「レストランのサーキュラーエコノミーを考える」特集の第2回目は、レストランにとって欠かせない「食材」の視点から、循環するレストランのあり方について考えていく。
生物サイクルについて理解する
第1回目で、英国のサーキュラーエコノミー推進機関エレン・マッカーサー財団が提唱するバタフライ・ダイアグラムについてご紹介したが、「食材」は、このバタフライ・ダイアグラムの中でも「生物サイクル」と呼ばれる左側のサイクルの循環を考えていく必要がある。
生物サイクルは、土壌の上に成り立つ生物圏(バイオスフィア)を通じた循環となり、人間の世界だけで閉じられない、土を通じたより大きな循環が想定されている。
食材の循環について考えると、まず「部品・材料製造者」である農業や畜産業、水産業といった一次産業の人々が最終的にレストランでの調理に使われる原材料を育てたり自然界から収穫したりする。そして、それらの原材料は野菜や果物などのように直接レストランに届けられる場合もあれば、例えば油や調味料、パスタなどのように一度原材料が「製品メーカー」へと納品され、メーカーが商品化したものをレストランが調達するというケースもある。それらの原材料が最終的に「サービス提供者」であるレストランのもとに来て、その場で調理をされ、「消費者」であるお客様のもとに提供されるというイメージとなる。
ここまで説明した流れはリニア(直線的な)システムとなるが、サーキュラ―エコノミーにおいてはこれらのシステムを「自然のシステムを再生させる」「製品と原材料をできるかぎり使い続ける」「廃棄・汚染を出さない設計」という3原則に基づいてどのように循環させつづけるかがポイントとなる。
ここからは、バタフライ・ダイアグラムに沿って「食材」のサーキュラーエコノミーを実現するためのポイントを解説していく。
1. 循環型の調達を実現する
食材のサーキュラーエコノミーをレストランの視点から考えるとき、まず出発点となるのは「調達」だ。どのような食材をどこの誰からどのようにどれだけ調達するのかが最も重要なテーマとなる。ここでは循環型の調達を考えるうえで検討するべきポイントをご紹介する。
必要な分だけを調達する
大前提となるのは、調達後に使い切れずに廃棄となってしまうことがないように、必要となる分だけの食材を調達するという点だ。
安全な食材を調達する
生物サイクルのループを回すうえでは、その中に人体も含む自然界に悪影響をおよぼす有害な化学物質などが含まれていないことが前提となる。そのため、法律で定められた安全性が担保されていることはもちろん、化学肥料や農薬の使用、遺伝子組み換えなどがない有機栽培による農作物を調達することで、自然界に対する汚染をなくし、サーキュラ―エコノミー原則の3つ目にあたる「廃棄物や汚染をなくす設計」を満たすことができる。
再生型の原材料を調達する
不耕起栽培や被覆作物などにより農業を通じて土壌を再生する「再生型農業(リジェネラティブ農業)」によって栽培された農作物や、工業型畜産ではない「再生型放牧」によって育てられた肉など、自然への環境負荷がないもしくは自然を再生させる仕組みによって育てられた原材料を調達することで、レストランを通じて「自然を再生する」というサーキュラーエコノミーの原則を満たすことができるようになる。
植物由来の原材料を中心に調達する
牛肉をはじめとする現状の工業型畜産は、温室効果ガスの排出により気候変動の大きな要因となっていることが明らかになっている。そのため、肉の代わりに大豆を使用するなど、メニューを植物由来中心に切り替え、工業型畜産によって育てられた肉の使用量を減らしていくことで、環境への悪影響を減らすことができるようになる。一方で、大豆などを調達する際も、その大豆が持続可能な形で生産されたものかどうかをしっかりと意識する必要がある。
地産地消の食材を調達する
できるかぎり地産地消の食材を利用することで、フードマイレージを削減し、輸送におけるCO2排出の削減ができることはもちろん、保存料などの有害物質やパッケージ資材の使用なども削減でき、廃棄物の削減にもつながる。
自家栽培で食材を調達する
究極の地産地消は、レストラン自体が提供する食材を育ててしまうという方法だ。レストランの屋上や庭先で野菜を育てたり、最近ではレストランの室内で垂直農業に取り組んだりする事例なども出てきている。フードマイレージを限りなくゼロにすることで、新鮮な食材を提供するだけではなく大幅な環境負荷削減につなげられる。
旬の食材を調達する
旬の食材を使用するように心がけることで、食材の保管や保存に必要となるエネルギーや様々な資源を節約することができる。
廃棄予定・規格外品を調達する
生産や流通において廃棄ロスになってしまった食材や、規格外品により流通に乗らなかった食材を調達することで、自社だけではなく他者との協働によるより大きなスケールでの循環を実現することができる。
認証済みの食材を調達する
オーガニック認証、MSC/ASC認証、RSPO(持続可能なパーム油)など、持続可能な形で生産・収穫されたことが第三者機関により認定されている食材を中心に調達するという方法もある。
2. フードロスを削減する
