オレゴン、カリフォルニア (2011年) でフカヒレの所持、販売、消費が禁止された。また、カナダのトロントでもフカヒレの消費が禁じられており、イギリスでは、缶詰のフカヒレスープなど、フカヒレを含むすべての製品の輸出入を禁止する法律が世界で初めて制定された。

こうした動きはフカヒレ発祥の地である中華圏にも広がっており、香港を拠点とする高級ホテルグループ「シャングリ・ラ ホテルズ&リゾーツ」と「ザ・ペニンシュラホテルズ」は、2012年より、展開する世界中すべてのホテルでフカヒレ料理の提供を停止している。

タコ/イカ

「新鮮であるほど美味しい」という概念から、日本ではタコやイカを生きたまま茹でたり捌いたりすることは一般的だ。注文が入ってからあえてお客さまの目の前で調理する飲食店も少なくない。

一方で、世界ではアニマルウェルフェアの観点からこうした調理方法を問題視する声があがっている。LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)の研究報告では、頭足類(タコ、イカを含む)と十脚類(カニ、ロブスター、エビを含む)が痛みや苦痛などを感じる「知覚」を持つことが明らかとなった。この報告を受けて、イギリス政府は2021年11月19日、タコやカニ、ロブスターなどの十脚目および頭足類を「感性のある動物」として、動物福祉(感覚)法の保護対象に追加した。

LSEの報告では、生きたまま茹でたり四肢を切断したりする調理方法は行わないこと、訓練を受けていない取引会社には販売しないこと、また輸送の際にも最善を尽くすことなどを推奨している。日本では、動物愛護管理法の対象動物になっていない十脚類や頭足類が痛みを感じると科学的に証明されたことで、今後タコやイカを生きたまま食べる「踊り食い」や韓国料理の「サンナッチ」などが提供できなくなる可能性もあるだろう。

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伊勢海老/蟹

生きたままの伊勢海老をお客さまの目の前で焼く「活伊勢海老の鉄板焼き」は、日本の高級鉄板焼き店の多くで提供されている人気のメニュー。鉄板焼きの他にも、海老や蟹を生きたまま茹でたり、殻を剥いて刺身にするといった調理法は日本では一般的に行われている。

しかし、先で述べたタコやイカと同様に、海老や蟹を含む十脚類も痛みや苦痛などを感じる「知覚」を持つと科学的に証明されたことで、今後こうした提供方法ができなくなる可能性がある。

アニマルウェルフェアの観点から、海老や蟹を保護対象にしている国はイギリスの他にもある。 イタリアでは、調理前のロブスターを氷漬けにして保存していたレストランオーナーに対し、ロブスターに不当に苦痛を与えたとして2000ユーロ、日本円にして約25万円の罰金支払いが命じられた。

また、スイスでは、2018年にロブスターを生きたまま茹でることを禁止する法律が成立。この法律では、ロブスターを含む甲殻類を輸送する際の条件にも触れており、輸送時に氷詰めの状態や氷水に入れたりして運ぶことを禁止し、自然の状態で保管しなければならないとしている。他にも、オーストラリアやノルウェーなどで同様の法律が施行されている。

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活き造り

タコやイカに限らず、さまざまな魚で作られる「活き造り」。直前まで水槽で泳いでいた魚を吊りあげ、活け締めはせずに生きたまま手早くおろしていく。

日本の伝統とも言える職人業だが、切り離された後も動き続ける魚の様子に対し、外国人観光客からは「かわいそう」「非人道的だ」などといった声もあがっている。インバウンド対応においても、食文化やアニマルウェルフェアに対する日本と海外の価値観の違いについて、理解しておく必要があるだろう。

平飼いや放し飼いなど、鶏をケージの中に入れずに飼育する方法を指す「ケージフリー」。2021年8月に、内閣府の食堂で使用する卵が100%ケージフリーになったことが話題となるなど、日本においても狭いケージ内で飼育する方法がアニマルウェルフェアの考え方に反しているという価値観が広がりつつある。

日本ではまだケージフリーでない卵が多く流通しているが、スイス、スウェーデン、フィンランド、ドイツなどの国では、すでにケージ型の飼育方法を禁じる法律が制定されている。今後さらにこうした価値観が広がれば、ケージフリーでない卵が流通しなくなる可能性もあるだろう。

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松茸

日本料理には欠かせない、秋の味覚「松茸」。近年、森林破壊や木の病気の影響によって松茸の成長に欠かせない「アカマツ」が減少傾向にあり、それに比例して松茸の数も減少。2020年には、絶滅の恐れのある野生の動植物として国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに掲載された。

農林水産省によると、国内の松茸の年間生産量は1941年の1万2000トンから2019年には14トン、2020年には32トンにまで減少しており、今後天然の国産松茸が入手困難になる可能性が危惧されている。

