
近頃、急激に高騰している「光熱費」。高額の請求に驚いた方も多いのではないだろうか。今後も更なる価格高騰が見込まれるなかで、負担を減らしていくためには店舗や厨房で使用するエネルギー量を削減することが重要だ。飲食店が「省エネ」を推進することは、コスト削減はもちろん、日々排出される温室効果ガスを削減し、カーボンニュートラルの実現にも貢献する重要な取り組みだ。
「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」の発表によると、フードシステムから発生する温室効果ガスは、人為的な温室効果ガス排出量全体のうち最大37%を占めており、こうした現状を改善するためにも飲食店の協力は欠かせない。そこで、今回のコラムでは、価格高騰の要因や今後の見込み、省エネに取り組むうえで役立つツールを紹介する。
目次
なぜ光熱費が高騰しているのか?
日本はエネルギー自給率が低く、エネルギー供給を輸入に頼っている。資源エネルギー庁が発表した「総合エネルギー統計」によると、2019年の日本のエネルギー自給率は12.1%。先進国38ヶ国が加盟する国際機関「OECD(経済協力開発機構)」の加盟国のなかでは35位と、他の国と比較しても非常に低い水準だ。
【出典】経済産業省 資源エネルギー庁:日本のエネルギー 2021年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」
エネルギー自給率が低い日本にとって、ロシアによるウクライナ侵略に起因する化石燃料輸入価格の高騰や、為替市場で急激に進む円安の影響は大きく、化石燃料を原料に発電する大手電力会社10社の2023年3月の決算では、中部電力を除く9社が赤字を見込んでいる。
政府の救済措置と、今後の見込み
こうした状況を受けて、日本政府は2023年1月から9月にかけて、電気・都市ガスの小売事業者などを通じて使用量に応じた料金の値引きを行う「電気・ガス価格激変緩和対策事業」を盛り込んだ「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」を閣議決定した。これにより、低圧契約の場合1kWhあたり7円、高圧契約の場合1kWhあたり3.5円の電気料金が値引きされる。
一時的な救済措置が取られた一方で、大手電力会社7社は国の認可が必要な「低圧規制料金」の値上げを申請。東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、沖縄電力の5社は4月から、北海道電力と東京電力の2社は6月からの値上げを目指しており、各社の平均値上げ率は最低でも四国電力の28.08%、最大で北陸電力の45.84%と大幅だ。価格高騰の収束目処が立たないなかで、日々の省エネに取り組んでいくことは必須だといえる。
飲食店が取り組みたい「省エネ」アクション
01.「手軽にできる省エネ術」から取り組む
まずは、日々の行動を振り返り、手軽にできる省エネ術に取り組むことから始めてみてはどうだろうか。北海道電力が公開している「飲食店(ファミリーレストラン、居酒屋、ファーストフード店など)の節電チェックシート」では、夏季と冬季ごとに飲食店にとって欠かせないさまざまな機器を、省電力で使うための工夫を紹介している。
また、経済産業省が公開している「省エネポータルサイト」や東京ガスが公開している「ウルトラ省エネブック」では、エネルギー消費量の多い機器を省電力で使うための工夫や、その工夫によって、年間で削減できるCO2削減量、年間で削減できるコストをまとめている。
こうしたサイトを活用し、機器の使用方法について今一度振り返ることは、コストをかけず最も手軽にできる省エネ方法だ。
02.補助金を活用し、省エネ設備を整える
厨房機器など、ホテルや飲食店にとって欠かせない設備を省エネ性能の高いものに買い替えることも手段の1つだ。農林水産省が2019年3月に発表した「一般飲食店における省エネルギー実施要領」によると、一般飲食店(居酒屋)の例におけるCO2排出量の割合は、電気の使用によるものが約80%と最も多く、次いでガスが17%、水道は2%だった。また、電気の消費先の内訳は、厨房機器が約40%、照明が約30%、空調が約20%だったという。
【出典】農林水産省:一般飲食店における省エネルギー実施要領
農林水産省によると、内容量401〜450Lの家庭用冷蔵庫の場合、10年前の製品と最新型を比較すると、消費電力は約37~43%も省エネに、電気代は年間約4,740円〜6,090円も削減できるという。同容量の家庭用冷蔵庫と業務用冷蔵庫の年間消費電力を比較した場合、業務用冷蔵庫の方が約3倍の電力を消費するため、電気代や排出されるCO2量もこれに比例して高くなる。
また、経済産業省資源エネルギー庁では、事業者の省エネ設備の導入を促進するため、「省エネルギー投資促進に向けた支援補助金」を交付している。業務用冷凍冷蔵庫や空調設備、制御機能付きLED照明器具など、省エネにつながる機器を導入する際に支援を受けることができる。こうした支援制度は他の自治体でも行われているので、調べてみてはいかがだろうか。
03.専門家のサポートを受ける
「一般社団法人 環境共創イニシアチブ」が運営を行う「省エネお助け隊」のサイトでは、経済産業省資源エネルギー庁の地域プラットフォーム構築事業で採択された、地域密着型の支援団体を探すことができる。
都道府県ごとに分けられた全国各地の省エネお助け隊窓口一覧から団体を探し、申し込みをすると、省エネを始めるためのアドバイスやエネルギーの使用状況の調査などのサポートを受けることができるサイトだ。費用は診断や支援にかかった費用の1割だという。
「省エネに取り組む」と言っても何から始めれば良いのかわからないという人は、こうしたサイトを活用し、専門家のサポートを受けるのも良いかもしれない。
まとめ
いかがだっただろうか。今回のコラムでは、価格高騰の要因や今後の見込み、省エネに取り組むうえで活用できるツールを紹介した。省エネに取り組むことは、コストの削減だけでなく、環境に配慮したお店づくりの実現にも繋がる。まずはできるところから取り組むことが重要なのではないだろうか。
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【参照サイト】経済産業省 資源エネルギー庁:省エネポータルサイト 省エネ関連情報 各種支援制度