食料自給率が低く、輸入に頼っている日本の食糧事情。飲食店にとっても、輸入食材における児童労働は重要視するべき問題である。義務教育を受けられないまま働く子どもから供給された食材が、身近にあるのが現状だ。
児童労働という言葉を目にした時、なにか身の回りでできることはないのかと思う飲食店関係者は多いだろう。飲食店ができる活動の第一歩として、まずは発生している産業や国の分布など、児童労働について知ることが大切だ。
この記事では、児童労働の現状を紹介しながら、飲食店関係者ができることについて詳しく解説する。なぜ働かざるを得ない子どもがいるのかを知ることで、店舗の運営方法に変化が生まれるかもしれない。
児童労働解決の第一歩は現状を知ること
児童労働の解決には、現状を知ることが欠かせない。実際にどの地域で、どのような問題を抱えているのかを把握しなければ、個々の飲食店ができる取り組みが明確にならないためだ。
そもそも児童労働とは、義務教育を受けるべき子どもが、学ぶ機会を削減し労働をすることである。海外からの輸入食品のなかにも、児童労働により生み出されたものがあることは、目を背けてはいけない現実だ。
飲食店ができる取り組みを実現するため、まずは正しい現状を知ることから始めてみよう。
【国・産業別】児童労働の現状
JICA(独立行政法人 国際協力機構)が2020年に出した調査結果によると、世界には労働をしている子どもたちが1億6,000万人存在している。
義務教育を受けられずに働く子どもたちへの理解を深めるため、国・産業別で現状を確認していこう。
国の割合
児童労働の人口は1億6,000万人にのぼり、なかでも8,660万人と最多なのがサハラ以南アフリカである。ついで、2,630万人との数値を出しているのが中央・南アジアだ。
働かざるを得ない子どもがサハラ以南アフリカに多いのは、社会情勢の悪化が主な原因だ。増加していく人口のなかで貧困者が生まれ、内戦や紛争が起きる社会を生き抜くため、小さな子どもが労働を強いられている。
産業別の割合
児童労働が関わっている産業のなかで、農林水産業の人口は一億人にのぼり、全体の7割を占めている。残りの3割に位置しているのは、サービス業や工業である。
なかでも主にチョコの原料であるカカオの多くが、小さな子どもにより生産されているという現状がある。サービス業や工業においても、子どもたちが十分な教育を受けられないまま働き続けている。
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児童労働が起きる3つの原因
厳しい環境で働く子どもが絶えない理由は、国全体にフォーカスを当てると浮き彫りになってくる。働く人たちの個々の事情より、世界に目を向けて原因を理解していく必要がある。
1.貧困
国自体に財源がないと、生活困窮者は増えていく一方だ。個々の家庭が貧困となり、働かざるを得ない状況が生まれる。
とくに貧困地域が多いのは、発展途上国である。農村から都心へ出稼ぎをし、低賃金で働き続けている子どもが存在しているのが現実だ。
2.教育環境の未整備
教育環境が整備されておらず、子どもたちが社会に出るための満足な支援を得られない。一般的な教養を得る機会がないため、社会人として賃金を稼いでいくスキルが育たなくなっている。
国によっては、女性に教育機会を与えない風習が残っているところもある。義務教育で得るはずだった知識がないまま大人になると、次の世代も同じ道を辿ってしまうという悪循環が起きてしまう。
3.社会情勢の変化
内戦や紛争などに巻き込まれた国は、生活苦のなかで働かざるを得ない子どもを生み出している。また、兵士として戦闘に参加させるのも児童労働にほかならない。
社会情勢の変化は、人間が引き起こすものだけではない。新型コロナウイルスの影響により、減少を続けていた児童労働の人数が、20年ぶりに増加した。
新型コロナウイルスにより生活困窮者が増え、子どもが働かなければならない家庭が増えてしまったのが原因である。
児童労働が関わっている日本の輸入製品
日本で暮らす私たちにとって、海外からの輸入に頼らなければ満足な生活を送れないのが現状だ。そして、輸入製品のなかには児童労働が関わっているものがあることを忘れてはならない。
カカオ豆
日本のカカオ豆の7割はガーナから輸入されたもの。ガーナでは、10人に1人が児童労働をしていると言われており、カカオの栽培から出荷までの過程で、多くの子どもたちの労働力が搾取されている。
カカオの生産には、収穫や発酵などさまざまな工程がある。カカオの実や豆は、子どもの力で運ぶには重く、怪我などの危険とも隣り合わせだ。
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コーヒー
コーヒーは、コットンとサトウキビについで児童労働が多い。発展途上国では、男性がほかの地域へ出稼ぎに行き、地元に残る女性と子どもがコーヒー農園で働く現実がある。
私たちの手元に低価格でコーヒーが届いているのは、世界の小規模農家たちが、子どもをふくめて低賃金で働き続けているからだ。労働をした人々へ適正な賃金が支払われる世の中にならなければ、子どもたちが義務教育を捨てて働き続ける現状は変わらない。
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コットン
コットンは、洋服やタオルなどを作るために必要な素材である。日常で多く使われるコットンは、世界各国の子どもにより大量生産がおこなわれている。
日本もコットンを海外から輸入しており、児童労働と関わりをもっているのが現実だ。そのため、生産ルートに子どもたちの労働が関わっていない「サステナブルコットン」への注目が始まっている。
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児童労働を撲滅する国際的な4つの解決策
児童労働は、多くが国自体に原因があり引き起こされている。働き続ける子どもを減らすためには、国際的な解決策を打ち出すことが大切だ。
1.SDGsによる世界的な指針の設定