アワビ/ウニ

近年、世界各地の海で深刻化している「磯焼け問題」。磯焼けとは、昆布などの海藻が群生する藻場が著しく衰退または消失し、海底の岩礁が露出してしまう現象のこと。「海の砂漠化」とも呼ばれ、一度磯焼けが起こると、藻場の回復には長い年月がかかることが明らかになっている。

磯焼け問題の主な原因は、地球温暖化の影響による海水温の上昇やウニの食害。昆布をエサとするウニは“休まず食べ続ける”という習性を持っており、藻場の昆布を全て食べ尽くしても、その他の海藻などをエサに細々と生き続け、身入りが悪く商品価値のない「ヤセウニ」となる。

この「ヤセウニ」の大量発生によって磯焼け問題が深刻化すると、「身の詰まったウニ」やウニと同じく昆布をエサにする「アワビ」が採れなくなる。今後さらに地球温暖化による海水の水温上昇や生態系の崩壊が進んだ場合、“天然で品質の高い”ウニやアワビが入手できなくなる恐れがあるだろう。

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サケ/イクラ

「サケ(シロサケ)」は、オホーツク海やベーリング海などの海水温度が低い北の海で成長し、母川に戻って産卵し一生を終える魚。

しかし近年、地球温暖化による海水温の上昇により、日本領海の海水温もサケの生息に適さない温度にまで上昇し、不漁に繋がっている。今後地球温暖化が進めば、サケの分布はさらに北上することが予想されており、今後国産の「サケ」や「イクラ」が希少になる可能性がある。


また、近年の代替食品業界では植物性シーフードの開発も進んでおり、エンドウ豆のたんぱく質、植物油、藻の抽出物などから3Dプリント技術を用いて作られた「サーモン」や、海藻から抽出した成分を使ったいくら「プチル」などが登場している。

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ワイン/シャンパーニュ

地球温暖化による異常気象は、ワインやシャンパーニュの原料となる「ブドウ」にまで影響を及ぼしている。

フランス・ボルドーでは気候変動への対策として、ワイン法である「AOC」の規定で今まで使用が認められていなかった“気温上昇に対応できるブドウ品種”を新たに7種認定。また、「シャンパーニュ」では、2003年にワイン産地として世界で初めてCO2排出量を計測するなど、気候変動対策に取り組んでいる。

「ワイン」や「シャンパーニュ」は、レストランのジャンルを問わず欠かせない存在だ。各産地が気候変動対策に懸命に取り組むなかで、ホテルやレストランとしても配慮を示す必要があるのではないだろうか。

コーヒー

カフェはもちろんホテルやレストランのメニューにおいても欠かせない存在である「コーヒー」。地球温暖化による気候変動の影響により、コーヒーの栽培に適した土地が半減し、2050年までにこれまでの生産活動が存続できなくなる可能性を指す「コーヒーの2050年問題」は、近年のコーヒー国際相場の高騰要因にもなっている。

なかでも、「ブルーマウンテン」や「ゲイシャ」など、“美味しいコーヒー”として人気があり、レストランやホテルで提供される「アラビカ種」の栽培に適した土地は、2050年までに約50%近く減少すると言われている。また、コーヒー生産量が世界で最も多いブラジルでは、2050年までに栽培に適した土地が約60%も減少するとされており、コーヒー生産量の減少や価格高騰が危惧されている。

また、コーヒー生産者の大半は、中南米やアフリカなど貧困問題を抱える発展途上国の小規模農家だ。生産量の減少は、収入の減少に直結し、貧困を加速させる。結果、飢餓や児童労働による子供の学習機会の喪失など、さまざまな問題に発展する恐れがある。

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チョコレート

デザートには欠かせない「チョコレート」も、地球温暖化の影響による存続の危機にさらされている。今後さらに地球温暖化が深刻化すれば、異常気象や干ばつによって2050年までにカカオの栽培が困難になり、生産量の減少や価格高騰が危惧されている。

先述のコーヒーと同様にチョコレートの原料となるカカオも、世界の生産量のうち70%は西アフリカの小規模農家で生産されている。「フェアトレード」や「オーガニック」など、環境や生産者への配慮された商品を調達することで、環境保全だけでなく社会問題の解決にも貢献できるのではないだろうか。また近年では、国産カカオを使用したチョコレートにも注目が集まっている。

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まとめ

いかがだっただろうか。今回のコラムでは、アニマルウェルフェアの観点や地球温暖化の影響により、今後提供ができなくなる恐れがある食材について詳しくご紹介した。

日本では当たり前に提供されていても世界では法律で規制され、輸入や生産を禁じられているという食材は少なくない。国内外における価値観の違いや、さまざまな環境問題がもたらす食材への影響を正しく理解することは、豊かな食の未来を守ることにもつながるのではないだろうか。

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table source 編集部では、サステナビリティやサーキュラーエコノミー(循環経済)に取り組みたいレストランやホテル、食にまつわるお仕事をされている皆様に向けて、国内外の最新ニュース、コラム、インタビュー取材記事などを発信しています。
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