
「レストランのサーキュラーエコノミーを考える」特集の第3回目は、レストランの「お店づくり」の視点から、循環するレストランのあり方について考えていく。
技術サイクルについて理解する
前回の「レストランのサーキュラーエコノミーを考える(2)食材編」では、エレン・マッカーサー財団が提唱するバラフライ・ダイアグラムのうち、左側の「生物サイクル」にスポットをあてて説明した。今回の「お店づくり」において主なテーマとなるのは、右側の「技術サイクル」だ。

バタフライ・ダイアグラムの技術サイクル – Circular Economy Hub より引用
技術サイクルは、化石燃料や鉱物資源などを用いた有限資源の循環を指しており、例えばプラスチックやアルミニウム、鉄などの循環が該当する。
「レストランのサーキュラーエコノミーを考える(1)基礎編」でも解説した通り、技術サイクルを理解するうえで特に意識したいポイントは、内側のループが優先されるという点にある。
最も優先されるのは、シェアリングサービスや維持・長寿命化により、製品の利用者ができる限り長く製品をそのままの形で使い続ける仕組みだ。その次に、再利用・再配分、回収・再製造といった取り組みが優先され、リサイクルはサーキュラーエコノミーにとっての最終手段となる。
リサイクルは製品を一度原材料レベルまで分解するプロセスであり、製品の製造までに使ったエネルギーなどの資源が全て無駄になってしまう。また、リサイクル自体にも多くのエネルギーを必要とするため、LCA(ライフサイクルアセスメント)の観点で考えたとき、ケースによってはリサイクル素材よりも新規素材を利用したほうがCO2排出量が少なくなる可能性もある。
この「内側のループを優先する」という原則を理解したうえで、一般的なレストランに投入されている資源を考えてみると、食品以外にも様々な資源が投入されていることが分かる。
例えば、建造物そのものに加え、机や椅子、照明などの家具類、冷蔵庫やオーブン、食洗器といった調理器具、お客様に提供する食器、テイクアウトに必要な使い捨て容器、調理に必要なキッチン用品、レジ、従業員の制服にいたるまで、レストランには開業時や日々の運営においてあらゆる製品や資源が投入されており、それらが閉店時や日々の運営のなかで廃棄されている。
これらの資源をできる限り循環させ続け、レストランの運営から生じる食品以外の廃棄物も削減するためにはどのようにすればよいのだろうか?
今回は、これらの資源の中でも特にレストランの運営において大きなウェイトを占める資源別に、循環を実現するポイントをご紹介していく。
店舗設計
新しく店舗をオープンする際は、どれだけ新規の素材を利用せずに店をつくり、開業するかという点は、コストだけではなくサーキュラーエコノミーの観点からも重要だ。昨今では居抜き店舗を活用して開業の初期費用を抑えるケースも増えているが、そのように新しい資源の利用はできる限り避けて既存の設計や設備を活用し、リユースやアップサイクル素材なども活用しながら店を作り上げていくことが大事だ。
また、店舗設計においては、最初から閉店するときのことを考え、解体しやすいデザインにしておくという点もポイントとなる。建築の視点では、改修やリサイクルがしやすいように異なる素材を接合しない、モジュール式、組み立て式のデザインを採用するなどの方法がある。
調理設備
レストランの運営に欠かせない冷蔵庫や食洗器といった調理機器はリース形式で揃える選択肢も一般的だ。 サーキュラーエコノミーの視点で考えると、リースによって設備を調達し、自ら調理機器の所有権を持たないことは、PaaS(Product as a Service)と呼ばれる理想的なモデルに当てはまる。このモデルでは製品の所有権は移転しないため、製品の提供側が製品寿命の延長や易解体性の向上といった資源生産性の向上に取り組む経済的なインセンティブが生まれるからだ。リースの契約形態にもよるが、リース契約の終了後に商品が製造元へ回収され、改修や再製造などを経て再び市場に投入されることで、循環型のモデルが成立する。
しかし、リースで借りればサーキュラ―エコノミーになるのかと言えば、当然ながらそうではない。導入する一つ一つの製品に対して、循環型の素材利用、解体しやすい設計、耐久性などサーキュラーデザインの原則がしっかりと適用されているかを確認し、循環型の調達を実践することが重要となる。
サーキュラーデザインの原則を採用している製品の調達は、場合によって初期コストが高くつく場合もあるが、耐久性の高さにより長期的に見てコスト削減につながるケースもあり、さらには機能性の高さが結果としてレストランで提供する商品価値の向上につながり、コストを上回る利益を生み出す可能性もあるため、多角的な視点から検討することが重要だ。
家具類
お客様をもてなすテーブルや椅子、お店の雰囲気をつくる照明といった家具類も、魅力的なレストランづくりに欠かせない大事な要素だ。最近ではこれらの家具類もPaaS形式でレンタルできるサービスが出てきており、店舗開業時のイニシャルコストとランニングコストを考えたときに合理的な選択となるのであれば、最初からできる限り家具類は所有しないというのも選択肢の一つかもしれない。
