2015年9月に国連で採択された、SDGs(持続可能な開発目標)。2022年4月に大手広告代理店・電通が公開した「SDGsに関する生活者調査」によると、SDGsの認知度は年々顕著に高まっており、積極的にSDGsに取り組む企業に対しては「イメージが良くなる(40.0%)」「好感が持てる/応援したくなる(35.2%)」「信頼がおける(26.6%)」などと評価が高いことがわかった。また同調査では、SDGs実践意欲が高い層のなかでも、実践アクションとして「ヴィーガンやプラントベースなど、肉や魚を控えて植物性食品を消費する」と回答したZ世代の割合が、他の世代に比べて相対的に高かったということもわかっている。今後、発信力の高いZ世代によって、プラントベース(植物性)フードへの注目がより高まっていくだろう。
そうしたなか、ザ・キャピトルホテル 東急にて、食に関するサステナブルな取り組みの発信とその促進を目的としたイベント「サステナブル テーブル」が2022年5月15日に開催された。シリーズ形式で展開を予定しているイベントの第1章は「プラントベースフード」がテーマ。料理を手がけるのは、日本サステイナブル・レストラン協会のプロジェクト・アドバイザー・シェフでONODERA Groupエグゼクティブシェフである杉浦仁志氏と、ザ・キャピトルホテル 東急の総料理長/副総支配人である曽我部俊典氏。当日は、両シェフによるトークセッションやSDGsの観点を織り交ぜたプラントベースのランチコース料理に加え、食におけるサステナビリティの重要性や、プラントベースフードに期待される持続可能性への役割についても掘り下げた。
【ONODERA GROUP エグゼクティブシェフ】
杉浦 仁志 Hitoshi Sugiura(写真左)
大阪府生まれ。2009年渡米。料理業界のアカデミー賞とされる“ジェームス・ビアード”受賞のジョアキム・スプリチャル氏のもとLA・NYCのミシュラン星付きレストランで感性を磨き技術を習得。エミー賞授賞式・NYCティファニープライベートイベントをはじめ、国連日本政府代表部大使公邸で開催された、安倍前総理大臣はじめ各国大統領・国賓関係者のレセプションイベント日本代表シェフとして2年連続責務。現在は“Social Food Gastronomy”と称し食を通じたより多角的な社会貢献活動から持続可能な社会を推進し、日本サステイナブル・レストラン協会プロジェクトアドバイザーを務める。
【ザ・キャピトルホテル 東急 総料理長 兼 副総支配人】
曽我部 俊典 Toshinori Sogabe(写真右)
神奈川県生まれ。大阪の調理師専門学校卒業後、愛媛県のホテルに入社。26歳でフランスに渡り、本格的にフランス料理を学ぶ。帰国後、1987年名古屋東急ホテルに入社。2001年セルリアンタワー東急ホテル「クーカーニョ」シェフへ就任し、2007年「ミシュラン東京’08」一ツ星を獲得。2008年横浜ベイホテル東急 総料理長へ就任し、2017年からは副総支配人も兼任。2019年4月から現職。お客さまの心に残るおもてなしの追求と、絵画をイメージしたメニューの創作など、新しい料理の世界を開拓し続けるほか、後進の育成にも力を注いでいる。
【一般社団法人 日本サステイナブル・レストラン協会】(企画・協力)
日本サステイナブル・レストラン協会は、食のアカデミー賞と称される「世界のベストレストラン50」でサステナブル・レストラン賞の評価も行う英国本部と連携し、気候変動や森林破壊などの地球環境問題や人権・労働問題などのグローバルなサステナビリティの課題解決を行うために、サステナビリティの格付けやキャンペーンを実施。サプライヤー、飲食店レストラン、消費者コミュニティの構築を通して、フードシステムの課題解決に取り組み、食の持続可能性を推進している。
食を通したサステナビリティを幅広く発信したい
