「ホテルのサーキュラーエコノミーを考える」というテーマでお届けしているコラムの第4回目では、「建物自体がサーキュラーエコノミーを実装しているか」という視点で考えていきたい。2021年に開業したノルウェーのSvart(スヴァルト)は自らエネルギーを生み出す世界初のホテルとして話題になった。ここでは、エネルギーや水、建材やインテリアといったホテルのハード面について深掘りしていく。
エネルギー
ホテル全体を動かす上で不可欠なエネルギー。電力量を減らすことが最も重要ではあるものの、どうしても削れない電力においてはソーラーパネルなどの再生可能エネルギーを使用するホテルだけでなく、循環をテーマに廃棄物を活用しているホテルも出始めた。
ロンドンにある5つ星ホテルSAVOYは、2010年のリニューアルオープン時に、ロンドンで最もサステナブルなホテルのひとつになることを目標に掲げた。2012年には、食品廃棄物によって216MWhの発電(客室の35%を1日8時間点灯できる量)を行い、200トン以上の温室効果ガスを削減することに成功した。
日本でも、ホテルグランヴィア岡山が2021年4月に食品廃棄物の有効利用として、バイオマス発電施設に食品廃棄物を引き渡し、メタン発酵を用いたバイオマス発電に活用している。これにより、食品廃棄物100%リサイクルを目指しているという。ホテル館内だけでなく、地域を巻き込んだ取り組みといえる。
水
水はホテルで最も量の多いリソースの1つだ。1回限りの使用で排水にしてしまわずホテル内で再利用することが望ましい。京王プラザホテルでは厨房排水を地下3階にある中水造水プラントに集め、バイオの力で精製した後、館内のトイレ洗浄水などに再利用している。また、雨水を貯蔵しておけばトイレや洗濯用に再利用することも可能だ。
モルディブの高級リゾート、Jumeirah Vittaveli resort in the Maldives では、海水を処理して新鮮な飲料水を作る「エコ・ピュア」システムを導入している。さらに、リサイクルしたガラス瓶に水をボトリングすることでプラスチックゴミの削減にも貢献している。
建材
新規でホテルを建設する際には、大量の建材が必要だ。一方で、建設業における廃棄物排出量が非常に多いことも問題となっている。建物の長寿命化や、取り壊しの際にできる限り廃棄物を出さない方法を選びたい。
リノベーション
ホテルを開業する際、すでにある建物や建材を利用するのもトレンドの一つだ。例えば、2022年1月に開業した「Rosewood São Paulo」は元産婦人科病院であった建築をラグジュアリーへと変身させている。また、スペインの国営ホテル・パラドールは城や宮殿、修道院など歴史ある建物を改装して人気を博している。そのほか、世界には地域性を生かしたユニークな取り組みも存在する。ケニア北部にあるムティトアンディのCAMPI YA KANZIのスイートルームやコテージには、地元のマサイ族が伐採した木を採用している。
木造建築
木材は、鉄やアルミニウムと比べ、製造や加工に必要なエネルギーが少ない。また、設計法・使用法によってばバタフライ・ダイアグラムの左側のループ「生物サイクル」で循環が可能であることから、木造建築の価値が見直されている。2019年、世界一高い木造ビルとして完成したノルウェーの Mjøstårnet (ミョーストーネット)が話題になった。Mjøstårnet は18階建て約85mの高さでホテル、アパートメント、オフィス、レストラン、共用エリアを有している。国内でも平和不動産株式会社が、10階建ての店舗兼オフィスビル「KITOKI」をSRC造の中に木造建築を組み込むハイブリット構造にて実現させている。このプロジェクトでは、一般的に型枠として使用後は廃棄される杉板型枠を可能な限り繰り返し使用し、使用後は廃棄物とせずベンチなどに再利用し、循環させている。
インテリア
ゲストを迎える上で、見た目も機能も重要視したいインテリア。できる限り廃棄を出さずにゲストを満足させる方法を考えていきたい。
修繕
東京五輪を機に新設されたホテルもあれば、大規模修繕が行われたホテルも多かった。特に、クラシックホテルと呼ばれるような歴史あるホテルは建物自体に価値があるため、ほとんど外観を変えることなく耐震強度を高めるなどの措置が取られたケースもある。この場合、多くのものが「買い替える」のではなく「直して使う」手段が取られている。
1954年の開業山の上ホテルは、かつて多くの文豪たちが利用した歴史あるホテルだ。2019年に大規模改修が行われた際、長年にわたり使用されていた椅子やテーブルなどの家具はオリジナルに近い状態に復元された。
サブスク、レンタル
館内の家具や調度品は定期的に変更することで雰囲気が変わり、リピーターのゲストにも喜ばれる。一方で、新しく買い換えるとなると費用も廃棄物もかさんでしまう。そこで活用したいのがレンタルやサブスクだ。例えば、これまで個人宅やオフィス向けに家具や家電のサブスクリプションサービスを提供していたCLAS(クラス)は、2019年からホテル向けのサービスも始めている。また、知識がないと選ぶのが難しい絵画などは、専門コーディネーター付きのサブスクサービスを利用してみるのもいいだろう。
厨房
サーキュラーエコノミーを実践する上で重要なのが「廃棄や汚染をなくす」ことだ。食品ロス問題については、レストランで工夫するだけでなくホテル全体で取り組むことでより効果が期待できる。ここでは、食品ロスを減らすためにホテルとしてできることを考えていきたい。
例えば、ホテルニューオータニ東京では「コンポストプラント」を使い、ホテルの厨房から出る1日約5トンもの生ゴミを100%リサイクルしている。また、レストランでゲストが残した料理を持ち帰れるようドギーバッグを導入し、ゲストに呼びかけることで食べ残しを防ぐことも可能だ。まだまだ食べられる食材は、ホテルで処理するのではなくフードバンクや子ども食堂への寄付することで地域に貢献することができる。
汚染を減らすという観点では、京王プラザホテルの取り組みを紹介したい。同ホテルでは調理に使用された植物性の油を石鹸へとリサイクルし、ホテルバックヤードの手洗い場と一部のゲスト用のトイレで使用されている。
まとめ
いかがだっただろうか。日本には「ものを修理して長く使う」という精神が根付いている。世界遺産を見ても、金閣寺など何世紀も前に作られた建物も多い。一方で、自家発電など最新の技術を有したホテルや建物はまだまだ少なく、世界のホテルから学べることが多いといえる。食や住環境が複合的に絡み合うホテルという場だからこそ、食べもののロスがエネルギーに生まれ変わったり、建物同士ので型枠をシェアしたりといったホテル内での循環、街全体での循環の実現が起こりやすい。ホテルをそうした資源の貯蔵庫として見直してみてはいかがだろうか。
【参照サイト】木材は環境にやさしい
【参照サイト】Case Studies – The Savoy
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