今回から全4回に分けて、レストランの「サーキュラーエコノミー」についてより理解を深め、実践に移していくためのヒントとなるコラムをお届けする。
第1回目となる今回は、「サーキュラーエコノミー」の基礎的な概念と、レストランがどのようにサーキュラーエコノミーを実践できるかについての概要をご紹介する。サーキュラーエコノミーという言葉を初めて聞くという方も、ぜひ参考にしていただきたい。
サーキュラーエコノミーとは?
「サーキュラーエコノミー」は、日本語で訳すと「循環経済」となる。一言で言えば、廃棄物や汚染を出すことなく、資源を循環させ続けていくことで経済成長と環境負荷をデカップリング(分離)するための経済システムのことを指す。
いま、世界では気候危機や資源の枯渇、プラスチックによる海洋汚染といった様々な社会課題が顕在化している。その解決策として、従来型の大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とする一方向型のリニアエコノミー(直線経済)から、サーキュラーエコノミー(循環経済)への移行が叫ばれているのだ。
サーキュラーエコノミーの3原則
英国に本拠を置くサーキュラーエコノミーの推進機関エレン・マッカーサー財団は、サーキュラーエコノミーの原則として下記の3つを上げている
- 自然のシステムを再生する(Regenerate natural system)
- 原材料と製品を使い続ける(Keep products and materials in use)
- 廃棄物と汚染をなくす設計(Design out waste out pollution)
このうち、もっとも重要となるのが3つ目の「廃棄物と汚染をなくす設計」だ。サーキュラーエコノミーは、商品やサービスを設計する最初の段階から廃棄物や汚染が出ないようなデザインをすることから始まる。そして、一度つくったものはできるかぎり長く経済システムの中で使い続け、そうすることによって自然のシステムをよりよくしていく、というのがサーキュラーエコノミーのビジョンだ。
サーキュラーエコノミーの「バタフライ・ダイアグラム」
この3原則に基づく循環のイメージを分かりやすく表現しているのが、下記の「バタフライ・ダイアグラム」と呼ばれる概念図だ。蝶のような形をしていることがその名の由来だ。この図は3つの層に分かれており、それぞれが3原則に対応している。
第一層目から、再生可能な資源(太陽光エネルギーなど)または有限な資源(石油や鉱物など)が第二層目の経済システムに投入される。次に、部品メーカーがその原材料を使って部品をつくり、その部品を使って最終品メーカーが製品をつくり、サービス提供者がその製品を消費者・利用者の手に届ける。そして、消費者・利用者が製品の使用後にそれらを廃棄すると、第三層にどんどんと廃棄物が蓄積されていき、環境も汚染されていく。
このように第一層から第三層までの流れが直線的になっており、資源を採掘し、製品をつくり、使い終わったら捨てるというTake・Make・Wasteの状態になっているのが現在のリニアエコノミーだ。その逆に、第三層に落ちていく廃棄物や汚染をゼロにし、できるかぎり第二層の中で資源や製品を循環させ続けるというのがサーキュラーエコノミーとなる。
この図を見方でポイントとなる点は、大きく3つある。
一つ目は、左側と右側でサイクルが分かれている点だ。左側のサイクルは、食品や綿、木材といった有機物の循環を示しており、「生物サイクル」と呼ばれる。一方の右側のサイクルは、自動車やプラスチックなどそのまま自然界に流出すると悪影響が生まれてしまう工業製品のサイクルを表しており、「技術サイクル」と呼ばれる。
レストランの場合、取り扱う食材は左側の生物サイクルで循環させ、キッチンにある冷蔵庫などは右側の技術サイクルで循環させるというイメージとなる。また、一つの製品でも両方のサイクルが必要な場合もある。例えば木材と金具でできたテーブルをイメージしてみよう。このテーブルの使用後は、テーブルの木材部分は左側の生物サイクルに、金属部分は右側の技術サイクルに分けて循環を回す必要がある。そのため、テーブルの使用後に木材と金具部分がしっかりと分離できるように最初からデザインされている必要がある。
二つ目のポイントは、左右ともに複数のループが存在しているが、サーキュラーエコノミーにおいてはより内側のループのほうが優先されるという点だ。例えば技術サイクルを例にとってみると、一番外側にあるループは「リサイクル」となっている。リサイクルとは製造した完成品をいちど原材料レベルまで戻すことを指すため、リサイクルをすると製品の製造に使ったエネルギーや水などが全て無駄になってしまう。また、リサイクル自体にもエネルギーを必要とするため、必ずしも環境に優しい選択とはならないこともある。
