「レストランのサーキュラーエコノミーを考える」特集の最終回となる第4回目は、「コミュニティ」という視点から、循環するレストランのありかたについて考えていく。
大事なのは「ひと」の視点
サステナビリティの世界では、「Planet」「People」「Profit」という3つの「P」を軸に事業活動を評価する「トリプルボトムライン」という考え方がある。サーキュラーエコノミーは、資源の循環や自然を再生するという「Planet」の視点や、それによって長期的に企業としての経済競争力が高まるという「Profit」の視点からその価値を語られることは多いが、決して忘れてはならないのが、もう一つのPとなる「People」の視点だ。
サーキュラ―エコノミーはあくまで手段であり、それ自体は目的ではない。究極的な目的は、地球で暮らす私たち一人一人のウェルビーイング(幸福)を実現することであり、「ひと」の視点なくして資源循環や経済性の話ばかりをしていると、本末転倒になってしまう。
サーキュラ―エコノミーの実現により、誰もにその恩恵が行きわたるか、やりがいのある新たな仕事が生まれるか、人々の多様性が尊重される社会が実現するか、人々の幸福度は高まるか、といった社会的な側面を考えていくことがとても重要なのだ。
レストランの例で行けば、循環するレストランの実現により、従業員やお客様、生産者の幸福度が高まるかといった、レストランに関わる人々の視点から取り組みの価値を評価していくことが求められる。そこでキーワードになるのが、「つながり」だ。
循環を通じてつながりを生む
人間の幸福に欠かせない要素の一つが、他者との「つながり」だ。サーキュラーエコノミーの何よりの魅力は、資源が循環する仕組みづくりを通じて「つながり」が生まれるという点にある。なぜなら、循環は一人や一社だけで実現することはできず、必ず他者とのパートナーシップが必要となるからだ。
その良い例が、アムステルダムやNYなど世界中の都市で展開されているコミュニティ・コンポストの仕組みだろう。まちなかにあるコンポスト設備に住民が生ごみを持っていくことで、食品ゴミの廃棄物が減り、できた堆肥を使って新たな農作物が育てられるだけではなく、そこに集まった地域の人々のつながりが増えていき、結果としてさらに様々な循環が生まれやすくなる土壌がつくられる。まさに、Planet・Profit・Peopleの全ての面で価値のある活動だと言える。
サーキュラ―エコノミーの世界では、他にもDIYバー、リペアカフェ、様々なモノをお互いに貸し借りできるシェアリングプラットフォームなど、循環のための活動を通じて人と人とが自然とつながるような仕組みが数多くある。
レストランの場合、例えばお店から出る生ごみのコンポストを通じて農家とともに循環の仕組みをつくることもできるし、備品のシェアリングや廃棄物のマッチングなど、地域にある他のレストランや異業種の事業者と連携しながらより大きな循環の仕組みをつくり出すこともできるだろう。
サーキュラーエコノミーを実現するプロセスのなかで様々な人とつながり、ともに循環の仕組みをつくりあげていくことで、結果として助け合える仲間が増え、一人一人の幸福度も上がっていくし、経済的な意味でもより多くの恩恵が受けられるようになるのだ。
信頼がゴミを減らす
サーキュラ―エコノミーを通じて「つながり」が生まれ、お互いの中に信頼関係が生まれると、様々なメリットが生まれる。一番大きなポイントは、相手に信頼してもらうためにかけるコストが大きく削減できるという点だ。
例えば、ラベルレスのペットボトル飲料をイメージしてみて欲しい。誰もが良く知っているブランド力のあるメーカーのラベルレス・ペットボトルであれば、私たちは何も気にせずその商品を買うことができるし、むしろラベルをはがしたり捨てたりする必要もなく、エコな商品だと喜んで受け入れるだろう。しかし、これが仮に名前を聞いたこともない遠い異国のブランドだったとしたらどうだろう。ラベルレスのペットボトルを渡されても、中身に何が入っているかも分からないし不安なので、ラベルでしっかりと成分や原材料表示、原産国などを表示してほしいと思うだろう。
消費者と生産者のあいだでお互いに信頼関係が成り立っていれば、相手に信頼してもらうために必要となる説明も省けるため、結果としてコストも環境負荷も下がるのだ。これが、つながりが生む「信頼」の力だ。
