「レストランのサーキュラーエコノミーを考える」特集の第3回目は、ホテルが所有するさまざまな資源を「調達」する視点から、循環するホテルのあり方を考えていく。ここでは、資源を循環させるアイディアや国内外の事例について「宿泊部門」と「料飲/宴会部門」に分けて紹介していきたい。
バタフライ・ダイアグラムについて理解する
ホテルにおいてさまざまな資源を「調達」する上で、第1回目で紹介した、「サーキュラーエコノミーの3原則」と「バタフライ・ダイアグラム」を元に循環を考えていく必要がある。
原則-1の層で採掘された資源が、原則-2の層へ投入される。2の層で、資源を「できる限り使い続けること」ができれば、原則-3の層に落ちていく廃棄物や汚染がゼロに近づく。つまり、「長く使えるもの」や「廃棄が出ないもの」を中心に調達することが鍵となる。また、左右のサイクル「生物サイクル」「技術サイクル」においては、より内側のループが環境に配慮した取り組みとされていることも意識していきたい。
宿泊部門
客室では、宿泊毎に消耗品として廃棄されるアメニティや交換して何度も使用するタオルなど様々な備品が存在する。ここでは廃棄物自体を減らすアイディアや備品を使い続けるアイディアなどを紹介していきたい。また、2022年4月に「プラスチック資源循環促進法」が施行されることとなり、ホテルや旅館でもプラスチック製品削減に対する取り組みの必要性が高まっていることも念頭に置いていただきたい。
大容量ボトルを調達し、廃棄物を減らす
シャンプーなどのバス周りのアメニティは、滞在客ごとにミニボトルを設置しているホテルも多いだろう。客室備え付けの大容量ボトルに置き換えることで容器はもちろん中身の廃棄削減にもつながる。また、ウォーターサーバーやmymizuを設置することで容器なしでミネラルウオーターを提供することが可能だ。最近ではマイボトルを持参する人も増えているため抵抗が少なくなっている側面もある。
使い捨てアメニティの調達を廃止
歯ブラシ、ヘアブラシなどのアメニティーを提供しないホテルも登場してきている。この場合、予約時にアメニティがない旨を必ず伝えることや、持参し忘れた宿泊客のために販売を行うなどの措置が必要だ。
生分解性のアメニティを調達する
脱プラスチックの風潮が高まる中、注目を集めているのが自然素材を使用したアメニティだ。MiYO-organic-は竹製の歯ブラシや綿棒、ヘアコームなど環境にやさしい商品の開発に取り組んでいる。また、スウェーデンに本拠を置くデザイン事務所OnMateriaが開発したホテルアメニティGreen Boxは、製品の緑色の部分がリサイクルされたポリ乳酸と小麦繊維、および植物ベースの無毒な顔料といった堆肥化可能な材料でつくられている。自然素材でできたアメニティを採用すれば、「生物サイクル」による循環が可能だ。
新たに調達せず、繰り返し使用する
これまで客室に置かれているのが当たり前だったペットボトル入りのミネラルウォーター。これをリターナブル瓶に変更することで廃棄物を削減しているのが「ハイアットセントリック銀座」だ。リターナブル瓶は使用後に、瓶を回収して中身をきれいに洗浄し、再び中身を詰め替えて商品化される。回収スキームが整った状況であれば瓶のまま何度も繰り返し使用することが可能だ。そのため、新たに容器を製造する原料やエネルギーを抑えることができ、また原料にプラスチックを使用していないことから環境に優しい容器といえる。
リペア・修理して使い続ける
京都の中心地に位置するGOOD NATURE HOTEL KYOTOでは、客室で使用している茶器に、日本の伝統的な技法である金継ぎを施す取り組みを行なっている。茶器に欠けや割れが生じた際には、新品と交換せず金継ぎを施すことで、より長く使い続け、結果的に廃棄を削減している。また、金継ぎならではの風合いを楽しめることも魅力の一つだ。リペアして長く使うことは技術サイクルを回す重要なポイントだ。
料飲/宴会部門
レストランや宴会場を付帯するホテルで直面するのが「食品ロス」問題だ。適正な調達や工夫によって食品ロスが削減できるアイディアや環境に配慮した調達方法を見ていきたい。また、欠けや割れが生じた際には新品と交換していた食器についても、廃棄を出さないサービスや環境に配慮したアイディアがあるので紹介したい。
適切な量だけ調達し、食品ロスを削減
最も重要なのは、使い切れずに廃棄となってしまうことがないように、必要な分だけの食材を調達すること。そのためには、来店客数や販売数を予測し適切な仕入れをしなければならない。時間も人手もかかることなので、企業が提供しているサービスAI-Hawkなどを利用することで効率化することも可能だ。また、食材をうまく組み合わせてロスを削減するシェフのスキルや、サービススタッフによるお客さまとのコミュニケーションも重要だ。
安全な食材を調達し、汚染をなくす
生物サイクルのループを回すうえでは、その中に人体も含む自然界に悪影響をおよぼす有害な化学物質などが含まれていないことが前提となる。そのため、法律で定められた安全性が担保されていることはもちろん、化学肥料や農薬の使用、遺伝子組み換えなどがない有機栽培による農作物を調達することで、自然界に対する汚染をなくし、サーキュラ―エコノミー原則の3つ目にあたる「廃棄物や汚染をなくす設計」を満たすことができる。
ローカルの食材を調達し、輸送によるCO2排出を削減
自家栽培はもちろん、できるかぎり地産地消の食材を利用することで、フードマイレージを削減し、輸送におけるCO2排出の削減ができる。また、保存料などの有害物質やパッケージ資材の使用なども削減でき、廃棄物の削減にもつながる。
食材に食品ロスを活用する
従来廃棄されていた野菜の皮や茎を使って新たなメニューを開発することで、廃棄を削減することができる。Upcycle by Oisixは廃棄食材を活用した「ここも食べられるチップス」を販売し、計画を大きく上回る売り上げを達成している。また、同社の公式サイトによると2021年7月から2022の2月までの流通総量より算出すると、食品ロスを約16トン削減したことになるという。
食器をサブスクで調達する
取り皿を購入するのではなく毎月定額でレンタルすることで、初期コストを抑えられるサブスク。ニッコー株式会社ではお皿のサブスクリプションサービスsarasubを提供している。契約満了後に食器は回収され、できる限りリユース(再利用)・リペア(修理)・リファービッシュ(再製造)を行い、使えなくなってしまったお皿もリサイクルすることで、食器の循環を目指している。
環境に配慮した食器を調達する
レセプションなどのパーティーシーンではブッフェ形式が取られることが多い。大量の取り皿を準備し、補充したり洗浄したりするには人手がかかる。一方で、使い捨て食器では廃棄が増える。そうしたなかで便利なのが土に還る素材から作られたWASARAだ。使用後は堆肥化し自然界へと循環させることが可能だ。
まとめ
いかがだっただろうか。大前提は「廃棄物や汚染をなくす」ことだ。そのために、できるだけ長く使える資材を調達したり、廃棄が出ない工夫をしたりすることが重要となってくる。サプライヤーの中には環境に配慮した商品開発に注力している会社も多くなってきている。また、一部では再開している展示会もあるので、まずは自社に合ったサステナブルな商品を探してみるのもいいだろう。
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