逆にもっとも優先度が高いループが一番内側にある維持・長寿命化、シェア、といった方法だ。これらは製品をできるかぎりそのままの形で使い続ける仕組みであり、リサイクルよりも資源生産性(一つの資源からどれだけ多くの価値を生み出せるか)は高くなる。これが、サーキュラーエコノミーは単なるリサイクルとは全く異なる概念だと言われる理由だ。
レストランが持つ可能性
サーキュラーエコノミーの概要について、3原則とバタフライ・ダイアグラムという概念図を用いて説明してきたが、この新たな経済の仕組みがレストランとどのように関わっているのかがまだよく分からないという人も多いかもしれない。
まずは、3原則の言葉にレストランをあてはめて、サーキュラーエコノミーの原則を適用したレストランをイメージしてみよう。
- 廃棄や汚染が出ないレストラン
- できるかぎり原材料や製品を長く使い続けるレストラン
- 自然のシステムを再生するレストラン
いかがだろうか?少しイメージが具体的に湧いてきたかもしれない。次は、バタフライ・ダイアグラムをベースとして、循環するレストランの姿を考えてみる。
レストランにインプットされる資源にはどのようなものがあるだろうか? 電力・ガス・水といったインフラに加え、レストランの建物や内装に使われる建材や家具類、料理の提供に必要な調理器具や食器類、そして何より食材など、様々な資源がレストランに投入されていることが分かる。
それでは、それらの資源をレストランが使用した後に、どのような廃棄や汚染が生まれているだろうか。汚れた水、食品ロス、割りばし、紙、プラスチック、アルミホイル、割れた食器など、毎日様々な廃棄物がレストランから出ている。また、店を閉店した場合は建材や家具なども廃棄物となるかもしれない。サーキュラーエコノミーの原則を適用したレストランのゴールは、これらの廃棄物をゼロにし、生物サイクルまたは技術サイクルのいずれかを通じて一度使用した資源を循環させ、再びインプットに戻すことにある。
例えば、食品ロスをコンポストし、堆肥化した土を使って野菜を育て、その野菜を再び料理として提供するというのは生物サイクルの分かりやすい例だ。また、プラスチックのゴミが出ないように使い捨てカップの提供をやめて、何度も繰り返し使用可能な陶磁器カップに切り替える。その陶磁器が欠けてしまったら、捨てることなく修理に出して再び利用するというのも技術サイクルにおける取り組みの一つだ。そもそものレストランのエネルギーを再生可能エネルギーに切り替えるというのも大事な取り組みである。
レストランのデザインには、外観や内装のデザイン、テーブルやキッチンのデザインといったハードのデザインに加え、レシピのデザイン、盛り付けのデザイン、お客さまとのコミュニケーションのデザインなどあらゆる領域のデザインが存在しており、全ては誰かがデザインした結果として生まれたものだ。
これら一連のデザインの作業において、最初のタイミングからどうすれば汚染や廃棄が出ないかを考え、レストランをつくること。そして、一度使用した原材料は食材だろうが食器だろうができる限り使い切る・使い続けること。そうすることで、環境への負荷をゼロに近づけ、さらにはプラスにしていくこと。これが、目指すべき循環するレストランの姿だ。
非常に難しいことのようにも聞こえるが、実際に欧州ではゼロウェイストを実現している「Nolla」や「Silo」、廃棄食材を使ったメニューを提供している「Instock」など、サーキュラーエコノミーの原則を取り入れたレストランが数多く存在している。オーナーやシェフのアイデア一つで、廃棄物も減らし、コストも減らし、お客さまの満足度を上げることはできるのだ。そう考えると、サーキュラーエコノミーに取り組むことがとても楽しくなってくる。
まとめ
いかがだろうか。今回はサーキュラーエコノミーの基本的な概念について説明したが、次回以降は、生物サイクルは「食材」、技術サイクルは「お店づくり」というテーマで、それぞれどのようにレストランが循環のループを回していけばよいのかをより具体的に説明していく。また、そのうえで最後には持続可能なレストランの運営に欠かせない「ひと」や「コミュニティ」という視点から、サーキュラーエコノミーを捉え、環境(Planet)・社会(People)・経済(Profit)の全てに恩恵をもたらす循環型のレストランのありかたについて説明していく。次回以降もぜひ楽しみにしていただきたい。