ペットボトルだけではなく、野菜や果物でもそうだろう。顔が見える地域の農家が作った野菜や果物であれば、多少形が悪かったり表面が傷んだりしていても、誰がどのように作っているかが分かるから、安心して購入することができる。
しかし、生産者と消費者の距離が離れ、お互いの顔が見えなくなると、とたんに信頼感が薄れてしまい、その食品が安全・安心であることを担保するために様々な添加物や保存料が必要となったり、本来の期限以上に賞味期限を短く設定する必要が出てきたり、パッケージで様々な情報をアピールしたりする必要が出てくる。もちろん、物理的に距離が離れていれば、輸送に伴う環境負荷も高まってしまう。
生産者と消費者のあいだに「つながり」がなく、信頼関係がないと、環境負荷もコストも増えてしまうのだ。
コミュニティとしてのレストラン
このように考えていくと、循環するレストランのあるべき姿とは、様々な人々の間につながりをもたらすハブとして機能する、まちのコミュニティのような存在だと言える。ただ資源が循環する仕組みをつくるというだけではなく、そのプロセスを通じてどのように人と人とのつながりを生み出すか、という視点が求められるのだ。つながりという点では、下記のような様々なつながりがデザインできるはずだ。
生産者とのつながり
生産者である農家と直接つながることで、レストランから出る食品廃棄をコンポストし、農家の方にその堆肥を使って野菜を育ててもらい、その野菜をまたレストランで提供するといった循環の仕組みが作れるようになる。循環するレストランの実現において、生産者との顔が見えるつながりは欠かせないと言えるだろう。
生産者とお客様とのつながり
レストランは、生産者とお客様の間に立つ存在として両者をつなぐ大事な役割を果たすことができる。お客様に生産者の声を届けることもできるし、その逆もまたしかりだ。お店のスタッフやシェフがお客様に作り手の思いをしっかりと伝えることで、料理をよりおいしく食べてもらい、結果としてロスを減らすこともできる。また、お客様からのフィードバックを生産者の方にお伝えすることで、生産者の方にやりがいを生み出すこともできる。レストランを通じてお互いに顔を見える関係を創り出すことで、無駄な廃棄も減り、みんなの満足度が上がり、結果としてレストランの利益にも跳ね返ってくる可能性があるのだ。
従業員とお客様とのつながり
サーキュラ―エコノミーは、お店のスタッフとお客様がサービスの提供者と顧客という関係性を超えて、よりよい食の未来に向けてともに歩む仲間へと関係性の質を変えることができる。サーキュラーエコノミーの実現にはお客様の協力が欠かせない。例えば、食べ残しを少しでも減らすためには店員とお客様との注文時のコミュニケーションが鍵を握るし、使い捨てカップや容器の利用を減らすためには、マイカップを持ち込んでもらったり、リユーサブルなカップの利用を優先してもらったりする必要がある。お店としての考えを文字や言葉などを通じて丁寧に伝え、お客様とコミュニケーションを積み重ねていくことで、結果としてお店のファンが増え、より円滑にサーキュラ―エコノミーが実現できるようになるだけではなく、お店の売上にもつながっていく。
まとめ
いかがだろうか。上記の他にも、レストランには家具や食器、ストロー、制服にいたるまで様々なサプライヤーがおり、お店を支えるそれらのステークホルダーとつながり、ともに循環をデザインしていくことで、レストランのサーキュラーエコノミーはさらに加速していく。
サーキュラ―エコノミーは一人や一社だけでは実現できないため、多くのパートナーを巻き込むことが必要だが、それは裏を返せば多くの人に新たな役割が生まれるということでもあり、それぞれが持つ個性や強みが活かされるということでもある。
資源が循環する仕組みづくりを通じてつながりが生まれ、レストランをハブとしたコミュニティが形成されていくと、最終的にはレストラン自身がそのコミュニティに支えられ、持続可能な存在となっていくのだ。
サーキュラ―エコノミーの実現により、シェフやスタッフ、生産者、サプライヤー、お客様、地域の事業者といった様々な人にどのような恩恵がもたらされるのか。ぜひその点を意識しながら、関わる全ての人が幸せになる循環型のレストランづくりを進めていこう。
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