
動物愛護の観点や環境問題に対する意識の高まりから、「アニマルウェルフェア」や「アニマルフレンドリー」の考えが広まりつつある。日本でも2021年8月に、内閣府の食堂で使用する卵が100%ケージフリーになったことが話題となった。ケージフリーとは、平飼いや放し飼いなど、鶏をケージの中に入れずに飼育する方法だ。今回は、飲食店のサステナビリティ推進に大きく影響するアニマルウェルフェアの考えを踏まえた調達について、基礎知識を紹介したい。
アニマルウェルフェアとは
世界の動物衛生の向上を目的とする政府間機関である国際獣疫事務局(OIE)の勧告において、「アニマルウェルフェアとは、動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」と定義されている。また、OIEは「5つの自由」という指針を示している。「5つの自由」とは、「飢え、渇き及び栄養不良からの自由」、「 恐怖及び苦悩からの自由」、「 物理的及び熱の不快からの自由」、「苦痛、傷害及び疾病からの自由」、「通常の行動様式を発現する自由」のことだ。
日本語ではアニマルウェルフェアは、「動物福祉」「家畜福祉」と訳される。家畜を感受性のある生き物として、できる限りなく健康的な生活ができるよう扱う飼育方法のことを指す。アニマルウェルフェアを踏まえて家畜の飼育環境を整えることでストレスや疾病を減らすことができ、結果として生産性の向上や安全な畜産物の生産など、サステナブルな生産につながるメリットもある。
アニマルウェルフェアの現状
家畜擁護団体ザ・ヒューメイン・リーグ・ジャパンによれば、世界では食料として飼育されている動物の94%が工業型畜産の手法を取られているという。工業型畜産とは、限られたスペースの中で家畜を飼育し、コストを抑えながら生産効率を上げようとする農業形態だ。国土面積の小さい日本でも、1戸あたりの飼育頭数が年々多くなっていることが問題視されている。例えば、養鶏業においては1戸あたりの飼養頭数が、ここ10年で約1.5倍に増加している。豚、乳用牛、肉用牛についても増加傾向にあることがわかる。

豚及び採卵鶏の飼養戸数・頭数の累計|農林水産省

乳用牛及び肉用牛の飼養戸数・頭数の累計|農林水産省
日本における家畜の飼育方法について
採卵鶏の飼育方法にはアニマルウェルフェアの考えに近い順に「放牧」「平飼い」「エンリッチドケージ」「バタリーケージ」の4つの飼い方がある。公益社団法人畜産技術協会の報告によれば、日本の92%の採卵養鶏場が「バタリーケージ」を採用しているという。
農林水産省では、運動不足解消などの牛にとっての快適性だけでなく、生産性についても利点があることから、放牧の実施を推奨している。しかし、2019年の放牧頭数は、乳用牛で約27万頭と総飼養頭数の約20%で、肉用牛で約11万頭と総飼養頭数の約17%であり、繋ぎ飼いなどの牛舎内での飼育が主流であることがわかっている。
また、母豚が出産する際に使用される「妊娠ストール」をご存知だろうか。母豚たちの受胎・流産の確認や給餌管理がしやすいという理由で用いられるストールは、豚一頭がピッタリ入る大きさで、豚たちは座る・寝る・立つ以外はできず、転回することさえできない。一般社団法人日本養豚協会の2018年度の調査によれば、養豚生産者の91.6%が妊娠ストールを使用しているという。
アニマルウェルフェアを実現する飲食店
狭い環境での飼育では、動物たちは運動不足や日照不足となり、ストレスを感じてしまう。動物たちの日常的な健康状態の悪化に加え、飼育密度が高くなればなるほど、伝染病が広まるリスクも懸念される。また、飼育に薬剤を用いる場合は、動物だけでなく飼育する人間側にも身体的影響を及ぼす可能性がある。
こうした問題に対して、行動を起こしている飲食店があるのでいくつか紹介したい。
ストレスフリーな牛の飼育を追求するHUGO DESNOYER
「世界一の肉の目利き」と評される肉職人ユーゴ・デノワイエは、牛にストレスを与えない「アニマルウェルフェア」の飼育方法を実践している。ユーゴは、「牛本来の生活」を実現するため、牧草や飼料に化学肥料を使用せず、牛一頭につき1ヘクタールの広いスペースを確保した自然放牧を選択。さらに、と畜直前までクラシックを聞かせ温かいシャワーを浴びせるなど、極力ストレスを与えないようにしているという。飲み水は湧き水を使用し、その成分を何回も検査して最適な水を選定。そうしてできた肉は多くの著名人や有名レストランから指名買をされている。
豚を健康に育てる 平田牧場
一般的な豚舎では生産効率を高めるために、妊娠ストールを使用するなど過密状態で飼うケースが多く、抗生物質を多用することもある。平田牧場は豚の健康を最優先に考えるため、通気性がよく、豚が自由に歩き回れる広さの開放型豚舎を採用。一頭あたり約1㎡の面積が確保されており、ストレスを与えることなく、のびのびと育てることをモットーとしている。また生後120日以降は原則として抗生物質は使用せず、飼料には動物性たんぱく質を一切含まず遺伝子組み換えがされていないない、とうもろこしや大豆粕など植物性中心の指定配合飼料で育てているという。
100%ケージフリー宣言をするYum! Brands, Inc.
KFCやピザハットなどを運営するレストランチェーンYum! Brands, Inc.(ヤム・ブランズ)は2026年までに、米国、西ヨーロッパなどの25,000店のレストランで使用するすべての卵を100%ケージフリーに移行すると宣言している。飼育密度は地域ごとに考慮しており、手入れの行き届いた広い環境で飼育するとしている。また、健康的な成長と運動能力を高めることを目的として、地域ごとに飼育密度を見直すという。その他、部屋の明暗を適切に調整することや、適切な換気、栄養バランスのとれた食事、制限のない清潔な水を得ることができるよう飼育環境を整えている。
日本でも井上養鶏場やセオリファームなどがケージフリーの手法をとっている。また、最近ではコストコやイオンなどのスーパーマーケットでもケージフリーエッグを見かけるようになっている。
まとめ
海外を中心に増えているヴィーガンの中には、命をいただくことに抵抗があり、肉や卵を食べない選択をする人もいる。一方で、飲食店では日々のメニューに欠かせないこともあるだろう。飲食店がアニマルウェルフェアに配慮された食材を導入しお店で提供することは、持続可能な畜産業を広める一手になるのではないだろうか。
【関連記事】
【参照サイト】 アニマルウェルフェアについて|農林水産省
【参照サイト】公益社団法人畜産技術協会
【参照サイト】ニッコクトラスト、政府機関食堂でケージフリーエッグを使用へ
【参照サイト】HUGO DESNOYER
【参照サイト】Yum! Brands, Inc.
【参照サイト】平田牧場
【参照サイト】認定NPO法人アニマルライツセンター
【関連記事】飲食店から広げる、ケージフリー・エッグの選択肢【Pizza 4P’s「Peace for Earth」#03】