コロナ禍以前より、食を通したサステナビリティの発信を計画していた曽我部料理長。今回、満を持しての開催が決まり、まず顔が浮んだのが日本におけるヴィーガン料理の第一人者である杉浦シェフだったという。すぐに連絡を取り、賛同を得たことで今回のイベントが実現した。
曽我部料理長「SDGsといっても大変幅が広い。今後、シリーズ形式で発信していくなかで、まずは第1回目として『プラントベースフード』をテーマにヴィーガン料理とノンアルコールドリンクをご提供いたします。」
杉浦シェフ「今回のイベントは、ヴィーガン料理を提供するというより、日常のなかで肉や魚を召し上がりつつ、野菜に対しての意識を高める機会にしていただければと思っています。食の多様性が重要視されつつあるなかで、植物性食品がいかに環境負荷が少なく体にも優しいか、体感していただきたいです。」
サステナブルなライフスタイルの選択肢“プラントベースフード”
また、今回は一般社団法人 日本サステイナブル・レストラン協会が企画協力をしている。代表理事・下田屋毅氏より、同協会の活動やプラントベースフードの重要性についてのスピーチも行われた。
下田屋氏「日本サステイナブル・レストラン協会(SRA-J)は、持続可能な食の循環を実現させることを目的に2010年に英国で設立された団体の日本支部です。サステナブルなフードシステムの実現に向けて、レストランやサプライヤーの皆さまと一緒に、サステナビリティの推進に取り組んでいます。当協会のレーティングは、食のアカデミー賞として知られる『世界のベストレストラン50(The World’s 50 Best Restaurants)』の評価指標にも使われています。」
下田屋氏「レーティングでは、『調達・社会・環境』の3つの観点を各10項目に分けて調査を行うのですが、そのうちの一つにヴィーガンやプラントベースフードを含む『より多くの野菜とベターミートの使用』という項目があります。畜産業が全て悪いわけではありませんが、工業畜産などにより、気候変動をはじめとする温室効果ガスの排出、多くの水や土地の使用、抗生物質やホルモン剤の過剰使用による健康被害や土壌汚染、森林破壊など、さまざまな影響があります。
野菜に比べ、食肉の生産は環境負荷が高いとされており、環境配慮の観点から食肉を避ける選択肢としてヴィーガンやプラントベースがあります。お肉や魚や乳製品など動物性のものを全て避けるヴィーガンとまではいかなくても、動物性のものを減らし積極的に植物性の食品を取り入れるプラントベースというライフスタイルを進めていくことで、健康的にも環境的にも良い食生活を送ることが大切だと思います。」
プラントベースフードによるランチコース料理
曽我部料理長「本日の料理は、杉浦シェフの力も借りながら『ザ・キャピトルホテル 東急』のヴィーガン料理がどうあるべきか、知恵を合わせて作っております。通常のフレンチのコースで魚料理になる部分を杉浦シェフが、肉料理になる部分を私が担当しました。正直なところ、フルコースの流れのなかで皆さまにご満足いただけるメイン料理にするのはとても難しかったです。」
杉浦シェフ「タルトは全粒粉を使い、バターも卵も使わず作りました。グリーンピースの味を引き出すためにレモンと合わせることで、咀嚼するうちに豆の味わいに爽快感が加わります。」
曽我部料理長「アメリカンチェリーとトマトの一皿は素材の風味を活かし、赤の色合いもお楽しみいただけたら。温かいお粥には、5日間発酵させた発酵発芽玄米を使っています。」
杉浦シェフ「見た目はブーケをかたどったガストロノミー的なデザインですが、中身は精進料理の要素を盛り込んでいます。豆腐の白和えや5種類の根菜に柚子で風味付けをしています。ソースは、ヴィーガン料理によく使用されるタヒーニというソースを、ごまのペーストや昆布だし、甜菜糖を使って日本料理風にアレンジしました。」