SDGsとは、あらゆる国で起こる社会問題を解決するため、世界で取り決められた共通の指標だ。SDGsでは、2025年までに児童労働の撲滅を目指す目標が立てられている。
具体的には、貧困の解消や、子どもに教育機会を与える取り組みなどが世界で行われている。
2.政府によるガイドラインの制定
児童労働をなくすためには、政府による法整備が欠かせない。たとえば、カカオ豆の生産が児童労働に依存しているガーナでは、子どもの権利や福祉の保障を促す「児童労働フリーゾーン(CLFZ)」を制定した。
フリーゾーンは、義務教育を受けていない子どもの労働を人権侵害と定義づけ、継続的に是正がおこなわれるよう定められた地域のことである。自治体から積極的な支援がおこなわれるため、児童労働の撲滅につながる仕組みだ。
3.生産過程の透明化
カカオ豆やコーヒーなどの農林水産業では、生産過程において多くの児童労働が発生している。そのため、生産過程を透明化することで、小さな子どもが働き続けている問題が浮き彫りになる。
また、児童労働に加担していない農家に対して、特別な料金を支払う動きも出ている。健全な農家の収入を向上させることで、そもそも児童労働を必要としない世の中を作る仕組みだ。
生産過程の透明化が進めば、適正なルートで届いた製品のみの購入者が増え、児童労働の撲滅につながるだろう。
4.国際労働機関による基準の設定
児童労働を撲滅するため、国際労働機関であるILO(International Labour Organization)による活動が注目されている。ILOは、働き続ける子どもだけでなく、国際的な強制労働問題の解決にも取り組む機関だ。
ILOは、正しい教育を受けられないまま働く子どもをなくすため、条約を制定する力を持っているのが特徴である。たとえば、就業の最低年齢を定めた「第138号条約」や、人身売買や武力紛争への強制などの労働をさせない「第182号条約」はILO 総会で採択されている。
SDGs の「2025年までに児童労働をなくす」という目標の実現に向け、子どもたちを守るための基準を設定し、改善に向けて働きかけていく必要がある。
児童労働をなくすために飲食店ができる3つの活動
児童労働に加担しないために、飲食店はどのようなことを行えば良いのだろうか?ここでは、それぞれの飲食店ができる具体策を紹介する。
1.フェアトレード商品をメニューに取り入れる
フェアトレードとは、途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することにより、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す「貿易のしくみ」のこと。フェアトレード認証を受けている商品は、生産者に適切な賃金が支払われていることを第三者である認証機関が監査・認証したものだ。認証を受けた食材を調達することで、児童労働への加担を避けることができる。
さらに、フェアトレード認証は生産者一人ひとりが作った農作物や製品に対して認証がつくのではなく、生産者組合ごとに認証される。そのため、生産者組合が生産性向上のために機材を購入することができたり、学校や病院を建設したりと、生産者全体の利益のために有効活用される。近年では、さまざまなコーヒーやチョコレートなどがフェアトレード認証を取得している。
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2.寄付や募金の活動に取り組む
寄付や募金をすることで、児童労働に対する取り組みを支えるのもひとつの方法だ。飲食店としては、売り上げの一部を寄付にあてる他、お店の考えや姿勢を示すメッセージとともにレジの横に募金箱を設置するのも良いだろう。
最もポピュラーな寄付先としては「公益財団法人 日本ユニセフ協会」がある。国連機関だからこそできる、大きな規模の活動を継続的に行なっている。また、「認定NPO法人かものはしプロジェクト」は約15,000人の会員に支えられ、被害者が自分自身の人生を取り戻すための活動と、人身売買ビジネスが成り立たないような仕組みをつくる活動を同時進行で行っている。
他にも、いくつもの団体が活動を行っており、その支援の特徴もさまざまだ。お店の姿勢に合った寄付先を検討してみてはいかがだろうか。
3.エシカルな製品を活用する
「エシカル消費」や「エシカルファッション」「エシカルコスメ」といったワードを目にしたことはないだろうか。エシカルとは、地球環境だけでなく、人や動物にも配慮する考え方。近年、不当な労働が生産ルートに関わっていないなど、持続可能な商品であることをPRする商品が増えている。
飲食店でも積極的に活用ができる商品としては、サステナブルコットンの使用があげられる。サステナブルコットンは、生産における労働環境や地域の環境負荷を抑えたコットンのこと。こうしたコットンを使ったテーブルクロスや制服を導入するのもおすすめだ。
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児童労働の現状を知り飲食店としてできる活動に取り組もう
児童労働をなくすため、飲食店として初めに取り組むべきことは、厳しい環境で働く子どもたちがいる現状の理解だ。児童労働がの原因や問題点を知らないままでは、具体的な行動につなげることはできない。
2023年9月のユニセフの発表によると、今のままでは児童労働のような子どもの権利に関する世界的な目標が、ほとんど達成できないとされている。
【関連記事】 子どもの権利に関するSDGsの大部分が達成できない恐れ。ユニセフの最新発表
日本で暮らす私たちにとって「児童労働」というと、つい遠い国の出来事をイメージしがちだ。しかし児童労働の多くが、農林水産業で行われていることから、「食」の分野と密接に関わっている身近な課題だといえる。飲食店を含め、食に関わる業界全体で取り組むべき問題として、できることから始めてみてはいかがだろうか。
【関連記事】
【参照サイト】 JICA:ガーナ共和国カカオ・セクターを中心とした児童労働に係る情報収集・確認調査
【参照サイト】 (IOL)国際労働機関:国際労働基準(基準設定と監視機構)
【参照サイト】 認定NPO法人かものはしプロジェクト