近年、地球温暖化や海洋汚染、森林破壊など、年々深刻化する地球環境問題が顕在化している。こうした諸課題の解決策として、新たな経済システム「サーキュラーエコノミー」に注目が集まっている。

これまで当然としてきた大量生産・大量消費・大量廃棄の仕組みから脱却し、これまで廃棄物とされてきたものを資源と考え、活用することで資源を循環させる。持続可能な消費への意識が高まる社会のなかで、循環型の仕組みづくりが求められている。

そうしたなか、2022年7月、老舗陶磁器メーカーの「ニッコー株式会社」は、捨てられる食器から生まれた肥料「BONEARTH(ボナース)」を使用し、本格的な野菜の栽培を実現した。第一弾として収穫されたトウモロコシは、2022年7月29日よりジェネラルストア「LOST AND FOUND」にて、期間限定で販売された。また、販売初日には人気料理家・寺井 幸也氏によるクッキングライブも配信された。

今回のコラムでは、BONEARTH開発の経緯やトウモロコシ栽培の様子など、販売に至るまでの過程や、クッキングライブで配信されたレシピについてお届けしたい。

目次

捨てられる食器から生まれた「BONEARTH」とは

「BONEARTH」とは、世界初の食器をリサイクルした肥料のこと。ニッコー株式会社は、同社が提供するボーンチャイナ製食器(NIKKO FINE BONE CHINA)の原料に約50%含まれる、「リン酸三カルシウム」が肥料として有効なことに着目し、開発をスタートさせた。そして、生産過程で生じる規格外品を肥料としてリサイクルする技術を確立。2022年2月10日、農林水産省より肥料としての認定を受け、同年4月より販売を開始した。

現在国内で使用されているリン酸は、その多くを海外からの輸入に頼っており、輸入価格の高騰により肥料価格は大幅に上昇している。BONEARTHは、これまで欠けや割れで産業廃棄物として廃棄せざるを得なかった食器をリン酸肥料として活用した、サステナブルな肥料だ。廃棄食器を資源として国内で循環させることで、埋め立てなどの廃棄物削減や、リンの輸入や輸送によるCO2の削減が期待できる。さらに、現存する肥料と比較して環境流出しにくいため、環境負荷が生じる心配もない。

BONEARTH開発のきっかけ
〜ニッコーが目指すサーキュラーエコノミーの実現〜

石川県金沢市で1908年に創業したニッコー株式会社は、100年以上にわたり上質な陶磁器づくりに取り組んできた。職人が一つずつ丁寧に仕上げた食器は、美味しい料理が盛り付けられることで初めてその真価を発揮する。

しかし、近年では気候危機や土壌汚染、プラスチックによる海洋汚染など、様々な環境破壊が原因で、食の未来は危険にさらされている。豊かな食を守ることができなければ、その食を彩る食器の活躍の場は失われてしまう。こうした現状を背景に、同社は「100年後の、循環する未来をデザインする」をテーマに掲げ、陶磁器事業を中心に「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の原則に沿った取り組みを進めてきた。

大量生産・大量消費・大量廃棄の現代の消費活動から、持続可能な循環社会への移行が求められている今、“食器としての役目を終えた後も廃棄せずに、新たな形で活用できないか”という社員の想いから開発がスタートしたのが、BONEARTHだ。

中本農園でのトウモロコシ栽培

発表以来、テレビや新聞、雑誌などさまざまなメディアで取り上げられてきたBONEARTH。いよいよ5月には、石川県白山市の「有限会社 中本農園」にて、BONEARTHを使ったトウモロコシの栽培がスタートした。栽培する品種は「ゴールドラッシュ」。粒皮が柔らかく、さわやかな甘みで食感が良いのが特徴だという。

この「BONEARTHトウモロコシ」の成長の過程と収穫までを追っていきたい。

(左)5月19日 散布 / (右) 5月20日 苗植え

2022年5月19日、BONEARTHを散布することから栽培は始まった。中本農園の畑は11ヘクタールもあり、毎年トウモロコシだけでも30万本が収穫される。その量は、石川県のスーパーに並ぶトウモロコシの大半を占めるほどだという。今回は、その広大な畑のうち、もともと水田だった約2,900平方メートルの範囲にBONEARTH120kgを散布。その翌日には、苗植えを行った。同農園社長の中本弘之氏によると、手作業で行う苗植えは、農業機での種植えに比べて手間がかかる一方で、種で植えるより大きさの揃ったトウモロコシが収穫でき、収穫率も上がるのだという。