曽我部料理長「今が旬のホワイトアスパラガスには卵を使用していないマヨネーズソースをかけています。ホワイトアスパラガスの下の部分を無駄にしないようピューレ状にし、青リンゴピューレと合わせてエスプーマにしています。」
杉浦シェフ「玉葱は、加熱することで様々に変化する味わいが特徴。咀嚼をするなかで素材の風味をより味わっていただけるよう、それぞれの食材の食感にもこだわっています。上に乗せた根菜のチュイルは、野菜のでんぷん質だけで固めており、卵もバターを使用していないヴィーガン仕様です。小麦粉も使用していません。」
曽我部料理長「根セロリは、私の通常の料理にもよく取り入れている食材。その根セロリを大豆ミートや紅芯大根、自家製チャツネなどと重ね、パンで包んで蒸し焼きにしています。イタリアンパセリとコリアンダーの鮮やかなグリーンのチュミチュリソースをたっぷり合わせて召し上がっていただきます。」パンをカットする様子が正面のモニターに映し出されると、その断面の美しさに会場からは拍手が上がっていた。
安里哲也シェフ「旬の枇杷を使ったコンポートに、調理の際に出た皮も粉末にしてプレートの縁にあしらいました。横に添えたアイスクリームには乳製品ではなく甘酒を使っています。」
コーヒーは、世界各国3000近くの農園を見極め、公正・公平な取引として直接取り扱う「ミカフェート」社のもの。戦争を乗り越え、40年ぶりに再建されたルワンダの農園で栽培されたコーヒー豆を使用しているという。
まとめ
注目度の高まっているプラントベースフードだが、SDGs・サステナビリティと関連して重要だと言われているにもかかわらず、なぜプラントベースフードを推進する必要があるのか、その背景を含めて理解がされておらず、また食事それ自体もまだまだ一般的には淡白で物足りないイメージを持つ人も多いかもしれない。しかし、今回のイベントを体感してみて、プラントベースフードを自分達の日頃の生活で実施・推進する重要性の理解とともに、コース料理一皿一皿の食べ応えと、素材を活かした多種多様な味わいに驚かされた。また、アートのように仕上げられた料理の美しい見た目も、コース全体の満足感を大いに高めていた。今すぐサステナブルなことに取り組みたい気持ちがありつつも、どうしてもどこか無理や我慢を重ねることで成り立つイメージがある。一人ひとりが無理なく、長期的に取り組みを続けるためには、今回のコース料理のような「美味しさ」「健康」「美しさ」との共存が必要なのではないだろうか。
ザ・キャピトルホテル 東急では、2022年8月に「食品ロス」をテーマにサステナブル テーブルの第2章を開催予定だ。なぜ昨今食品ロスが問題となっているのか、その根本的な理由を理解する機会を提供し実践へとつなげる機会となることを考えている。そしてその食品ロスの問題のいくつかを理解するために、品質に問題がないにもかかわらず、供給量の過多や規格外という理由で取り残されてしまった水産物や野菜を直近で仕入れ、当日は曽我部料理長と杉浦シェフがこれらの新鮮な食材を使用して、ほぼ即興でコース料理に仕立て上げるという。同時に、宿泊付きのプランも企画されており、イベント限定の特別価格で利用することができる。
ホテルだからこそできるサステナブルな発信。ザ・キャピトルホテル 東急の行う、今後の取り組みにもぜひ注目したい。
【参考サイト】 ザ・キャピトルホテル 東急
【参考サイト】 【ザ・キャピトルホテル 東急】食で地球の未来を拓く「サステナブル テーブル」持続可能な美食の探求 ~第1章 プラントベースフード~
【参考サイト】 【ザ・キャピトルホテル 東急】食で地球の未来を拓く「サステナブル テーブル」持続可能な美食の探求 ~第2章 食品ロス~
【参考サイト】 電通、第5回「SDGsに関する生活者調査」を実施