また、調理設備と同様に、家具そのもののサーキュラリティ(循環性)にもこだわることが重要となる。特に、厨房にある調理設備とは異なり、テーブルや椅子といった家具類は直接お客様の目に触れるものであり、サーキュラーエコノミーのコンセプトを取り入れたものであれば、それ自体がお店のブランドづくりに大きく貢献する。
廃材をアップサイクルした家具などはその典型であり、例えば使えなくなったフライパンを加工して掛け時計を作る、空き瓶を使って照明を作るなど、アイデアによってはお店から出た廃棄物を活用して家具を作ることもできるかもしれない。家具類もお店としての考えや理念を伝えるメディアであるということを意識し、循環型の調達を心がけることが重要だ。
食器類
お客様が必ず手にするのが食器類だ。ニッコーでは、NIKKO Circular Labを通じて食器のサーキュラーエコノミーに取り組んでいる。上質な土や石といった枯渇性資源を使用しているにも関わらず、少しでも欠けたり割れたりしただけで廃棄されてしまう、まさにリニア(直線)型のモデルとなっている食器のシステムを循環型に変えていくことが目的だ。
その一環として、耐久性向上に向けた取り組みはもちろん、リカラーによる食器の再生や、食器のサブスクリプションサービスなども提供している。
また、お店で出す食器類からできる限り使い捨ての製品をなくすというのも一つだ。箸やコップなどを何度も洗って使えるリユーサブルなものにするほか、ストローなどもプラスチック製のものを金属製のストローなどに切り替えるという選択肢がある。また、仮に使い捨てストローだとしても生分解性ストローに切り替えるなど、様々な工夫が考えられる。
なお、レストランの運営には食器の洗浄が欠かせないが、洗浄時に使用する洗剤も、有害な物質を含まない環境に配慮されたものを使うというのも大事なポイントだ。日々の水利用が、目の見えないところで河川の水質汚染や海洋汚染につながっているということを意識する必要がある。水については、店舗によっては雨水の利用などを検討できるケースもある。
テイクアウト容器
テイクアウトサービスを提供しているレストランにとって、テイクアウト時に必要となる使い捨てのプラスチック容器やプラスチック袋はサーキュラーエコノミーの視点から考えると何らかの努力が求められる部分だ。できる限り過剰な容器包装を控えることはもちろん、再利用可能なリターナブル容器を導入できないか、お客様に容器を持ってきてもらうといった取り組みができないか、使い捨てだとしてもより環境に配慮された素材に変更できないかなどを模索する必要がある。テイクアウトの際につける割りばしやナフキンなども、本当に顧客がそれを求めているかどうかを口頭で確認するひと手間をかけるだけで、大きく提供量が変わるかもしれない。
エネルギー
最後のポイントとして、エネルギーにも触れておく。レストランにまつわるCO2排出としては、自社から直接・間接的に排出される店舗でのガスや電力使用(スコープ1・スコープ2)に加え、レストランで提供する食品の生産時や店舗内にある什器・食器類などの製造時・輸送時に排出するCO2やフードロス・廃棄物の燃焼により発生するCO2、従業員の通勤時に発生するCO2など、自社のサプライチェーンを通じて排出されるCO2(スコープ3)など様々なものがある。
このうち、まず取り組みやすいのが、スコープ2にあたる店舗運営に必要な電力を再生可能エネルギーに切り替えることだ。そのうえで、フードロスや廃棄物をできる限り減らす、地産地消の食材調達によりフードマイレージを減らすなど様々な工夫をすることで、レストラン運営に伴う気候変動への影響を抑えていくことができる。
まとめ
いかがだろうか。今回は「店づくり」という視点から、レストランが取り組めるサーキュラーエコノミーについてご紹介した。上述したように、レストランに投入されている資源をくまなく見てみると、食品以外にも多くのものがあることが分かるはずだ。
その一つ一つについて、エレン・マッカーサー財団のバタフライ・ダイアグラムに基づいて生物サイクル、技術サイクルのいずれの循環で回していくべきなのかを考え、内側のループを優先しながら循環のシステムをつくっていくことが重要だ。
循環サイクルの頻度やスピードは資源によって大きく異なり、資源によっては自社だけではなくサプライヤーや顧客などパートナーとの連携が欠かせないものも多いだろう。それは、言い換えれば共創のチャンスでもあり、新たな価値を生み出すチャンスでもある。
これらを一つ一つ丁寧に考え、実践に移していくことはとても時間と手間のかかる作業だが、その積み重ねによりレストランのサーキュラリティ(循環性)は確実に向上していき、真の「循環するレストラン」が実現するはずだ。ぜひできるところから取り組み始めてはいかがだろうか?
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