ゼロウェイストな購買方法として、量り売りが注目されている。その特徴は、消費者が持参した容器に商品を詰めるため、包装紙などのゴミが出ないサステナブルな販売方法であることだ。
飲食店で量り売りできるものや押さえておきたいポイントのほか、量り売りに取り組むメリット、実際の導入事例を紹介しよう。
量り売り(バルク販売)とは
量り売り(バルク販売)とは、消費者が持参した容器に商品を詰める販売方法のことをいう。
商品を包装しないためプラスチックなどのゴミが出ないので、環境への負担が少なくゼロウェイストの考え方につながる。ゼロウェイストとは「ゴミをゼロにする」ことを目標に、廃棄物をできるだけ減らす活動を指す。大量生産・大量消費への反省から世界中に広まっている活動だ。
近年では、SDGsの影響や環境問題への意識の高まりがあるため、バルクショップ(量り売りをする店)が全国的に増えつつある。
扱う商品のすべてが量り売りという「専門店」から、店の一角に量り売りコーナーを設置する小規模なものまで、店ごとに展開方法が異なる。
飲食店で量り売り(バルク販売)できるもの
飲食店で量り売りできるものは、店内で提供しているメニューや仕入れた食品・雑貨など、さまざまである。日用品・雑貨についての許可・届出は不要だ。
食料品の量り売りの許可や届出については、販売方法や規模、取り扱う品目や法改正などで対応が異なる。基本的な内容について次の章で述べるが、実際に取り組む際には所轄の保健所に確認が必要である。
飲食店営業の許可で量り売りできるもの
飲食店営業の許可を取得している場合は、店内のメニューとして出している食品は基本的に量り売りが可能だ。
ただし、取得している許可が令和3年6月1日以前の「旧法に基づく飲食店営業」の場合、取り扱う品目によっては、新たに「新法に基づく飲食店営業」の許可に切り替えることが必要となる。
旧法に基づく飲食店営業の許可で取り扱えない品目例は以下の通り。
- 菓子類(パン・ケーキなど)
- ソフトクリーム
- 食肉製品(焼豚・ローストビーフなど)
法改正の前後によって量り売りできる品目が異なるため、必要に応じて「新法に基づく飲食店営業」の許可に切り替えよう。
飲食店営業の許可以外に必要な許可や届出
量り売りで取り扱う商品によっては、飲食店営業の許可以外にも、許可や届出の必要なケースがある。
たとえば、店内でメニューとして提供していないが、生肉を量り売りしたい場合などは、食肉販売業(未包装品の取扱い)の許可が必要だ。
【許可が必要な一例】
- 食肉販売業(未包装品の取扱い)
- 魚介類販売業(未包装品の取扱い)
また、届出が必要な例としては、店内でメニューとして出していないものの、地元でとれた野菜を量り売りする場合だ。
【届出が必要な一例】
- 乳類販売業
- 野菜果物販売業
量り売りする商品や法改正により必要な許可や届出は異なるため、量り売りを導入するまえには、所管の保健所に確認しよう。
飲食店が量り売り(バルク販売)に取り組む魅力やメリット
飲食店が量り売りを行うことの魅力やメリットについて解説する。いち早く量り売りを取り入れることで、ライバル店との差別化を図れるだろう。
ゼロウェイストやSDGsへの取り組みをアピールできる
量り売りは、ゴミをゼロにするという目標に向けてできる限り廃棄物を減らす「ゼロウェイスト」の取り組みや、SDGsの「持続可能な生産と消費」の考え方とつながる。
量り売りを導入することによって、ゴミを削減し環境問題に対して意識的に取り組んでいることを発信すれば、飲食店にとって効果的なPRになりそうだ。
また、世界的にSDGsへの意識が高まっているなか、海外の企業では環境問題への取り組み方を株主が評価するケースもある。日本でもその流れを受けて、企業はますます取り組みを推進していくと予想される。
包装にかかるコストを減らせる
量り売りでは、商品を包装する必要がないため、パッケージ作業の労力や材料費が削減可能だ。
包装に関するコストを減らしたぶんを、商品開発や人件費など他のコストに振り分けられることもメリットである。
ただし、企業のなかには個包装した商品を量り売りとして販売するケースがある。その場合、包装のゴミが出るため環境に配慮しているとはいえないことに注意が必要だ。
Z世代の採用に期待できる
人材不足が懸念される現状において、若手の雇用は企業の成長にかかせない。
Z世代は、他の世代と比べてSDGsなどの環境問題に対する意識が高い傾向にある。そのため、
