経産牛

経産牛はまずい?

経産牛(けいさんぎゅう)とは、出産を経験したことのある雌牛のこと。繁殖のため飼育される雌牛は1年に1頭の子牛を出産し、10年ほどして役目を終える。食肉としては「肉が硬い」「脂が黄色い」と敬遠されやすいため、その多くは廃用牛として出荷され、ミンチやペットフード、肥料に加工して販売されるか、流通せずに廃棄されている。

今、経産牛が再評価される理由

「霜降り肉に比べて肉質が劣る」とされていた経産牛だが、近年では、繁殖の役目を終えてから半年から一年ほどかけて食用牛として飼育しなおすことで、霜降り肉とはまた違う、旨味が凝縮された味わい深い赤身牛肉に仕上がるとして、注目を集めている。

元来、日本で良質であるとされてきたのは、去勢した雄牛や未出産の雌牛などの脂の乗った柔らかい牛肉。一方フランスでは、しっかりとした味わいと歯応えのある赤身肉が好まれることから、経産牛が高く評価されてきた。フランス国内のレストランやホテルで最も多く愛用されている「シャロレー牛」も経産牛のひとつ

フランス シャロレー牛

フランスのシャロレー牛

【経産牛肉の特徴】
  • しっかりとした味わいと濃厚な旨味
  • 脂肪分が少なく健康的
  • 安定的な供給ができる
  • 国産牛やブランド和牛に比べて低価格

さらに、食肉としての再評価だけでなくサステナブルな「ベターミート」として、「経産牛の廃棄を減らし、命の恵みを最大限に活用できる」「ランク外の牛も商品化できるため経営難に直面する畜産農家の支援につながる」という付加価値も、昨今の注目の所以だと言える。

経産牛の生産

高齢農家にも優しく、耕作放棄地の有効活用に貢献

耕作放棄地

経産牛の需要が増えつつあることから、農研機構・西日本農業研究センターと島根県中山間地域研究センターでは、経産牛を放牧で仕上げて赤身牛肉を生産する取り組みを共同で始めている。

現在、国内では農家の高齢化に伴い、耕作放棄地が増加しており、手入れのされていない耕作地が雑草や害虫、獣害発生の温床になったり、ごみの不法投棄を誘発したりといった問題が起きている。同取り組みでは、こうした耕作放棄地を黒毛和種経産牛を放牧に活用。牛が野草を食べるため、草刈りの必要がなくエサ代もほとんどかからないうえ、毎日の作業で人手がかかるのは他の耕作放棄地に移動する時だけで良いため、高齢の農家でも管理がしやすい。

放牧した牛の赤身牛肉は体脂肪の減少作用が期待される共役リノール酸が2倍に増えるため、よりヘルシーな牛肉に仕上がる。生産された黒毛和種経産牛は「放牧仕上げ熟ビーフ(略称/熟ビーフ)」として、ヒレやロースなどの高級部位はレストランなどの飲食店で提供され、その他の部位はスライス肉としての販売や加工品の開発を行っている。

乳用牛を食肉として再肥育し、新たな価値を

乳牛 牛乳

近年、多くの酪農家が飼料価格の高騰や、副産物収入である子牛の市場価格の下落の影響で経営の危機に瀕している。

「株式会社ニチレイフレッシュ」では、毎年およそ8万頭がと畜される北海道の経産乳用牛を再肥育することで、美味しい食用肉として付加価値をつける取り組みを行っている。乳用牛に不飽和脂肪酸を豊富に含む脂肪酸カルシウムを与えることにより、牛肉の脂質を調整。この不飽和脂肪酸カルシウムによる肥育は、味のためだけでなく、牛のげっぷとして出るメタンガスを抑制することが知られており、環境にも優しい手法だと言える。

経産牛を使ったメニュー

あっさりとして食べやすい、北海道産経産牛フィレのグリル

北海道 経産牛

「オリックス・ホテルマネジメント株式会社」の運営する「クロスホテル大阪」のレストラン「TERRACE & DINING ZERO」では、2023年3月1日から春のランチメニューとして北海道産経産牛フィレのグリルを提供。再肥育することにより肉質も厚く、脂はあっさりとして食べやすく、コクと旨みのある赤身の美味しさが楽しめるという。

沖縄産の経産牛をサステナブルコースのメインに

ハレクラニ沖縄 レストラン

ハレクラニ沖縄では、2022年5月3日から31日までの間、ハレクラニ沖縄のステーキ&ワイン「KINGDOM / キングダム」にて環境や生産方法に配慮した食材を使った「サステナブル ダイニング」を開催。

メニューは、日本人のシェフとしては初となるヴィーガンレシピの本も出版しているシェフ米澤文雄氏が監修。強火の炭火で香ばしく焼き上げた沖縄県産熟成経産牛をメインに、代替ミルクを使ったメニューや、沖縄のオーガニック野菜をふんだんに使用している。

経産牛の旨味を活かし、手軽に味わえるバーガーに

経産牛 ハンバーガー

地域振興プロジェクトに取り組む「合同会社パラード」は、経産牛を活用した「NIPPON和牛プロジェクト」のオリジナル商品「パイナップルパンバーガー」を2023年2月13日より販売開始した。東京都の中目黒にある「肉工房 志方」の店頭にて、1日限定40個、テイクアウトのみで提供される。

パイナップルパンバーガーは、これまで廃棄されていた経産牛の1枚肉を独自の手法でやわらかく調理し、経産牛の濃縮された旨みをじっくり味わえるよう仕上げたという。バンズには、パンの上にクッキー生地を乗せて焼いた香港のソウルフード「パイナップルパン」を使用。手作りのパイナップルパンは不揃いの形でも使用することで、食品ロスの発生を防いでいる。

【関連記事】 出産を経験した「経産牛」を活用し、畜産業を支援。1枚肉のハンバーガーを発売

まとめ

肉料理 レストラン

近年では、健康上の理由や環境への配慮、アニマルウェルフェアの観点から、肉を食べないヴィーガンやベジタリアンといった食の選択をする人も増えている。一方で、肉を使ったメニューに期待を寄せるお客さまもまだまだ多いのが現状だ。今回紹介した経産牛をはじめとするベターミートなど、飲食店がサステナビリティに配慮された食材を知り、お店で提供することは、持続可能な食産業を広める後押しになるのではないだろうか。

【関連記事】

フォアグラやキャビアなど、飲食店が今後提供できなくなるかもしれない18の食材まとめ

【参照サイト】 農業水産技術会議:耕作放棄地で省力・低コスト生産
【参照サイト】 経産牛の再肥育を考える~地域振興の新しいツールとして~
【参照サイト】 とりつう株式会社
【参照サイト】 【クロスホテル大阪】春の訪れ感じる食材にこだわった、スプリングランチメニューが登場!
【参照サイト】 ハレクラニ沖縄『サステナブル ダイニング』を開催

table source 編集部
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table source 編集部では、サステナビリティやサーキュラーエコノミー(循環経済)に取り組みたいレストランやホテル、食にまつわるお仕事をされている皆様に向けて、国内外の最新ニュース、コラム、インタビュー取材記事などを発信しています。
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