食材の調達後は、それらをできる限りロスを出すことなく使い切り、サーキュラーエコノミー原則の一つである「廃棄物や汚染をなくす設計」を実現するという点が次のテーマとなる。レストランにおけるフードロス(食べられるのに捨ててしまうもの)には、大きく分けて主に調理時に出るフードロスと、食事の提供後に出る食べ残しなどのフードロスがある。ここでは、それぞれのポイントについて説明する。
調理時にフードロスを出さない工夫
オランダの廃棄食材レストラン「Instock」が掲げるサーキュラーシェフの5原則の一つには「根から茎まで、鼻から尾まで楽しむ」というものがあるが、まさに調理時のフードロス削減は、もっともシェフのクリエイティビティが発揮されるところでもある。
食材を余すことなく使い切れるレシピやメニューの組み合わせを用意し、直接は提供しない部分も出汁やスープづくりに活用するなど、徹底的に食材を使い切るためのアイデアを考えることが求められる。
また、発酵や乾燥など、余った食材を長期間使える形で保存し、再活用できるような仕組みを用意しておくことも重要だ。
提供後のフードロスを出さない工夫
提供後のフードロスを減らすためには、どのような工夫ができるだろうか。一つ目のキーワードはお客様との「コミュニケーション」だ。例えば、メニューにアレルギーや成分表示はもちろん、料理の写真も掲載することで量を視覚的に確認できるようにするといった工夫もできる。
また、注文時に店員がただオーダーを受け取るだけではなく、少し頼みすぎだなと思ったらしっかりと量を伝えたり、お客様の要望や体調などに応じて量のカスタマイズを提案したりするなど、双方向のコミュニケーションをしっかりと心がけるだけでも、提供後のフードロスを減らすことができる。ここでは店員のコミュニケーションが鍵を握るため、従業員教育という点もポイントとなる。従業員一人一人が、自分のお客様との接し方一つでフードロスが減らせるという認識を持っているか持っていないかは、大きな差となるだろう。
そして、万が一お客様が食べ残してしまった場合でも、持ち帰られるようにドギーバッグのシステムを用意しておくこともできる。お店では全てを食べきれなくても、家では食べたいというお客様もいるので、食べ残しがあった場合は店員から持ち帰りを提案するのもよいだろう。
しかし、何といっても一番のポイントは、やはりお客様が全て食べつくしたいと思うほど「美味しい」料理を提供するという点だ。お客様に喜んでいただけるような美味しいレシピ、メニューの開発に取り組むことが、結局はもっともサステナビリティにつながるということだ。
3. フードロスを活用する
どうしても出てしまうフードロスも、サーキュラーエコノミーの生物サイクルに基づいて循環のループに乗せていくことができる。
コンポストする
もっとも取り組みやすいのは、コンポストによる循環だ。レストランにコンポスト設備を設置し、食材の不可食部分やフードロスなどをコンポストする。そしてそこからできた堆肥を使ってふたたび農作物を育て、その食材をレストランで提供できるようになれば、一つの理想的な循環の形が実現する。コンポストや良質な堆肥作りには専門的な知識が必要となりますので、専門家や農家と連携して実施することがおすすめだ。
新たな商品をつくる
先ほどご紹介したアムステルダムのInstockでは、廃棄ジャガイモやラズベリーを活用したビールを販売している。日本でも廃棄されるパンを活用したビールづくりなどが行われているが、フードロスや加工・調理時に出る副産物などを利用して新たな商品づくりに活かすこともできる。
バイオ原料として活用する
フードロスを、食材ではなく異なる製品の原料素材として活用する方法もある。例えばコーヒーの抽出後に出るコーヒーかすは、プラスチック原料の代替としてサングラスや弁当箱など様々な製品づくりに活用されており、最近ではコーヒーかすから抽出したセルロースナノファイバーの活用に関する研究なども進んでいる。
他にも、お店から出た廃棄野菜の繊維を使って紙をつくり、それをコースターとして提供する、廃棄野菜で染色したエプロンを従業員のユニフォームにするなど、食料品以外への原料としての転用も考えることで、循環するレストランの未来はより広がっていく。
バイオマス発電に活用にする
フードロスをバイオマス発電に活用する取り組みを行っている自治体もある。この循環を実現させるためにはそもそも地域にバイオマス発電設備と、フードロスの回収インフラが存在している必要があるが、地域全体として循環をデザインし、そのシステムの一部としてレストランが存在しているという「ズームアウト」の視点も、サーキュラーエコノミーを考えるうえでは重要だ。
例えば、地域のレストランが協力してフードロスを集め、それらを使って地域の中でバイオマス発電し、その電気をみんなで使うといった循環をつくるなど、「循環するレストラン」の実現に向けてシステム全体の理想的な姿をイメージし、パートナーを巻き込みながら取り組んでいくことがサーキュラーエコノミーの実現には欠かせない。
まとめ
いかがだろうか。今回は食材のサーキュラーエコノミーを実現するためにレストランが取り組むことができることをお伝えした。生物サイクルを通じた循環をうまくデザインすることで、レストランの経営を通じて環境を破壊するどころか、環境を再生していくシステムをつくり出すことができる。ぜひクリエイティブな発想で、できることからトライしてみてはいかがだろうか?