SDGsに取り組む企業に好感を持ち、「その企業で働きたい、製品・サービスを利用したい」と思う割合も他の世代より多いのが特徴だ。
量り売りによってゼロウェイストやSDGsに取り組む企業だとアピールすれば、Z世代の採用が期待できるだろう。
飲食店が量り売り(バルク販売)する際に知っておきたいポイント
容器持参を顧客に周知する
量り売りをするときは、お客さまに容器を持参してもらうか、デポジット容器を購入してもらうことが必要だ。
その際に、お客さまが毎回デポジット容器を購入していると、ゴミ削減の意図とずれてしまう。容器を繰り返し使うことがゼロウェイストにつながることを周知して、容器持参を心がけてもらおう。
衛生管理に務める
食品を量り売りする場合には、衛生管理に務める必要がある。とくに調理したものや生肉などの生鮮食品を販売する際には、食中毒が起きないよう細心の注意を払わなくてはならない。
以下に、食品を量り売りする際に確認すべき一例を挙げる。
- 量り売りに適したメニューか
- 十分加熱しているか
- 適切な温度管理か
- すぐに食べるよう周知しているか
お客さまが持参した容器に入れても衛生面において問題のない食品かどうかを確認してほしい。
食物アレルギーの原因になる食品の表示に留意する
量り売りの際に、食物アレルギーの原因となる食品について表示の義務はない。しかし、健康被害防止のために食物アレルギーのあるお客さまへ情報提供をするのが望ましい。
食物アレルギーの原因となるものが入っている食品には、それらが表示されたシールを販売時に貼るなどの対策が大切だ。
「量り売り」(バルク販売)と「詰め替え」の違いを認識する
量り売りとは、お客さまが持参した容器に希望の商品・量を販売することだ。一方、酒税法上の「詰め替え」とは、酒類販売業者等が仕入れた酒類をあらかじめ別の容器に小分けして販売することである。
量り売りは、お客さま持参の容器にその場で商品を入れる販売方法のため、事前に小分けして販売する詰め替えとは、法令上の扱いが異なることを押さえておこう。
量り売り(バルク販売)の8つの事例を紹介
飲食店でも取り組める量り売りの事例について紹介する。日本では飲食店での量り売りの事例が少ないため、いち早く導入すれば他店と差をつけられるだろう。
1. TRIODE
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「TRIODE(トリオード)」は、韓国・江南にあるバルクケーキのカフェ。100g以上から食べたい量を注文できるため、食品ロスにもつながる。
スクープで取り分けたケーキを好みのトッピングでアレンジする。フルーツやハーブなどがちりばめられていてフォトジェニックだ。
SHIBUYA109 lab.が発表している「Z世代女子が選ぶ2024年のトレンド予測」では、カフェ・グルメ部門で「量り売りケーキ」がランクインしていることから、今後日本にもバルクケーキカフェが増えると予想される。
2. OIL&VINEGAR レストラン瑞穂
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東京都目黒区にある「OIL&VINEGAR(オイル&ビネガー) レストラン瑞穂」は、エキストラバージンオイルやフレーバーオイル、ビネガーをコンセプトにしたレストランだ。
料理にはIOC(インターナショナルオリーブ協会)が定めた世界基準を満たすエキストラバージンオイルやフレーバーオイル、ビネガーを使用する。
食事中に気に入ったオイルとビネガーは、量り売りのボトルで購入可能である。オイルやビネガーを活かした料理を提供するレストランで導入しやすいだろう。
3. 斗々屋 京都本店
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京都府上京区にある「斗々屋 京都本店」は、さまざまな食材を扱う量り売り専門のスーパーだ。ゴミを出さないというゼロウェイストの経営方針は飲食店でも参考になる。
斗々屋では「ゼロウェイスト・レストラン」という、食品ロス削減のために店内の食材を使っておすすめ料理として提供したり、新たに保存食を作ったりして販売している。ゼロウェイスト・ショップのオンライン講習会もあるので、サステナブルな経営を目指す方には受講がおすすめだ。
4. Liquor Shop NIGHT OWL