(左)5月26日 / (右)6月22日

苗植えから約1ヶ月後の6月22日、苗は早くも大きく成長。トウモロコシの栽培では、水を与えすぎないことが重要で、畑の表土が乾ききった状態でも問題ないという。

(左)7月6日 受粉中 / (右)7月27日 収穫

7月6日には、出穂。この穂から花粉が下に落ち、めしべに付着することで、受粉が起き、実ができる。そして、苗植えから約2ヶ月が経過した7月27日、ついに約8,000本の「BONEARTHトウモロコシ」を収穫。収穫したトウモロコシは中本農園から出荷され、石川県内で販売された。

また、ニッコー株式会社では、全国各地の社員約600人全員に対し、BONEARTHトウモロコシの社内配布を行った。社員からは「今まで食べたトウモロコシのなかで一番甘かった」「シャキシャキとした食感で美味しかった」「自分たちの作る食器が生まれ変わったようで嬉しい」などの感想が寄せられたという。

「夏のご馳走クッキング・ライブ」配信 

さらに、収穫したBONEARTHトウモロコシのうち約200本は、ニッコー株式会社の運営するジェネラルストア・LOST AND FOUND TOKYO STOREにて、2022年7月29日から31日にかけての3日間限定で販売された。

販売初日には人気料理家・寺井 幸也氏によるクッキングライブが配信され、5000人以上の視聴者を集めた。

クッキングライブでは、BONEARTHトウモロコシの品種・ゴールドラッシュの特徴を活かした、暑い夏にぴったりのエスニックメニュー2品が紹介された。どちらも15分程度で作れる手軽なメニューだ。LOST AND FOUNDのサイトでは今回のメニューのレシピが公開されている。

・トウモロコシと枝豆の香草たっぷりエスニックチャーゾー

・トウモロコシの水餃子ピリ辛春雨スープ

メニューが盛り付けられたのは、BONEARTHの原料であるファインボーンチャイナ製の食器。廃棄されるニッコーの食器が肥料になり、その肥料を使って作物を栽培、収穫された作物が食材として料理され、再びニッコーの食器の上に戻ってくる。今回の一連の取り組みは、ニッコー株式会社の目指す、循環型社会を体現したものだといえるだろう。

編集後記

従来の大量生産・大量消費・大量廃棄というリニア型のビジネスモデルが、限界を迎えつつある。そうしたなかで、ニッコー株式会社は「陶磁器」、そして「食」を取り巻くバリューチェーン全体において、よりサステナブルな循環型の事業の実現を目指し、活動を進めている。BONEARTHの効果・活用方法に関しては、専門家やパートナーを交えて、今後も引き続き研究を続けていく予定だ。

一方で、同社ではサプライチェーン全体として循環型のビジネスモデルを実現するためには、自社のみの取り組みでは不十分だと考えている。私たちを取り巻く食の未来の存続が危ぶまれる今、これからも豊かな食を提供し続けたいと考えるレストランやホテル、生産者など、食に関わる業界が結束して食器の循環に取り組むことで、業界全体の変革が実現するのではないだろうか。

【参照記事】

世界初、捨てられる食器から生まれた肥料「BONEARTH」。洋食器の老舗ニッコーが商品化

BONEARTHについては、note「ボナース研究室」で日々発信中

【関連サイト】 ニッコー株式会社公式サイト
【参照サイト】
環境省:環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書
【参照サイト】寺井幸也さんの夏のご馳走クッキング・ライブレポート

table source 編集部
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table source 編集部では、サステナビリティやサーキュラーエコノミー(循環経済)に取り組みたいレストランやホテル、食にまつわるお仕事をされている皆さまに向けて、国内外の最新ニュース、コラム、インタビュー取材記事などを発信しています。
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