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東京都渋谷区の「Liquor Shop NIGHT OWL(リカーショップ ナイトオウル)」は、クラフトビールなどの酒類を量り売りしている。樽生サーバーから量り売りできる商品は、クラフトビール各種やシードル、ワインなど。
お客さまが持参した炭酸対応容器を、充填前には必ず洗浄とアルコール消毒を行うことで、衛生面でも配慮している。同店では、クラフトビールの量り売り用の容器や個人宅でも使えるサーバーも販売中だ。
飲食店でも提供しているビールや日本酒、ワインなどの酒類を量り売りすれば、比較的取り組みやすいだろう。家飲み用として購入につなげれば、客単価アップが期待できる。
5. 職人醤油 松屋銀座店
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東京都中央区の「職人醤油 松屋銀座店」は、日本全国から選びぬいた100種の醤油を販売している。
量り売りするのは、火入れをせず、蔵元で搾ったそのままの生揚げ醤油3種。「ここでしか買えない」という希少性がポイントだ。要冷蔵で1ヶ月を目安に使い切ることをお客さまに周知している。
飲食店では地元特産の醤油を使ったメニューを店内で提供することで、気に入ってもらえた場合にお土産として購入してもらえるだろう。
6. Groovy Nuts 中目黒店
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東京都目黒区にある「Groovy Nuts(グルービーナッツ)」はナッツ専門店として、希少品種や最高品質のナッツを量り売りする。
40種類におよぶ豊富なナッツは、すべて50gあたり400円の均一価格のため、選びやすい。お客さま自身で袋詰めを行う場合、明快な価格設定にしたほうが購入につながりやすいという事例である。
7. L’ABEILLE 荻窪本店
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「L’ABEILLE(ラベイユ)」は東京都杉並区にある蜂蜜の専門店として、国内外から選びぬかれた蜂蜜を販売している。「ミツバチが飛び交う美しい花畑や森を守り伝えてゆく」というサステナブルな経営哲学を掲げる。
蜂蜜の量り売りは100g単位から可能だ。有料のプラスチック容器もあるが、プラスチック削減のため容器を持参することを推奨している。カフェなどでスイーツやドリンクを提供する際に蜂蜜を使用し、気に入ってもらえれば量り売りとして購入してもらえるだろう。
8. エコストア アトレ恵比寿店 リフィルステーション
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東京都渋谷区にある「エコストア アトレ恵比寿店」は、ニュージーランド発の老舗ナチュラルトータルケアブランドのショップだ。洗濯用洗剤、ハンドウォッシュ、ボディウォッシュなど16種類が量り売りできる。ゴミ削減の観点から容器の販売を行っていない。
飲食店であれば、店内の一角に日用品や雑貨の量り売りコーナーを設けてもよい。ただし、臭いに敏感なお客さまもいるので、無香料の商品を選ぶなどの注意が必要だ。
量り売り(バルク販売)でゼロウェイストな飲食店づくりを実現しよう
飲食店が量り売りに取り組めば、ゼロウェイストにつながり、持続可能な社会への一助となる。
2024年3月現在、量り売りを実施している飲食店はまだ多くはないため、早期に導入すれば他店との差別化を図れる。また、ゼロウェイストに向けて取り組んでいる飲食店としてブランディングすれば、新規顧客の開拓やZ世代の採用につながるだろう。
ゼロウェイストに貢献できる量り売りを積極的に取り入れて、サステナブルな飲食店づくりを実現しよう。
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【参照サイト】 東京都保健医療局:「飲食店向け食物アレルギー対策について」
【参照サイト】 SHIBUYA109 lab.トレンド予測2024
【参照サイト】 TRIODE
【参照サイト】 OIL&VINEGAR レストラン瑞穂
【参照サイト】 斗々屋 京都本店
【参照サイト】 Liquor Shop NIGHT OWL
【参照サイト】 職人醤油 松屋銀座店
【参照サイト】 Groovy Nuts
【参照サイト】 L’ABEILLE
【参照サイト】 エコストア アトレ恵比寿店リフィルステーション